第2話 社会人たるものそれなりの代償は

「痛たたたたた痛…」


「えっ、あっ、その、すみま、えと、すみません!!」




お兄さんが僕の下で(意味深)痛がっている。まずいことをした。頭から血の気が引いていくのがわかった。




「あぁ〜…一体何なんやぁ〜君はぁ〜…」


「あ、あの!僕、その鳥が糞を落とそうとしてると思って…その、」


「あ、もしもしぃ兄貴ですかぁ〜?」




兄貴!?




「今ちょいと襲撃を受けましてぇ…えぇ…いや見たことない顔のモンなんですけどぉ…はぁ…多分これ骨が折れてますぅ、え?落とし前ですか?そうですねぇそれはつけてもらわないとですよねぇ…」




俺はただ青い顔を更に煮詰めて青紫にして震えることしかできなかった。西◯カナもここまで震えたことはないだろう。…誰かに優しくしたからといって、全てが報われるとは限らない。僕は何故学習しないのか。
















「…い、いらっしゃい、ませ…?」


「あ〜ちゃうちゃう〜もっとこう!飛ぶビックマックを落とす勢いで!」


「飛ぶビックマックって何ですかね…ビックマックって飛んでるとこ見たことないんですが…」


「いやぁパティからはみ出るあの弾けるような具材達の勢いって空飛んでてもおかしくないやろ〜」


「僕おかしいんですかこれ…」


「ほらほら他の従業員さん見習って!」


「すみませんあの人座って太宰治の人間失格読んでるんですけど…自己紹介なんですかねあれ…」




現代はなんでもスマート時代。決済も買い物も映画もだ。何がどうなったのかの詳細をスマートに短文で言おう。


お兄さんは“シャイニングフローマート”というコンビニのオーナーで(無職ではなかった)腕を折った落とし前で僕はこのコンビニの店員(バイト)として働くことになった。以上である。兄貴というのはどうやら本部の人だったようだ、紛らわしい。


そしてこのコンビニの制服を着ている桃色の髪の男の人。同い年くらいだろうか。何故かレジ内にある椅子に座って人間失格を読み耽っている。目の前にお客さんがいるのに構わず読み耽っている…社不だ。




「本当に申し訳ないことを言うんですが…コンビニで働く気はなくて、僕実は正社員の職を探してましてぇ…」


「痛い痛い痛い痛い痛い〜あぁこれは全治3ヶ月やぁ〜街中でいきなりタックルされて押し倒されて心の傷を負った可哀想なボク、あぁ、このまま人生という道からログアウトするしかないんかなぁ…」


「僕にやらせてください」


「そう言ってくれると嬉しいなぁ心優しき青年よ〜」




上手くノせられている…しかし情に訴えかけられたら弱い。それもわかっている。


そうと決まれば♡とオーナーはご機嫌な表情でスタッフルームの扉を開ける。




「社会〜〜新人入ったから新人教育頼むわぁ〜♪」



中から出てきたのは黒髪に緩くウェーブのかかった垂れ目気味のイケメン。右目の下の黒子が更に色っぽい。何だこれ初見でこんなにも劣等感を植え付けられたのはTVで初めて山◯涼介を見た時以来だ。




「あ、新人さん?よろしくね。俺は社会です。このシャイニングフローマートの本部に勤めてるんだけど、よくここにヘルプで入ったり店舗指導に来たりしてるんだ。新人教育も任されているからよろしくね」




イケメンはニコッと微笑んだ。男の僕でも宙に星が舞って見えた。これを女の子が食らったらきっと今このコンビニは爆発によって消え失せていただろう。




「ど、ど道徳です、よろしくお願いします!」


「はは、そんなに固くならなくていいよ、若そうだね、いくつ?」


「23です…」


「じゃぁー新社会人の年?」


「あ、はいちょっと諸事情で新卒で入った会社3ヶ月で辞めちゃいまして…その後もその、転職活動上手くいかず…」


「へぇ、それでこのコンビニにバイトに?」


「…いや、バイトなのはその成り行きというか僕がそのオーナーさんに全治3ヶ月の怪我を負わせてしまってみたいn「まぁまぁ細かいことはええねんええねん〜♪じゃ、社会よろしゅうな〜、まだ何も伝えとらへんであれこれ教えといてぇ〜!あ、あそこで本読んどるバカたれのこともよろしゅう」



そう言うとオーナーはルンルンでコンビニを出て行った。僕の見間違いでなければ今包帯ぐるぐる巻きになっている右手が動いた気がする。気のせいか?気のせいであれよ?しかしこうなっては仕方ない。暫くはこのコンビニでバイトするしかない。そしてオーナーの治療費分を稼いでそれを渡したらまた転職活動しよう。



「あの、社会さん、よろしくお願いしm…!?」



ビキッという不吉な効果音と共に時間も止まった気がした。

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