第3話

 気づいたら『ヒーラーさん』はいなかった。

 逃げる余裕などないはずだ。ドラゴンが獲物を逃すわけがない。

 嗚呼。あんなところにいるじゃないか。

 回復の杖に仕込んだ刃を振るいドラゴンよりも優勢に戦って──。

 守られるべき筈の癒し手が、誰よりも前に、誰よりも強く、戦っているのを見た『タンクさん』は脳裏に蘇る名前を零す。


「『勇者さま』……?」


 ドラゴンは断末魔と共に霧散した。

 そこには『ヒーラーさん』の後ろ姿。そっと振り返って優しく微笑み、告げる。


「僕は『ヒーラーさん』だよ」


 パーティーは無傷で街まで帰ってきた。

 無事だったのに、帰り道は行きのように和気藹々とは何となくいかなかった。

 討伐目的のモンスターは例のドラゴンの餌となっていたようだ。そのドラゴンを単身で倒した『ヒーラーさん』。そして『タンクさん』が冒険者を目指したきっかけの『勇者さま』に似ている『ヒーラーさん』。

 最早『タンクさん』は性癖の話どころではないのかもしれない。

 否、性癖も人生において大事だが。

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