第20話 社会人になっても売られた喧嘩を買う心は持てよ

さぁどうするか、と考え始めたところで、暫く鳴らなかった入店のチャイムが鳴る。




「た〜のも〜!」




モニターにカラフルが映る。入店してきたのはマッシュルームのような髪型をしたオレンジ色と赤色のグラデーションが目立つ青年。服も青の可愛らしいニットを着用しており、いかにも今時の若者、といった風貌。しかしお客さんと思えない、道場破りのような言葉を発したぞ聞き間違えか?



「え、」



理科さんがんモニターを見て目を大きく見開いた。



「理科さん?」



僕は固まる理科さんに声をかける。




「あん?たのも〜だ?どこの道場破りだテメェ今俺ァ給料の危機を感じてすこぶる機嫌が悪ぃんだよ…喧嘩なら買うぜ激弱だけど英語の馬鹿が」


「テメェ何言ってんだ馬鹿俺は弱くねー!」



一番に出て行ったのは国語さん、英語さん。続いて数学さん、社会さん。そして僕。僕らの姿を見たカラフルな彼はにっこりと笑って、ピョン!とその場で飛び跳ねた。




「どもども〜!お初に御目見しますシャイニングフローマートの皆さん!俺こそが目の前にできたシャドーフローマートオーナーの美術で〜す!」


「「!?」」



驚いた。まさかタイムリーにもライバルコンビニのオーナーがわざわざ挨拶に来るとは。しかもこんな破天荒に。僕は言いようのない胸騒ぎを何となく感じている。




「これはこれは害虫…シャドーフローマートのオーナーさん!わざわざご挨拶に来てくださったんですかご丁寧に!害ちゅ…社会人らしくお土産の一つでもお持ちになられたんですか?そんなお気遣いなく〜」



社会さん、目が笑ってない。あと害虫って言ったよね?




「ふっふ〜挨拶、まぁそんなところかな?俺たちは皆さんに挑戦状を叩きつけに来たんだよぉ」


「あ゛…?」



数学さんの低い声が聞こえる。流石は元ヤクザもん…みたいな感じだ、血が騒いでしまっているよ。社会さんは顔は笑顔なのに覇気がものすごいことになってる。



お構いなしに美術さんは笑顔で続ける。



「にしてもいかにも“ありきたりな店内”。経営アートだよぉ♪いかに鮮やかに客の心を魅了するか、現代社会に疲れた心に水をさすのか。シャイニングフローマート、僕たちと勝負だ」



ビシッと指を差す美術さん。



「何だよテメェいきなりきて…勝負とかふざけたこと抜かすなッスよ」



「ここから1週間の売り上げを競う。犯罪じゃなければどんな手を使っても構わない。僕たちが負けたらあっさりこの土地からは身を引くよ。でも君たちが負けたら…この店は終わり。そこにいる理科くんもちょーだいするね」


「「「「!?」」」」




いつの間にか店内に出てきていた理科さん。いつものように周りに薔薇を散らしておらず、眉を顰めてどこか気まずそうな顔をしている。


「美術…」


「おいナルシー、お前この失礼な奴と知り合いなのぉ」




国語さんが理科さんに問う。ナルシーというあだ名は国語さんがつけた。国語さんしか呼んでいない。



「理科くんがいれば売上貢献に間違いないもの♪ねぇ理科くん、久々に俺と一緒に遊ぼう♪」


「美術…。散々言ったはずだよ、“遊びに人の人生を巻き込んじゃダメだ” って」



理科さんの言葉に美術さんのニコニコ笑顔が消える。



「…。ふーん?まだそうやってつまんないこと言うんだぁ?まぁいいよ。遊びのない仕事がどれだけ退屈で成果を生まないのか思い出させてあげる。勝負、するよね皆さん?」




挑発的な美術さんの態度。いや、こんな勝負するべきじゃない。



「いや、ちょっと待っ…」


「血ィ吐く準備はできてんだろーなぁ?いいか小僧相手に血を吐かせることができるのァ己も血どころか臓器まで吐く覚悟のある奴だけだ」



だめだ!国語さんは挑発に乗るに決まってるよねそうだよね!けど貴方仕事しないよね!



「売られた喧嘩買わないなんてUncoolッスよ、痛い目見せてアメリカの僻地に飛ばしてやらぁ」




英語さんも結構血の気有り余ってるんだよね!乗っちゃったよね!




「…潰ス」



数学さん!うん!期待してなかったけど数学さん!いやでも大丈夫流石に社会さんが…




「わらわらと湧いてきた害虫にバルサンを吹きかけて駆除してあげよう。生まれてきたことを後悔する程に」


「社会さんんんんん!?」


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