第3話 社会に出ると人は仮面を被るのだ

社会さんの美しく穏やかだったはずの顔が恐ろしいことになっている。いや、正確には笑顔はそのままだ。けどこの笑顔の裏にドス黒いものが見える。僕の背中からダラダラと冷や汗が垂れる。これは…武者震い!いや恐怖!圧倒的支配者を前にしたモルモットが恐怖から足が竦んで動けなくなるあの時の感覚に似ている!!



「あんの馬鹿さぁ…また業務内容少しも伝えてない状態でパス渡すんだぁ…オーナーの仕事まで代わりにやるほど暇じゃないのにさぁ…この前も伝えとけって言ったのになぁまた(※放送禁止)にされたいのかなぁ…」


「社会さん!?何か聞こえちゃいけない言葉聞こえましたけど!?」


「ていうかお前も今日も客を目の前に読書かぁ…いい度胸してるねぇ…国語」


「げっ、社会さ、いつの間に!?やべっ!すみマシェリ!じゃねぇすみましぇん!い、いいいいいらっしゃいませぇえ〜〜〜⤴︎⤴︎肉ま〜〜んがッ、やっすいよぉおおお」


「ん?今日はピザまんのセールだよ?あと石焼き芋焼き芋〜のリズムで言うのやめれるかな?」


「ふごぉおおッ!」


「…」




恐ろしいものを見ている。人間失格を読んでいた桃色の髪の見るからに素行の悪そうな男の人の頭が社会さんの手によってレジ台にめり込んだ。社会さんは笑顔のまま手を払い、チッこれだからいい加減な奴らは困るよねぇ、と言った。社会さん、やばい。二面性やばい。絶対に怒らせてはいけない。客逃げてたよ。




「さ、じゃぁまずこのコンビニに勤めてるメンバーから紹介していこうかな」


「何事もなかったかのように進めますね…」



社会さんはニコッとまた星が舞うような笑顔を僕なんぞに振りまく。ついておいで、と言ってコンビニの中を練り歩き始めた。小さい頃やったポ◯モンのゲームでトキワシティについた途端知らない案内人に町の概要を案内された時のあの感覚を思い出す。



「まずはここでフライヤー揚げまくってるのが理科くん!」



レジから少し奥に入ると揚げ物のいい匂いがした。ジュージューと衣が実る音、揚げたてをお知らせする機械音。



「新人くん〜?よろしくねぇ僕理科です〜」



栗色ストレートのマッシュルームヘアに大きめの丸眼鏡。笑顔。物腰の柔らかい喋り方。イケメンだし、優しそうな人だ。理科さん。



「あ、よ、よろしくお願いします!道徳です」


「見てよこの美しい油の入り方〜」


「え?」



理科さんはトングで狐色に揚げられた揚げたてのハムカツを僕の正面に出す。



「これはね、全てに180度が行き渡るよう僕が化学的且つ物理学的に最適な位置、タイミングを見つけ出して揚げ上げたハムカツなんだぁ〜美くしいでしょ、僕の顔くらい」


「…社会さん」


「理科くんは頭おかしいからね、慣れてね道徳くん」




毒を吐かれたことも気にせず理科さんはお客さんにレジに呼ばれて周りに薔薇を散らせながらレジに向かう。あれ、薔薇って空中に栽培できるんだっけ。



「ハムカツを3個ぉ!?2個なら店頭ブースに出ているだけのもので事足りるけど〜3個はさっきの美しい物も売らなきゃいけないじゃん〜」



いや売れよ。注文入ってるんだから。僕は心の中で突っ込んだ。



「僕ってなんでこんなに今日もイケメン…?これって科学的に証明できる…?」



おいレジ最中に自分の顔見てうっとりしてんぞ。まだ会計終わってないのに薔薇散らせてんぞ。お客さん怒ってんぞ。



「…社会さん」


「残念あれは性格だね。さ、次行こう」




社不だ…。純然たる社不だ…。


シャイニングフローマート、社不雇ってる…。


スタスタと店内を歩いていく。バックヤードに入る扉軽く押せば段ボールの山、そしてケースに入れられたお菓子の数々、コンビニの裏側ってこんな風になっていたのか。少し面白い。




「ここを開けるとドリンクコーナーになるよ、開けてみて」




4度と温度表示されている重たい扉を引く。中は薄暗くて、ドリンクの向こう側から漏れる微かな光だけが明るい。扉を開けた隙間から冷気が一気に僕を襲った。

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