社不マート‼︎
ヲタク目線
第1話 道徳なんて何の役にも立たないじゃないか
道徳と申します。僕の名前です。近年小学校の義務教育にも“教科”として昇進した者。そう、道徳性の塊、道徳です。
優しさとは、正しさとは、心とは。そんな目に見えないものを謳う理想主義者です。
さて、そんな僕も社会人になりまして、溢れ出んばかりの愛護精神を引っ提げて社会にいざログインしたわけです。いつか先生が言っていた、道徳なら大丈夫だという言葉を胸に掲げて。
「あのさぁ、人間性が良ければいいわけじゃないんだよ。君がしてることって利益を逃すことなんだよね。社会人向いてないよ。辞めたかったらいつでも辞めていいから」
どうやら僕は社会不適合者だったようです。
:
「仕事なんてクソ喰らえだし…」
困り果てている。自分から退職表をバシッと叩き込んでお金がなくて困り果てている。御免なさい見栄を張った。退職代行を使って辞めました。“辞めます”の一言が怖くて言えませんでした。たかが3ヶ月といえどお世話になった…というか顔見知りになってしまった以上、何を言われるかわからなかったし気まずいし、自分で言ったら存在しない引き継ぎをしてからとか申告してから1ヶ月はとか言われるんじゃないかって思ってね。
“無能と思っています”という発言をされて尚あの空間に行くことは僕には厳しかったのです。
「とはいえお金がない…困った」
今こうして項垂れている家の家賃、月7万。水道光熱費等約1万。食費切り詰めて1万。その他諸々の雑費5千円。生きているだけでも約10万円程が消えていっているわけだ。就職した時にはこんなに早く辞めるなんて思ってもみなかったから誤算中の誤算である。
はぁ〜〜〜〜もしかして僕って社会不適合者としてこれからもずっとニートとして過ごして最後はひもじい思いしてこのシミのついた天井を見つめながら死んでいくのかな、、、、
「ってそれはマズーイ!変な思考はやめろ道徳!困った時はお互い様!常識だ!誰か助けてくれる人がいるはず!社会は手を差し伸べてくれるはず!」
:
「3ヶ月で辞めたんでしょ?無理無理。しかも君性格診断最高だけどその他の能力値テスト低すぎ、ほら、5教科とか」
撃沈。
「ここにくる途中おじいちゃんが倒れてたから遅刻した?あのねぇ社会なめてんの?お客さんとの打ち合わせでもそうやって嘘ついて言い訳するの?」
撃沈。
その他受けた10社も御祈りメールにて撃沈。
どうやら僕を受け入れてくれる企業はそう簡単には見つからないようだ。
「学校であれほど勉強した5教科なんて社会に出てから役に立たないじゃん…国語とか日本語話せて相手の気持ち慮れればいいんだし古文漢文絶対いらないし…」
でも僕は落ちた。道徳だけあっても仕方ないようだ。
ピリリリ、スマホに着信音が入る。
『あ、○×病院の者ですが、今朝田中さんを助けていただいた方ですよね?その、一応連絡しておこうと思って…田中さん、あれからすぐにオペに取り掛かったんですが、すごく残念ですが…』
…誰かに優しくしたからといって、全てが報われるとは限らない。
『あの、余計なお世話かもしれませんが、病院に来ていただいた時に履歴書…見えてて、大事な面接か何かがあったのではと…』
「いえ、大丈夫です。それも終わりましたから」
ご連絡ありがとうございます、と言って電話を切る。僕は空を見上げた。雲が流れてる。僕の人生は止まってしまっているのに。
スーツを着てくたびれたように、花が萎れたように平日の昼間からベンチに座っているのは僕と二つ奥の男の人…多分あの人も面接だめだったのかな、くらいだ。
あぁ…泣いて、いる?
よく見えないが俯いているお兄さんのスーツのパンツに向かっていくつか水滴が落ちているように見える。相当面接を落とされてきたんだな…何て辛い(推測)
「…ん?」
面接ダメだった男の人(推測)の上に鳥が周回して…
はっ!
僕は勘付いた。あの鳥達…あの男の人に糞を落とそうとしている!!
面接に落ちまくったのに(推測)糞なんて食らったらどんなに哀が漂うことになるか!?見たところ僕よりも年上だ!あの年齢で不幸の連続マシンガンなんて食らったら人生そのものをマシンガンで撃ち抜きたくなってしまうかもしれない!だめだ!
「あのぉおおおお危ないですよお兄さぁあああ!」
「んぇ?」
気が付いたら僕はお兄さんを助けるため走り出しお兄さんをベンチから引き摺り下ろしていた。つまりタックルをかました。
僕の読み通り、鳥達は元々お兄さんのいたところに糞を…
落とさなかった。
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