7 疲れてる?
人気の少ない道を歩いていると、前から山高帽にトレンチコートの男が近づいてきた。夜だとはいえ、まだ夏が終わったばかりなのに暑くないのだろうか。左へ避けると、そっちからも一人。振り返ると三人。さらに五、六人が、どこからともなく出てきて聡を囲んだ。
「お兄さん、羽振りがいいようだね」
「なんですか、あなたたちは」
黒いスーツの胸元に一斉に右手が入った。やられる。
男たちが取り出したのは、鈍く光る金属製の――警察バッジだった。
「県警本部の黒木だ。妖精さんを使って不当に宝くじの当たり番号を操作した詐欺の容疑で捜査中だ。心当たりは?」
ある。でも、それって立件できるのだろうか。妖精さんは法の埒外ではないか、と聡は思った。
「逮捕状はあるんですか」
あんまり頭のいいセリフではないなと思いながらも、他に思いつかなかった。
「ないよ。今のところは任意だ」
「それじゃあ、僕は失礼させてもらいますよ」
歩き始めると前に男が立つ。どっちを向いても進路をふさがれた。
「それのどこが任意なんだ。物理的に拘束してるじゃないか」
「人聞きが悪いなあ。お兄さんが行こうとした所に、たまたま俺たちも移動しただけだよ」
「汚いぞ」
「それはお前だろ。妖精さんの力を使ってスポーツも芸術も好き放題に荒らして社会を混乱させた。調べはついてるんだ」
聡は言い返せなかった。
「さあ、一緒に来てもらおうか。任意でね」
男たちが一歩踏み出した。包囲の輪が狭まる。
「聡さん」
上空から声がして光の粉が降ってきた。聡は勢いをつけてジャンプした。刑事たちが手を伸ばしたが届かない。
「またズルをしたな。でも、いつまでもそんなことがまかり通ると思うなよ」
黒木は地上で地団駄を踏みながら叫んだ。
聡は飛行しながら流光に尋ねた。
「なんで誰にでも君が見えちゃうんだ。うちの娘には見えないのに」
「私の姿は、心の薄汚れた大人にしか見ることができないんです」
「逆じゃないのか。普通は心のきれいな子供にだけ見えるもんだろ、妖精さんは」
「そんなこと、誰が決めたんですか」
その時聡は違和感を覚えた。なんだか流光の羽から流れ出る光の粉が少なくなっているような気がする。
「流光、疲れているように見えるけど、気のせいかな」
「気づきましたか。その通りです。妖精力には限りがあります。使えば使っただけ減っていくのです」
「羽まで小さくなってないか」
「ええ。最後には抜け落ちて壊れます。そうなったらお別れです」
「死ぬ、ってことか」
「人間の感覚で言うと、そうなりますね」
「そんな大事なことは最初に言ってくれよ。僕のせいで弱ってるんじゃないか」
「あなたのせいというわけじゃありません。妖精力を使ったのは私の意思ですから」
「降りよう。命を削ってまで飛ばなくていい」
二人は手近の公園に舞い降りた。
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