夢やこんこん堂々巡り
牧瀬実那
一切身に覚えがない話。
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
砂利ばかりの河原に、男とも女ともつかない痩躯の麗人が立膝で座っている。体の半分もありそうな大きさの琵琶を抱え、慈しみを顔に湛えていた。
周りには自分も入れて沢山の幼子達が麗人の唄を待ち侘びている。
果たして麗人が琵琶を爪弾きだす。
時は九百九十九年九月九日。雲一つ無い空の下、婚礼行列が往く先を天気雨がしずしずと先導す。
今日
気付けば揃って
これは
揃って九里をちんどんどん。
船に乗らばえんえんやこらえんやこら。
九百九十九の鳥居をくぐり抜け、いざや
迎えた大神主が案内したのは九間の大部屋。
揃った二百の眼前と神前で、ふたりは厳かに三三九度の盃を交す。
実は皆これが楽しみであった、と各々酒と肴に舌鼓。
誰かがこんと鳴けば、皆こんこんと大合唱。
飲めや歌えや踊れや騒げ。とんとんちきちき無礼講。
光陰矢の如し、あっと云う間に朝ぼらけ。
〆はわちきが唄いんしょうと、名乗り上げるは吉原住まいの狐太夫。
これは大トリの降臨だと皆囃し立てるも、太夫は気にせず澄まし顔。
夫婦へ納めた絢爛見事な寿ぎの歌舞は、誰もがほうと溜息を漏らす。
最後に夫婦がご挨拶。
我ら千代に八千代に共に在らん。
ぺこりと頭を下げれば、
いつもここで夢も終わる。
自分の呻く声だけが、唯一今が現実だと教えてくれた。
一見縁起の良さそうな夢も、繰り返せば悪夢となる。
起きていられる時間もどんどん短くなり、誰かに相談することもままならない。
何が一体どうなっているのか。
わからない内に、ああ、また琵琶の音が――
夢やこんこん堂々巡り 牧瀬実那 @sorazono
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