第5話

 数分後、前方にベニヤ板で仕切られた謎のスペースが見えてきた。

 同時に比良田が発言する。


『呪具の販売店はそこだ』


 ベニヤ板の空間にはいくつもの棚が置いてあり、そこに多種多様な道具が所狭しと置かれていた。

 店員はらしき人間はいない。

 机には「お会計はこちらへ」と書かれた箱があった。

 どうやらここは無人販売所らしい。


 俺はさすがに困惑する。


「こんな売り方で大丈夫かよ……盗まれるだろ」


『それはない。一般人が誤って買わないように、付近には結界が張ってある。意識的に買いに来なければ、この場所を認識できないようになっているんだ。ちなみに盗むと呪われるからやめた方がいい』


「なんか魔法みたいだな」


『超常的な力という括りなら同じだね』


 俺の知らない世界では、結界やら魔法が実在するようだ。

 少し気になるが、会話を本題へと軌道修正する。


「俺はどれを買えばいいんだ?」


『攻撃手段には、そこの包丁と金属バットが手頃だね』


 棚の端に包丁と金属バットがあった。

 商品として陳列されているとは思えないほど錆や汚れが目立つ。

 俺は試しに金属バットを手に取った。


「物理攻撃で霊を倒せるのか……?」


『その包丁と金属バットは、どちらも殺人に使われた凶器だ。宿った怨念が霊に対する殺傷力になるんだよ』


「へえ、物騒だな。それで防御手段はどうする」


『棚の上にある人形にしよう』


 背伸びをして見回すと、埃を被った人形が見つかった。

 全体的に雑な作りで、ボタンの目が縫い付けられているが、位置が絶妙にずれている。

 そのせいで間の抜けた顔になっていた。

 比良田は大真面目に解説をする。


『それは身代わり人形だ。霊の攻撃から庇ってくれる』


「おお、いいな。便利そうだ」


『ただし他の霊力と反発するので、霊に触れられると爆発する。人体なんて簡単に吹っ飛ぶよ』


「爆弾じゃねえか。悪霊よりこの人形の方が危ねえだろ。他の防御アイテムにしようぜ」


『私の予知によると、その人形を購入する世界線が最も生存率が高くなる。悩む意味はないと思うがね』


 比良田の話を聞きつつ、俺は値札を見て仰天した。

 包丁は三万円。

 金属バットは五万円。

 身代わり人形は十万円。

 俺はすべての商品を棚に戻して呻く。


「おい、高すぎるだろ。ぼったくりか」


『呪具としてはむしろ破格だよ。強力な妖刀なんかは何億円とするからね』


 比良田の反論をスルーし、俺は自分の財布を確かめる。

 入っているのは千円札が二枚と小銭のみ。

 宝くじの百万円はまだ貰っていない。

 高額当選だと受け取りに時間がかかるのだ。


『早く買うんだ。迷ったところで何もないのだから』


「……選択の余地は無しか」


 仕方ないので、俺は近くのATMで金を下ろして三つの呪具を購入した。

 おかげで口座の残高が数百円になってしまった。

 比良田はここまで予知し、俺がギリギリ買えるラインナップを勧めてきたのだろう。

 もはや恒例になりつつあるが、彼女の予知能力の精度には驚愕するしかなかった。

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