第4話

 紅茶もコーヒーも、ケーキも軽食も美味しい喫茶店にて。

「またバレちゃったかな」

 残念そうに俯きながら『ヒーラーさん』は言う。

「おかげで皆んなが無事だったのだから私からは感謝しかないわ」

 フォローする『受付さん』は『ヒーラーさん』の事情を知っている。知っていても、どうしようもない。


 何年か前に『魔王』がいて、それを倒した『勇者さま』がいて、その『勇者さま』は自由になったから好きなように生きたいけど不器用だからあまり好きに生きれない。そんな事情。


「いっそ戦いから遠ざかっても誰も止めはしないのよ? 貴方は充分、頑張ったのだから」

 それは。と言いたげに『ヒーラーさん』は顔を上げる。

「癒し手をする前に体が動いてドラゴンを倒したのでしょう? もうバレたくなかったら戦わないしかない」

「人が傷つくのは嫌だ」

 きっぱり嫌だと返す『ヒーラーさん』に『受付さん』は小さく笑う。

「それもひとつの答えなのでは? まったく、欲張りなのだから」

 そうかもしれないと腑に落ちたその時。


「『ヒーラーさん』!!」


 突如、声をかけられる。その声の主は『タンクさん』だった。

「えっと……。偶然、だな、探したとかそんなことは……な、ないからな」

 明らかに歯切れが悪く、明らかに探してきたような、そんな口ぶりに『ヒーラーさん』も『受付さん』も閉口せざるを得ない。

 その空気のまま話を続ける『タンクさん』。

「こ、今度、二人で一緒に食事に行きませんか!?」

 急な頼みに何と返せばいいのかわからず「わ、わあ……」とおどおどする『ヒーラーさん』。

「行ってあげれば? 人生の視野が広がるかもしれないから」

 視野が広がる理由はわからないが、断る理由は今のところ無い。

「いいよ。じゃあ、いつにする?」

「こっちは、ずっと空いてるから『ヒーラーさん』の方はどうだ?」

 ──『タンクさん』って暇なのかな。

「僕の日程は──」


 そんなこんなで『タンクさん』は約束を取り付け満足そうに帰っていった。

 傍観者気味だった『受付さん』は一連の事を見届け「お嫁さんになるのもアリかもね」とも言った。

「……それはないなあ」

 お嫁さんという『受付さん』の冗談が本気だったらちょっと嫌だなと想いを込めて。

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