エイダンは穏やかに眠りたい
「発展してるんですね」
マジョアンヌの勝利から数日後。
D組の教室にて。
今は授業中であったが、D組の生徒達はおしゃべりをしたり、本を読んでいたりと、思い思いに過ごしていた。
そうなった原因は、担任教師のシャルルルカにある。
授業が始まって早々に、シャルルルカは椅子に腰をかけて居眠りを始めたのだ。
「この教師のこと、信じて良かったのかしら……?」
ブリリアントはシャルルルカの寝顔を見て、後悔していた。
結局、シャルルルカはそれから起きることなく、授業終了を知らせるチャイムが鳴った。
シャルルルカはゆっくりと時計を見上げる。
「終わったか……」
シャルルルカは立ち上がって、背伸びをした。
「明日はちゃんと授業して下さいね……」
レイが呆れたように言った。
「……ああ、そういえば」
シャルルルカは思い出したようにそう切り出した。
「明日は課外授業があるらしい」
「明日!? 急に!?」
「伝えるの忘れてた」
シャルルルカが悪びれもなくそう言うものだから、レイは彼を殴った。
「暴力反対……」
シャルルルカは殴られた頬を手で押さえながら言う。
「殴りたくなる顔をしていたもので」
「なんて乱暴な」
シャルルルカは悪態をつく。
レイは一つため息をついて、自分の席に戻る。
「それで、課外授業って何をするんです?」
レイはシャルルルカに聞いた。
「【神竜の寝床】に結界を張りに行く」
シャルルルカは答えた。
レイは首を傾げた。
「【神竜の寝床】?」
「マジョアンヌ、説明しろ」
シャルルルカに呼ばれたマジョアンヌは、「はぁい」と元気よく返事をした。
「レイちゃんは『王都が神竜様によって守護されている』って話は知ってますかしらぁ?」
「ああ、先生から聞いたことがあります」
「その神竜様──ガルディアン様の住まう山が【神竜の寝床】と言われてるんですわぁ」
「へえ……」
──王都を守護してくれている神竜様を守るために、あたし達が【神竜の寝床】に結界を……ん?
レイの頭の中に更なる疑問が生まれた。
「どうして神竜様の寝床にわざわざ結界を張りに行くんです? 自分の寝床を守護すれば良いんじゃ……」
「そういう契約だからだ」
シャルルルカが話に割って入ってくる。
「説明を放棄したはずじゃ……」とレイが呟く。
「王都を守護する代わりに、我々人間が【神竜の寝床】に結界を張る。そういう契約が、私達の生まれる前から交わされている」
「それってやっぱり、魔王軍から王都を守るためにですか」
「そうだ」
シャルルルカは頷いた。
「王都の建物は他の都市と違うだろう?」
「はい。どれもオシャレで、縦に大きいですよね!」
「もし倒壊したら被害が大きそうだよな」
「え……」
建物が魔物の襲撃で倒壊することは珍しくない。
──それが、高い建物だったら?
レイはその光景を想像して、身震いする。
「神竜の守護のおかげで魔物の襲撃の心配がないから、見栄えの良いだけのものを作るんだな。全く、平和ボケも大概にしてほしいものだ」
「安全に暮らせている、と言って下さい」
レイはシャルルルカの言い方を咎めた。
「なるほど。神竜様の守護があったから、王都はこんなに発展してるんですね」
「ああ。神竜の守護は神竜が死なない限り不滅だが、人間の結界魔法は時間と共に弱まってしまう。だから、毎年張り直してる訳だな」
「ええ!? そんなに重要な仕事、あたし達にやらせて良いんですか!?」
レイは顔を真っ青にさせた。
「駄目に決まってるだろう。あとで結界のプロが、ちゃんとした結界を張り直す。これは課外授業。お前達は学ぶだけで良い」
シャルルルカはそう言い終わると、ふい、と顔を逸らした。
レイはその仕草に少し違和感を覚えた。
「……シャルル先生、なんか行きなくなさげです?」
「ん? 滅茶苦茶乗り気だぞ。王都の人々の安全を守るためだ。これ以上のやる気はないだろ?」
「嘘っぽい……」
──気のせい、だったかな。シャルル先生、浮かない顔をしてるように見えたんだけど……。
レイはシャルルルカの顔をじっと観察するが、彼はいつも通りニヤニヤと笑っているだけだった。
「まあ、遠足みたいなもんだ。適当に行って、適当に帰ってこよう」
その後、明日の持ち物や集合する時間と場所などを確認して、その日の授業は終わった。
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