第1話
「う……ん」
「はーい朝だよ海君起きて」
(海君?どういうことだ?)
「本当に遅刻するよ?」
「分かった……えっ?ここどこ?」
いつもの自分の見慣れた部屋じゃないことに気が付いた。
「何言ってるの?」
「だから、ここは……お前は誰だ?」
「私のこと忘れちゃったの?海君」
「まさか、お前清水?」
「もう、昨日結婚して私も中瀬になったよ」
(こいつは何を言ってるんだ?)
「ちょ、待て……ってことは、俺たち結婚してる!?」
「そうだよ、ほんとに大丈夫?疲れてるなら病院に連れてくけど」
「悪い、今日って何年だっけ?」
「今日は
「え……」
海星は、驚きの顔を隠せなかった。同時に不安が全身に駆け巡る。
「どうしたの?」
「今年は2025年じゃないのか」
(9年後の未来に来たのか)
「よくわからないけどちょっと会社に休みの電話を入れるね」
そういうと彩華は部屋を出ていった。
(あれ?よく考えたら、なんでこいつと結婚したんだ?)
「海君、会社に連絡入れてきたよ。大丈夫?」
「多分大丈夫。ごめんな。急に記憶がなくなったみたいになって」
「大丈夫だよ。確かに私も海君に無理をさせてたのかもしれない」
「変なことを言うんだけど、俺は昨日高校の入学式だったんだ」
「そうなんだ」
「驚かないね」
「うん、昨日海君がおかしなことを言ってたんだ」
「なんて言ったんだ?」
「『明日、おかしいことが起きるけどその人は、悪い人じゃないよ』って」
(俺が、そんなこと言ったのか)
「でも、一様ふざけてないかの確認はしないとね」
「へ?」
(そういうと、彩華はさっきの寝室に戻った)
そうして2分後。
「あったあった」という声が聞こえてきた。
「それではテストを始めます。
【問一】
座標空間内の直線LとZ軸のはねじれの位置にあるとする。LとZ軸の両方に直交する直線がただ1つ存在することを示せ。
(なんだ?どういう問題なんだ?)
そうして悩むこと20分。
「もう無理だ。降参だ!」
「はやいねえ。まあいいか」
(なんでこいつは楽しそうなんだ?)
「まあでもさすがにふざけてることはなかったね。大学入試を首席で合格した海君がこの程度の問題を解けないはずがない」
(えっ俺ってそんなに頭がよかったのか。今までの俺は、そこまで頭がよくなかった)
「これでいいか?」
「うん、合格」
「それじゃあ昼ご飯は私が作るからゆっくりしていって」
そういってキッチンに急ぎ足でリビングから出ていった。
そうしていい匂いがしてきたと思ったら急に苦いというかなんというかわからないなにかまがまがしい匂いがしてきた。
「ごめん。失敗しちゃった」
(もしかして、清水さんは壊滅的に料理ができないんじゃないか?)
「今まで料理はどうしてたの?」
「今までは、海君がやってたよ」
「分かった。今日は、俺が作るよ」
「イエーイ。高校生の海君が何の料理作るか楽しみー」
「一応聞くけどこの時代の俺に料理するなって言われた?」
「うん、絶対に料理するなって言われた」
「分かったじゃあ俺の前でも料理しちゃだめだよ」
「はい」
彩華は悲しそうにうつむいた。
こんなことを話しながら冷蔵庫の前に着いた。
そして冷蔵庫の前には、今日の料理は『カレー』と書かれていた。
(今気が付いたことだが僕の体は
「何か要望ある?」
「ビーフストロガノン」
「分かった。今日は、たくあんね」
「ごめんってばちょっと悪乗りしたって」
「まず今日のご飯の予定がカレーなんだからカレー関係でお願い」
「分かった。じゃあ、キーマカレー」
「分かった」
そうして海星は手際よくキーマカレーを完成させた。
「わーおいしそー」
(本当に思ってるのか?)
「それじゃあちょっと聞きたいことがあるんだけど、携帯ってどこ?」
「今つけている時計だよ」
(えっこれはどう見ても普通の時計だった)
「どうやって使うの?」
「使い方は携帯に向かってパスワードをしゃべりかけるんだけど確か『彩華大好きだ』だったと思うよ」
「そんなわけないだろ。人の目の前でさすがにそんなパスワードにするわけないだろ」
「あってるよ。私を疑うの?」
「まあ確かに。『彩華大好き』」
『音声が正しくありません。再度お確かめ下さい』
(は、ハメられたー)
後ろで手をたたきながら笑っている彩華の姿が目に入った。
「おい、本当のことを言わないとこれから飯を作らないぞ」
睨みつけるように彩華のことを見る。「ひっ」と言う声が聞こえた。
「それで?パスワードは何だ?」
「本当は『
(こいつあっさり白状したな。まあ、いいか)
「『
『音声の認証に成功しました。ロックを解除します』
「ほら、空いたでしょ」
(なんでこいつが自慢げなんだ?)
「じゃあ、これで携帯問題は解決と。それじゃあ高校一年生から今年までで変わった所は?」
「ううむ特にない気が・・・あ、そうだ一つだけあったよ」
「何?」
「去年の4月に世界国際連合から加盟国に世界共通通貨が発行されたよ」
「何?どうして発行されたんだ?」
「私も専門家じゃないから詳しいことはわからないけど各国間の財源の問題らしいよ」
「どうしてだ?国連は各国の財源に口を出せるほどの権限を得たのか?」
「国連にいるためには維持費を払わないといけないのは知ってるよね?」
「ああ、確かそんな感じだった気がするが」
「その維持費みたいなものが値上げされたんだけどその基準が裕福国のアメリカやロシアの財源が基準になってたんだよ。そこでいわゆる『発展途上国』の国達が連合で議会に提出してそれが受理された形だね。そしてその案が開始されたのが去年の4月だね」
彩華が自慢げに語っている。
「それで?その時に持っていた通貨・紙幣はどうなったんだ?」
「原則その場で廃止とされたよ。つまりその時点で持っていた紙幣・硬貨はその場で価値を失った」
「そんなの国民が許すはずがないだろ」
「まあ、まあ話は最後まで話を聞くものだよ海星君」
(なんか、高校の担任みたいだな)
「それで、国が各世帯ごとに資産を調べて資産と同等の通貨を発行しているよ」
「確かにそれなら問題はないか。でも会社はどうなんだ?」
「会社も同じだよ。でもここにルールが課されたよ」
「なんだ?」
「原則として消費者金融会社の営業を禁止したよ」
「じゃあ、それ関連の会社はどうなった?」
「基本的に倒産したよ」
「気の毒だな」
「そうだよね、その関連の会社に勤めてなくてよかったと思うよ」
「そういえば、僕はなんて会社に勤めてたんだ?」
「『hoohle』だよ」
『hoohle』は、世界的に有名なコンピューター会社だ。
「なに?!本当か?」
「うん、大学の就活期間中に内定を取ってきて二人で喜んだよ」
「そういえば、どうして俺と結婚したの?」
「聞きたい?」
「うん」
「理由は2つかな。一つ目は単純にずっとずっと中学のころから好きだったんだよ。2つ目はそのころの君は誰かが支えていないと君は壊れてしまうと思ったからかな」
「え・・・中学の頃から好きだったってどういうこと?」
「そのままの意味だよ。大変だったんだよ。誰もいない高校に行きたいっていたみたいだからその先生の口を割らせるには」
「どうしてそこまでして俺と一緒の高校に行きたいの?」
「好きだったからだよ」
「もういい、分かった。そういえばさっき誰かが支えてないと倒れそうって言ってたのは何?」
「それは海君のために聞かない方がいいと思うから言わない」
そうして明るかった顔は一気にうつむいてしまった。
(言わないってことは何かあるんだろうなと、思ったがそれ以上は何も聞かなかった)
「じゃあこれからどうする?」
彩華は心配の目を向ける。
「大丈夫だよ」
「ほかにこの9年間で変わったことはないか?」
「もうないよ」
「そうか。そういえば本ってあるのか?」
楽しくなかった中学校生活を救ってくれたのは本だった。
(まあ、簡単に言えば現実逃避の道具だった)
「あるよ、自分の部屋に行ってみなよ」
「分かった」
そういって廊下に出る。
「広い家だな」
「家は広いから迷わないでね」
「大丈夫だよ」
そうして、部屋に着いた。
「わああ・・・」
海星は絶句した。
部屋の中は部屋の中は、本で埋め尽くされていた。
「ね、すごいでしょ。本当に大変だったんだよ。本当にいろいろ」
「大丈夫?」
(なんか未来の僕に変わって謝るよ。ごめん)
心の中で謝った。
「大丈夫だよ」
「で、何があったの?」
「大学を卒業すると本が読みたいって言いだしたんだけど本屋がペーパーレスの時代と言って本がなくなったんだよ」
「それで?」
「今の時代はインターネットで読るって言ったら、インターネットだったら手元に本がないから嫌だって大の大人がダダをこね始めたから、編集会社に電話で本のデータのコピーを取れるようにお願いをして本を印刷できるように交渉して、作家に許可を取ってやっと一冊が完成した」
「それはありがとうございます」
「それを10回ぐらいやったら、会社のほうが一回一回連絡されるのが面倒だと言って、契約を結んだんだよ」
「どんな内容?」
「欲しい本のデータを連絡すれば作家の許可を取ってデータが送られてくれるって寸法だよ」
「一冊に一体どれくらいのお金がかかるの?」
「大体2000円くらいかな」
「2000円!?それってデータで買ったらどれくらい?」
「600円くらいだったはずだよ」
(確かに俺は手元に本があった方がいいがさすがに2000円までかけようと思わない)
「分かった。これからはやめとくよ」
「やったー!・・・ごめん」
(本当は大変だったんだな)
「それじゃあ、今からショッピングに行こうと思うんだけどどう?」
「いや、今からここにある本を全部読むから今日はいいよ」
「分かった。やっぱり本に対する情熱は9年前からあったんだね」
一瞬見えた彩華の顔は悲しく見えた。だが本の誘惑を前にそんな顔を頭の隅にしかなかった。
「うおおーSFからミステリー全部ある。あの頃死ぬほど待っていた新刊がたくさんある今日は徹夜して読むぞー」
そうして7時間後。
「ねえねえ夜ごはん何にする?」
「今日はもともと何の予定?」
「すき焼きだよ」
「分かった、じゃあすき焼きをパパっと作っちゃうよ」
そうして、すき焼きを作り終わった。
「いやあ、おいしいね、さすが国産黒木和牛」
「こんなおいしい肉を買って金は大丈夫か?」
「うん、さっきも言ったけど。私たち結構いい会社に勤めてるからお金がわいてくるんだよ」
「そんなわけないだろ」
「まあ、それは置いといてどんな本があったの?」
「まあ、主にはSFとミステリーかなまだ手を付けてないけど多分恋愛ものもあるんじゃないかな?」
「そう・・・なんだ。私も今度読んでみようかな」
「それじゃあ今日は、もう寝ようか」
「そうだね、もう寝よっか」
彩華の顔はうつむいたままだった。
「ねえ清水さん大丈夫?」
「だから、私も中瀬だって。何もないよ」
そんな会話をいていると眠りについた。
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