第16話 社会不適合者の社不理論!
ポツリと落とされた疑問。国語はそれを聞いて数秒考えた後、ものすごく阿呆な顔になった。
「はぁ?金。生きるのには金がいるじゃん。1日8時間週5日とかゼッテー無理だしでも死にたかねーし。世界中の本をまだ読んでねぇ。お前知ってる?偉人って本を残すんだよ。最後読み切った時、誰の伝記にも生きていて全てが無駄だったなんて言ってねぇしそれを俺が検証する必要があんじゃん、でもそのためには金がいる。けど働きたくねぇし、ならこれでよくね?って」
ポカン…、
あまりの答えに数学も思わず阿呆の顔になる。母からの愛を得るために闇仕事に手を染めていた自分が言うのも何だが、そんな適当な理由で仕事するなんてイカレてる、と数学は鳩が豆鉄砲を食らったような顔がやめられなかった。
「はぁ?馬鹿すぎる理由…」
「あ?クソ理系にはこの崇高な文系様の考えがわからぬようだなバーカバーカ!」
「7×6?」
「はッ!?は、っ、8、6!」
「馬鹿スギ。42ダシ」
「テメぇええええ!九九で一番難易度の高い7の段やりやがったな!しかも6のやつ!」
数学は横で暴れている国語の馬鹿さに深いため息をついた。しかし、心の中にあった蟠りがどこかスッと軽くなっていくのを感じていた。煙草の火を足で消し、指の骨をパキパキと鳴らし始める。
誰も自分を認めてくれないと暴れてた日々。どうして生きてるのか解を求め続けた日々。
でも、もしかしたら…そんなものはなかったのかもしれない。
生きたいから生きる。この馬鹿のように。風に吹かれるままに。悔しいけど、何て自由なんだろう。
答えは一つじゃないなんて考えたことなかった。解けない問題なんてないと思ってた。けどそれが、あってもいいのかもしれない。
いつか最後、死ぬ時…その解を導き出すことができたのなら、解のない数式をもう少しだけ追い求めてみてもいいのかもな。
例え望むものが得られなくたって…母からの愛は得られなくたって…優しさでないとわかっていながらそれに縋るのは、弱いダケ。俺は強くなりたい。
「…クソ文系、俺は…お前より1秒でも長く生きてやる」
「は!それは俺の台詞だバーカ!お前の伝記を読むのはッ…俺だぁあああ!」
国語と数学が微積組の群れに突入していく。
打撃音、金属音、火花が散る音、人間達の雄叫び。生きる者たちの抗いの音が、鳴り響いた。
:
「ぷっはーwwマジで生き残ったーww」
快晴の日に訪れるとびっきりの夕焼け。茜空。全身怪我まみれになった国語と数学は爆破があった倉庫近くのコンテナにもたれかかり空を見上げていた。周りには微積組の組員たちがたくさん転がっている。国語は能天気な笑いを零し、横で息を荒々しく吐いているだけの数学に寡黙かよ!とツッコミを入れる。しかし倍返しされムキーッと怒る。自業自得である。
「にしてもお前、意外とやるじゃねーかその怪我で本当にあいつらぶっ飛ばしちまうとは思わなかったぜ、俺の方が強いけど」
「…一撃で数人を片付けるなんて…まぁ並みの使い手じゃないな、俺の方が強いケド」
「あ!?」
「あ?」
お互い譲らない終わらない戦いが二人の間に火花として散っている。フンッと互いに顔を背けるのであった。
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