第7話 でも人の道理は通しておこう
ヤンキーの後ろには籠を持ったおばあちゃんが曲がった腰を痛そうに摩りながら順番を待っていたからだ。あのままではおばあちゃんにヤンキーの大判振る舞いが当たってしまう。おばあちゃんはカゴの中に商品をたくさん入れているし俊敏に避けることなんて不可能。危なすぎる。
「はんっ最初っからそうしてればいいんだよウェ〜〜イ」
ヤンキーは意気揚々と仲間達のところへ、まるでボス戦に勝利でもしたかのように手をあげて自分の力を誇示していた。そして箱の外へ消えてゆく。言いようのない疲労感と焦燥感、無念が混ざり合った。
「お〜何かブザーがビート刻んでやがったな〜文中の孔子が踊るように喋り出したぜ。ってかすげー並んでね?しかもおばーちゃん籠の中パンパンじゃん、しゃーねー、こっちでレジすんぞ〜つってもやるのは機械だけど」
「…」
やっと返ってきやがったこの社不が…しかもトイレで読書してやがった…。ぶちのめしてぇ…。
うん、社会さんが荒むのもわかる気がするな。どうか心を清らかに保って、ドリンクコーナーまで続いてしまった行列を無心で捌いていく。終わった頃には雨もカラッと上がり、店内もすっきりとした。
…と安堵のため息をつく暇もなく、
「すみません警察ですが、未成年とわかっていながらお酒を売ったのはこの店のあなたですか」
…あれ、僕今年本厄だっけ。
レジの前に警察が一人。外には先ほどのヤンキー集団が数人の警察官に取り囲まれて話をされている。さっきまでウェ〜イと僕の前でイキがっていたあのヤンキーはまるで被害者であるかのように僕の方を指差している。大方あいつがいいと言った、とでも吹聴しているに違いない。
「いや、身分証が確認できないと売れないと言ってもあのお客さんが頑なに…!それに暴力的な手段を使おうとして…」
「まぁ、大方そういうことでしょうね。ですが売ってしまったのは事実。店側の責任問題も0ではないです。申し訳ありませんが責任者の方をお店に呼んでいただけますか」
「そ、そう、ですよね…すみません」
ジクリと罪悪感が胸を突き刺す。確かにどんな理由があれ僕がレジを通した。それは間違いない。それに僕がいい加減なことをしたことでオーナーを呼ぶ羽目になってしまった。人に迷惑をかけるといつも、心が押しつぶされそうな感覚になる。
「こいつが!こ、こいつが年齢確認とかも曖昧で売ったから!」
いつの間にかさっきまで外にいたあのヤンキーくんが入店し僕の目の前で喚き始めた。こいつ…見事なまでに責任転嫁してやがる!
「おーいそこの猿」
「あ!?」
ヤンキーの後ろには国語さん。気だるそうにヤンキーのことを猿呼ばわりし、彼が後ろを振り向いた瞬間、
グワッ!
背負い投げ〜〜〜〜をかました。
「自分のやったことは自分で責任を持てボケ茄子。立派な社会人になれねーぞ。太宰に人間失格って烙印押されんぞ〜」
いや、お前が言うな…
と思いもしたが、正直、ちょっとスッキリした。し、国語さんこんなに武闘派なことができるなんて思わなかった。警察官は何やってるんだ君はー!と怒っているが。今度は国語さんも抑えられてるが。国語さんが僕を庇ってくれたことが少し嬉しかった。
「あちゃ〜、これ、どないなっとるん?」
そこに苦い顔をしたオーナーが到着。事は偉い大人たちに任せることとなった。
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