第6話

 美味しいご飯を食べて解散というところだったが、そこを『ヒーラーさん』が引き留めた。

「ちょっと、お散歩しようか?」

 ──そ、そんな、勘違いするぞ!?


 もちろんそれは勘違いで、そのお散歩とは、冒険者ギルドからの依頼で、街の外の比較的に弱いモンスターの討伐に出かけることだった。

 ──だよなぁ……。

 戦いでは『タンクさん』はタンクらしく前に出てモンスターの注意を引き攻撃をする。無論モンスターからの攻撃が飛んでくるが、それは『ヒーラーさん』からのバリアで防げる上に傷ができれば回復魔法を使ってくれるので実質的に『タンクさん』は無傷だった。


 街への帰り道にまるで何気ないことかのように『ヒーラーさん』は言う。

「僕は、したかったことが沢山あったのに、いざ出来るようになったらそれが何だったのか忘れちゃった」


 何年か前のこと『勇者さま』は『魔王』を倒した。

 それを言うだけなら簡単だが、『魔王』を倒すことにどれだけ『勇者さま』が苦しんだのかは彼が救った世界の人々にもわからない。


 その憧れの『勇者さま』かもしれない人物が、いいや彼でなくても好きな人に対しての返答に詰まり、沈黙するしかなかった『タンクさん』。

「ごめんね変なこと言って。でもね、今こうやって女の子の格好してるのは好きなんだ」

「そっか、良かった」

「それと──。今日は楽しかった! ありがとう!」


 夕暮れだからか、無邪気に笑っているからか、『ヒーラーさん』の頬は赤らめているかのように見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る