五秒で読める掌編集


【カップル】



「今日ね……わたしの家、親がいないの……」

「そんな期待させるようなこと言ってさ……実はお兄ちゃんがいるとか――」

「いないよ」


「お姉ちゃんも?」

「うん」


「叔父さん」

「も、いないわ」


「居候の忍者も、」

「いない」


「最近捕まえたって言ってた宇宙人も」

「いないよ」


「完成したばっかりのホムンクルス、も――」

「いないから、安心してよ――正真正銘、夕方までは二人きりだから……」











【持ち帰らされているだけ】



「ど・う・し・てっ、いつもいつも、お前は宿題をやってこないんだ!!」



「どうしてやる前提で話が進んでいるの?」











【VR葬】



「ゴーグルを着用していただきますと、お父様の生前の映像を元に作られたモデルが、遺体の上に現れると思います。過去の映像から、その人柄を解析し、モデルに組み込んでいますので、お父様と遜色ない受け答えができると思います……。みなさま、デジタル上ですが、お父様とご一緒に、お父様の遺体を見送って差し上げましょう――」



「……これ、デジタルな幽体離脱にしか見えないんだけど……」










【リアリティ】



「新郎は、新婦を妻とし、生涯、愛し続けることを誓いますか?」


「――誓います」


「では、新婦は――新郎を夫とし、生涯、支え続けることを誓いますか?」


「絶対とは言い切れませんけど、まあ、はい。誓いましょう……絶対ではないですからね!?」











【雇用は気まぐれ】



「腑抜けた中途採用が……っ。お前なんかなあ、辞めた後どこも雇ってくれねえよ!!」



「前の会社を辞める時も同じことを言われましたよ……、言われた一週間後にこの会社の入社が決まったんですけど……、世の中は分からないものですね」











【急がば待て】



「いっつもそっちに並んでるけどさ……カード決済ならセルフレジで済むよ? まだ現金を持ち歩いてるわけ? 財布もぱんぱんにしてるし……遅れてるなー」



「そう? まあ、既に出遅れてるし、いずれ完全に置いていかれることにはなるだろうけど……でも、現金がある以上は切り捨てられることはないと思う……。みんながカード決済にしてセルフレジを利用するようになれば、今度はそっちが混むんじゃない? こうやって長蛇の列ができて……――そうなった時、現金払いのおれはすんなりと会計ができる――そういう未来が待っているかもしれないなら、遅れた上で立ち止まっているのもいいんじゃないか?」










【巣立てのお酌】



「ほれ、酒がなくなったぞ――後輩なら素早く注がないとな。なくなる前に動かねえと出世できねえぞー?」




「あ、はい。……そもそもなんですけど、注がれたいんですか? なら注ぎますけど……、なんだかバカにしてるような感覚になってきてしまうんですよね……。こっちから率先して注ぐのって、こう……口を開けて待ってる雛鳥に餌を詰め込む、みたいなイメージをしてしまって……。まるで介護だと思って避けてはいたんですが――。でも、本人が望むならしないわけにもいかないですよね! 足を引っ張ることもありますが、同時に助け合いでもありますから!!」





 …おわり

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