第4話 職場の人とは良い関係を。相手がどんな人であっても

「ぎゃぁああああ!?」




僕は久し振りにこんなにも大きな声を出した。何故かって、薄暗い中に人がいるなんて思ってもみなかったからだ。



その男は僕の真横に無表情で立ち尽くしていた。鋭い眼光、高い背、これが夜中だったら僕は警察に駆け込む。





「やっぱりここでドリンク補充しててくれたんだね〜数学。寒いのにご苦労様、ちょっとこっちに出ておいでよ」


「…」





数学と呼ばれた彼は言葉は発さなかったが小さく頷いてドリンクの冷蔵庫からバックヤードに出てきた。僕に立つこの鳥肌は決して冷蔵庫の中が寒かったからじゃないと主張したい。




「今日からバイトで入ることになった道徳くん。シフトが同じになることも多いと思うから色々教えてあげて」




ギロリ



「ヒィイッ…!?ど、どどど、道徳、です…よろしくお願いしま、す…」




数学…さんは僕のことを睨みつける。ポ◯モンならば防御力が下がっているところだ。いや著しく心の防御力は下がっている。数学さんは見れば見るほど背が高い。外跳ねの黒髪。多分185くらいある。それでいてこの鋭い目つきに片耳に空いてるピアス。よく見たらクール系のイケメン。何だよ畜生!どいつもこいつも何でイケメンオプションがついてるんだ!?




「数学は人に心開くまでが長いからねぇ。で、数学今日の成果は?」


「…お釣り持ち逃げ犯、その場でとっ捕まえてレジのズレは1円のズレもナイ」


「うん上等。報復は?」


「店への今後一切の出禁、転倒看板での宙吊り、九九の読経」


「宜しい」



物凄いことを言っているが突っ込まない、突っ込まないぞ、僕は何も言わない…けど心の中でこれだけは言わせてくれ。九九の読経ってなんだ…必要なの?


この人もちょっと明らかに社不そうだ…。



「さ、次はレジの仕事を覚えようね道徳くん」



これまでも特に何も覚えてはいないけど、素直に返事をしておく。レジに戻ればさっき社会さんに頭をかち割られていた桃色髪の男の人が今度はレジにぐー垂れて眠っていた。が、社会さんの足音を察知したのか自衛隊顔負けの敬礼姿勢になり肉まんセールを謳い始めた。ピザまんだってば。



そしてもう一方のレジにアッシュヘアーの男の人。八重歯が特徴的だ。何やら外国人のお客さんと英語で話している。



「thank you!」



外国人のお客さんは満足そうに帰っていく。



「すごい」


「このコンビニは外国人のお客さんもよく来るからね、ね、英語。仕事頑張ってるね」


「あ!社会さん!チャスチュス!」



めちゃくちゃ変わった挨拶だがもうその程度のことは気にしない。弾けるような笑顔。冷蔵庫に潜む妖怪を見た後だからか太陽のような笑顔でそんなの帳消しだ。



「今日から(ちょっとだけ)お世話になる道徳です、お願いします」



英語さんが僕の方を見る。弾ける笑顔で笑う。



「おー!よろしくなー!俺英語!」




わ、よかった。めっちゃいい人だ。わからないこととかあったら英語さんに聞…



チャリーン



「金ぇええええええ!」




ズサァアアッ




コンビニの入り口で小銭を落としたお客さんのところに英語さんが獣の勢いでスライディングする。嘘だろ。何やってんだ。




「こら英語、お金の声にいちいち反応しない」


「はっ、つい…すんませんお客さん」


「社会さん…」


「英語は英語を流暢に話せるけど重度の銭ゲバだからね」




社不だ…この人も立派な社不だ…。僕の顔はきっと今青ざめているだろう。


社会さんは慣れているかのように対応し、僕に最後の一人はあれ、と言って桃色の彼を指差した。



「国語、さっきも顔見たと思うけど「いやぁめっちゃ楽しいですよね仕事って!」



嘘をつけ。冷や汗がすごいぞこの社不。



「今日から新しく入った道徳くん。レジ関係のことは暫く国語が一緒にやってあげてね」


「いやぁ俺レジの仕事とか全然わかんねーよぉ?もう自動レジだしほぼ機械が…「やってあげてね」勿論ですぅ!」



社不さん…間違えた国語さんは僕のことをまじまじと見る。



「お前…いくつ?」


「あ、えっと、23です…」


「お、まじ?じゃぁ年下じゃん丁度いいや、じゃぁさ、きらきら光る玉…好き?」


「玉…ですか?」


「おう。銀色にさぁキラキラ光る◯玉ならぬ銀のダマッ!」



…再び社会さんの鉄拳が国語さんに炸裂した。



「新人をいきなり競馬じゃなくてパチンコに誘うなんてよくないよねぇ国語」


「ばびズビばぜん…(はいすみません…)」




いや、社会さん競馬ならいいみたいな言い方でしたけど。





「こんな感じが、うちのメンバーだよ」


「成程…その、あの…僕ちょっとやってける自信ないかもなー…なんて…?」


「大丈夫、ここにいる阿呆…馬鹿たちに比べたら君は社会適合社だよ」


「社会さん柔らかくなってないです」


「君ならきっとこのシャフマートのエースになれる」



きらりと白い歯を光らせて社会さんは、まるで企業の部長が企画の通った新人に期待してるぞ、するテンションで僕の肩に手を置いた。うん、絶妙に嬉しくない。社会さんの言葉が頭の中で反芻される。


シャフマート…あぁ、そうか。社不マートなんですね、ここは…。名の通り社不しかいませんでしたよ。



僕はこの先の未来に思いやられ冷や汗をかきながら、社不マートの制服を着用し、社不の一員として正式デビューを果たした。

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