第8話

 例のドラゴン族の咆哮は威嚇だと考えられた。それは、滅ぼされるか、屈するか、選べと。

 何故、今更になってドラゴン族達が現れたのか考えられる理由は少ない。恐らく『魔王』による負の遺産が成長して『魔王』をも凌駕する程になった。ならばそれに対抗し得る可能性がある者はたった一人だけ。


「なんで冒険者は全員、待機なんだよ!」

 感情的になる『タンクさん』はパーティーたちとこれから防衛という名目で後方に回る。そして今ここに『ヒーラーさん』はいない。

「それは前線には『勇者さま』が……」

 言いにくそうながらも仲間の『ソーサラーさん』が既に知らせられている事情を改めて伝えようとするのを『タンクさん』は遮る。

「俺たちは足手纏いかよ……ぜんぶ『勇者さま』に押し付けて……!」


「そこにいたんだね」


 短い期間ながらも充分に聴き慣れた声。

「『ヒーラーさん』!」

 その姿はヒーラーらしからぬ鎧に剣と盾。だが間違いなく彼は『ヒーラーさん』だ。

「どうしたんだよ! 俺たちは街の警護をするんだろ? なら、こっち来いよ……!」

 必死に呼ぶ『タンクさん』と、どことなく悲しそうな『ヒーラーさん』には距離があった。

「ありがとう」

 その返答によっての笑顔は本物だった。

「お別れしに来たから。でも、きちんと『勇者さま』の不始末は退治する」

 それだけ言って『ヒーラーさん』否『勇者さま』はドラゴン族達のいる前線へ駆けていった。

 その時、小さく聞こえた気がした。


「元気でね」


 どんなに『タンクさん』が叫んでも『ヒーラーさん』は止まらない。追いかけようとしたらパーティーメンバーに止められる。


 ──こんなことって、ないだろ……!!

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