第19話 社会人の個性は武器か弱点か

「きゃー!スマイルください!」


「うん、今日は特別だよ子猫ちゃんたち♡」


「「「きゃーー!」」」


「…ありがとうございましたー」




スマイル0円か?マ◯クか?隣のレジで今日もナルシストを爆発させているのは“顔だけはジャ◯ーズ系イケメンの”理科さん。店にはこうして理科さん目当てにスマイルを頂戴しにくる女子たちが現れる。理科さんは全く満更でもなさそうに今日も今日とて薔薇を散らせている。



「はぁ、モテすぎるのも悩みものだよね…!」


「…理科さんていつからそんな風になったんですか…」


「ん?そんな風にとは何やら失礼な言い方だなぁ道徳くん、僕のイケメンさは化学では証明できないところにあるからね。いつから、なんていう科学的根拠を一切介さない発言は一科学的者としてできないよ」



科学者じゃないだろ社不マートコンビニ店員だろ、と心の中で毒を吐く。



「理科さぁんちょっと俺にも女の子の一人や二人紹介してくださいッスよ理科さんばっかりずるいッス!」



英語さんはいつも羨ましそうにハンカチを噛んでいる。僕はそんな光景を横目に見ながら今日も今日とて品出し作業を進めていた。




「…ん?」



いつもなら山積みになったケース4つ分の品物が届くくらいなのだが、何故か今日は…




「な、何じゃこりゃぁああああ!?」



僕は店内を埋め尽くさんばかりの品物の寮に阿鼻叫喚した。









「「「「誤発注ぅうううう!?」」」」




裏にて、オーナーの言葉に反応を同じくする僕らバイト。ちなみに今は絶賛本部の定めたセール中で全員出勤のフィーバータイムだ。僕ら全員のハモリが店内に響き揺れた。



「あぁ〜連日の寝不足の中時発注作業やっとたらシャイニングフロー唐揚げ略してシャフから10パック発注のつもりが1000パック発注してもうたわぁ」


「ものすごい間違え方だけど!?」



英語さんのツッコミが炸裂する。オーナーはヘラヘラしつつもまずいと思っているらしく、冷や汗が床に水溜りを成している。その原因は目の前で真っ黒な笑顔を浮かべている社会さんにもあるだろう。禍々しい魔のオーラを放っている。覇王色の覇気もちのシャ◯クスも唸るんじゃないだろうか。




「ま、ままままままぁ、今はセール中だし!みんなが頑張って打ってくれれば…」


「ふふ…オーナー」


「はい!」



社会さんが口を開き僕らの背筋も伸びる。



「今ねぇ…その絶賛セール中なのにぃ売り上げがイマイチ伸びてないどころか増えてないんですよ…どうしてか分かってますよねぇ…?問題は誤発注だけじゃなく…」


「え、ええええええーとその、あまり直視したくない問題ではあるねんけどぉ…その、目の前に、コンビニが、できた、から…」


「え、目の前にコンビニですか!?」



僕は思わず口を挟んだ。コンビニの経営戦略の一つに“ドミナント戦略”というものがある。近くにコンビニを建て競合他社の防いだり寡占状態を防止するためのものだ。




「へぇ…やってくれるねぇ、社会さん、コンビニの名前は?」



理科さんが眼鏡をクイッと上げながら問う。



「シャドーフローマート…昨日開店したばかり。名前まで僕らシャイニングフローに寄せやがって…喧嘩売られてるってことだよねぇこれ?大手の力で潰していいってことだよねぇこれ?」


「怖っ」


「国語どうしたの?」


「ナンデモアリマセン」


「で…新規開店のコンビニは破格の値段で商品を売りに出すからね。お客さんも勿論目新しいものには目が無い。それ故にセールなのにも関わらずウチの売り上げはビタ止まりしているということ…ね?オーナー…そしてこんな時にフライヤーというある程度消費期限のあるものの誤発注…」


「…どんなタイミングで誤発注してるんデスカ」



数学の一言でKOされたオーナーは地面にうずくまって貝になりたいという始末である。



「ていうかこれだけ店の利益に影響があればみんなの給料カットは免れないよねぇ…」


「「「「えええええ!?」」」」



この言葉には寝転がっていた国語さんも血相を変えて飛び起きた。

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