第22話 命の捕り合いだからね、社会なんて

「と、いうことで、


人の心を動かす言葉声かけ、ポップアイディア、ビラアイディア、国語。

確実な数の管理、補充、ビラ、ポップ作成、数学。

化学的根拠に基づき唐揚げを悪魔的に美味しくさせる、理科。

海外勢へのプッシュ、英語。

質の良い接客、道徳。

社会情勢、地域柄、人の動き等を統計に見た戦略、僕、社会。


にするよ。いいかみんな、我が軍に攻め入ってきたことを泣いて懺悔するほどに追い込もう。負ければ軍は滅びる、つまり店は無くなる。これは命を捕り合いだからね」




バチバチに決まった笑顔で社会さんが言った。この人前世戦国時代の猛将なのかな。全員出勤の初日朝。あの国語さんですら半分寝ながらレジに立っている。しかも本を持っていない。これは快挙だ。




「国語さん安心しました。こういう時は流石に勤務開始時間からレジに立ってくれるんですね」



僕は至極当たり前のことを言った気がするけどまぁいい。



「そりゃぁよぉ…起床予定時間の3時間前から社会さんの声が録音された目覚まし置かれたらさぁ…早く目覚めてぇと思ったよ流石に」



あぁ…だからそのクマか…。これ以上この件には触れない方が良さそうなので僕は愛想笑いだけを送る。



「つ〜かぁ〜…!俺が起きたら物凄いことになってたんだけどよぉ〜〜…!」


「え?」



国語さんが突然ワナワナと震え出す。



「何だあれ何あのポップ!店内掲示!ビラ!俺がめっちゃくちゃいいワードセンスで客の心に刺さるキャッチフレーズをデザインしたっつーのに何この完成形!?数学テメェクソ理系!どんなクソセンスしてたら俺の自由且つ愉快な言葉をこんなただ数式のように並べただけの雑魚デザインにできるんだよ!」




アイディア出しは国語さん、それを器用な数学さんが形にする役割だった。けれどあれだ、完成形は国語さんの思った感じではなかったようだ。僕から見ればとても綺麗に並べられている文字だが、コピーライターを務めた国語さんからしたら遺憾だったようで。




「…そもそもアイディアがPOPにしづらいクソ文系のものダッタ」


「あぁあああ!?名コピーだろうが!“ここからがカー○ルの見てきた世界”いいだろうが!1人に何個も唐揚げを買ってもらうためにカー◯ルという本来視点を交えることのない偉人との接点を庶民に持たせ新世界へボンボヤージュさせるためのグッドコピーだろうが!」


「…数字的なアプローチのない謳い文句なんて見向きもされないし、クソ文系」


「クソ理系ぶっつぶーす!」


「あああああちょっと二人とも!」




だめだ、この二人の相性はやっぱり最悪だ。価値観がまるで違う。喧嘩してる場合じゃないってのに…!



「Please buy 100 pices of fried chickin!(唐揚げ100個買ってくださいッス!)」


「If had that kind of money,I’d give it to you(そんなお金あったら君にあげるよ)」


「そっちでお願いしやす」


「英語さぁん!?」



ああああこれじゃ目新しさで画一的なシャドーマートには…!









「ふふふ♪今日だけで54万も差がついたね♪」


「おーい誰かこの癪に障るガキンチョをつまみ出せ!ここは俺の家なんだよ!」


「確かに国語さんの寝床はありますけど家ではないのでは…」




と思わずツッコミを入れてしまったがそれどころではない。今日の〆時間、シャドーマート美術が再びシャイニングマートに来店する。本日分の売り上げ、経費分等々差し引いて初日で既に54万の差という絶望的な数値が炙り出される。ここまで差があるのは勿論誤発注のせいでもあるが、何より基本的な売り上げがシャドーフローマートの40%ほどしか挙げられていないことが問題だった。



「このまま呆気なく勝っちゃうのかなぁつまんないなぁ♪理科くんもさぁ勝負つく前にこっちに来ちゃってもいいんだよ?」



美術さんは挑発するかのように鼻を鳴らし、理科さんの顔を見た。




「…僕はこのシャイニングフローマートが好きだからここを潰させたくない」


「は?」




思ってなかった返答だったのか美術さんの顔が曇る。




「ふふ、よかったよ理科、昨日から理科らしくなかったから君の意思を確かめられて。そういうことだから“シャドーくん”。僕たちはこれから打倒君たちの作戦会議をやるから、もう正面の小屋に帰ろうね」



社会さんがすかさず美術さんを煽る。僕は背中に凍りつくような波動を感じながら裏へと入った。

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