第5話 どんな人にも笑顔だよ、え?お客さんだから
「なぁ道徳ぅお前孔子って知ってる?俺さぁ孔子になりてーんだよね」
僕の横であくびを何度もかましながら、国語さんは今日も今日とて椅子に座り本を読みながら仕事をサボっている。ちなみに今日のラインナップは孔子の論語だ。
シャフマートで働くことになってしまってから1週間。僕もだいぶ仕事には慣れてきた。慣れてきたはいいものの、初日から社不だと感じていた同業者…国語、数学、理科、英語、社会…(さんはまともだと思いたかったがやはり怖いので)の社不さが身に染みてわかってしまった。
コンビニの仕事は多岐に渡る。
レジ、掃除、品出し、温度管理チェック、フェイスアップ、おでんやフライヤー、中華まんの陳列、ヤンキーの追い払い…。この店はよくヤンキーがくるので恐ろしい。
「孔子ってさぁあいつ実質特に何も仕事してねーんだよ、人から授かった知恵をさ、周りのみんなに知らせてさ、仕事してるみてぇな感じになってんだよ狡くね?俺だから令和の孔子になるわ働きたくねぇし」
特にこの男、国語。働きたくないと言う数があくびの回数を優に超えている。生粋のニート魂を持つ男だ。かっこよさげに言えば。今日も勤務時間に間に合わず社会さんに鬼電で起こされしばかれていた。そして社会さんが店から本部に行くや否や本を読み始めた。社不中の社不だ。そんな社不が孔子になりたいなんて言っても説得力もクソもない。鬼舞辻無惨が世界を救いたいと言うくらい説得力がない。
「ありがとうございましたー」
僕は目の前のお客さんに腰を曲げてお礼を言う。お客さんは何も言わずにスマホをぽちぽちとしながら帰っていく。そんなもんだ。コンビニなんて。
「おーおー道徳クーン仕事が板についてきたじゃんこれで俺の役目もほぼ終わりかなぁ〜故きを温めて新しきを知るつってな〜さっすが俺いい見本」
「国語さんからはいかに仕事をサボるかしか学べませんでしたがね…」
僕はため息をつく。
「サボってなんぼだろ〜仕事なんて。じゃぁ道徳はさ何で仕事すんの?」
「え、」
何のために?考えたことなかった。敷かれたレールの上を走ってきただけ。それが当たり前だから。それが社会のルールだから。はみ出したくないから。が、強いて出せる答えだろうか。
「前の会社はすぐ辞めたんだろ?」
「あれは、」
あれは…。僕が何が正しいのかわからなくなってしまって、
「あ、ちょっくら俺便所行ってくるわぁ」
「……」
話振っておいてか。まぁいい慣れた。
国語さんはそう言うと重い腰をやっと上げてトイレへ向かった。ついでにトイレ掃除お願いします、僕はゆらゆらと歩く彼の背中にそういう。中身があれじゃなければかっこいいのにな…。うん、何だかとても残念な気持ちになった。
今、この店の中には僕と国語さん、オーナーは夕方くらいしか来られないみたいで、社会さんは本部へ行っている。僕が入った日は何やら大セールでみんな出勤していたようだが、不普段はこうして2〜3名体制が多いみたいだ。
「…あ、雨が降りそう」
そういえば、今日の天気は午後から雨が降るとお天気お姉さんが言っていた気がする。コンビニの床はツルツルだ。お客さんの中には老人も多いし、突然雨が降ったら雨宿り場所にもなるだろう。僕は倉庫から雨降り用のマットと傘立てを店の入り口に設置する。
「うげぇえええ!突然降ってきたぜウェ〜〜〜〜イすげぇゴーウじゃねぇ!?」
「止むまでこのコンビニでパーリーピーポーしよーぜウェ〜〜〜〜イ」
…招かざる、いや、招きたくない客まで招き寄せてしまった。
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