伊東祥子 第10話




(やっぱりやな予感がする!!)


「え!? レナっ!?」

「わりぃ!! 陽子! 祥子の事頼んだっ!!」

「「えーー!!!」」


 ウチは階段の下まで来ると、まるで前にこの上で見た時の気持ちが蘇り、やな予感がウチの中に広がった。


(幸人は大丈夫だって言ってたけどよ! 相手は歳上なんだっ! 体格だって負けてんだし、そんな簡単に勝てるわけねぇ!)


 ウチは走った、全力で学校までの道を。


(せめて先生とかを呼ぶぐらいならっ!!)


「お、おい! レナ?」

「アレ? 三井?」

「ちっ! お前ら……ウチは今急いでんだよっ!!」


 新城と山中とすれ違う。あのバカは流石に行かなかったみてぇだ。だけど、それならそれでなんで幸人の事気にしてねぇんだ?


 ウチは少し引っかかって、振り返って新城に質問をぶつけた。


「お、おい!! てめぇなんでそんなのんびりしてんだよ!?」

「え、な、なんの事だよ?」

「ほらっ!! ウチが助けてやっただろっ!!あの時の事だよっ!!」


 新城と山中は顔を見合わすと、なんの事だとばかりに首を傾げる。


「おまっ……そんな薄情なヤツに成り下がっちまったのかよ!!」

「い、いやまてっ!! 三嶋の事をってヤツだろ? あの件はもう良いって言われてんだ! 忘れろってよ!!」

「じゃ、じゃあなんで今日……幸人は呼ばれたんだよっ!!」

「え!?」

「メモで……体育館裏に来いって……」

「ま、まて……どういう事だ? それはもう無しだって……」

「え? それ書いたの俺だけど?」

「「えっ!!」」


 ウチと新城は、山中がボケっとした顔で言い出した事実に、無償に腹がたった。


「いやさ、直前まで忘れててさ、急いでメモ書いて三嶋まで回させたんだよーー」

「じゃ、じゃあ今、三嶋は一人で!?」

「ん? なんか問題あるの?」

「ちっ!! レナ!! 俺は人数集めてから行く!! お前は帰ってろ!!」

「いやだ!! ウチは行くっ!! ほっとけっ!!」


 新城がPHSポケットから取り出し操作を始める。それをウチは無視して、再び走り出した。


「ま、まてっ! ぜってぇ飛び込むなよっ!! や、山中!! お前レナを追えっ!!」

「えーー??」

「良いから行けって!!」

「なんだよーー、ったくぅ」


 そんな会話が遠のく中、ウチの胸の中の不安は更に大きくなった。



#



 ウチが到着し、木の影から覗き見た時は、既に四人の先輩がうずくまり、幸人が大柄の男に回し蹴りを加える所だった。


 幸人はそのままもう一人を転がすと、奥にいた先輩の腹を殴って、最後は手刀で仕留めた。


「や、やべぇな……ミッシー……」

「つ、つえぇ……」


 私の後ろで山中がぶるぶる震えてるのが、触れてもいないの伝わる。


 カッコ良すぎるその姿は、幸人が公言した通りのもので、ウチは胸の内の不安が少し薄まっていった。


 そんな時、後ろに控えてた二人の金髪の男が、ポケットから警棒の様なものを取り出した。


「ず、ずりぃ……」

「幸人……」


 手前の男が下がり、二人は幸人の目の前まで来るとそれを幸人に向けて振り下ろした。だがそれを幸人は後ろに下がって躱すと、ケンカキックってヤツを一人に打ち込む!


「お、惜しい!!」

「ちっ……」


 それをクロスした腕で受け止める右側の男、そんな中で、左の男が警棒を振り下ろしやがった!


「あ!」

「ひぃ!!」


 幸人はそれを突然左手を胸に刺し込みそれを一気に引き抜いた!


カキンッ!!!!


 幸人は脚を右の男に乗せたまま、その十五センチ程の銀色の棒は幸人が引き抜くと同時に長さを変え、相手の警棒を弾く。そしてーー


「なんだよありゃ!!」

「うわっ…………」


 幸人は、右脚を勢いよく下すと、その脚を軸に回転し、もう片方の踵を飛び上がりながら右側の男の左頬に叩き込んだのだ!!


 だけど幸人はそこで止まらない!! 蹴りを入れられ、倒れ込む男がもたれかかって来たのを嫌がる左側の男のこめかみに、回転して金属の棒の下側を裏拳の様に叩きんだーー


「こ、こりゃ……俺達いらねぇんじゃ……」

「こ、ここまでだなんて思わねぇだろが……」


 幸人は最後の男と向き合う。すると、使っていた金属の棒を元の大きさに戻し、胸ポケットにしまい込む。


「な、なんでだよ、それでやっちまえばいいのに……」

「男だ……やっぱカッコいい……」

「へっ? あぁ、そうね? そうだよね?」


 武器を使うヤツには武器を、それ以外には素手でいく。男らしすぎる、


 二人の攻防が始まる、一進一退だけど、やっぱ幸人が優先だ!


「よしっ! そこだっ! いけっ!」

「お、おい、あんまーー」


(アレ? なんか影が……)


ガンッ!!


「ぎゃっ!!」

「へ?」

「おじょーちゃん達? ここで何してんのかしらぁ?」

「あ、ああ………ああ」

「さぁ、きなよぉ? 一緒に遊ぼうぜぇ!?」

「ゆ、幸人……ごめん……」


 ウチは自分の愚かさがマジで呪った……



#




「シンジぃ〜〜なんだぁ? そりゃ遅れたワビかぁ?」

「もぉー怒んなよぉ、ちょっと道に迷ったっつーかさぁ? ってやられすぎじゃん?」

「…………レナ」


 ウチは幸人の顔が見れない。自分の所為で、もし幸人が……


「おじょーちゃんと、コイツはお知り合いかのかな?」

「し、知らねぇっ!! たまたま喧嘩してるトコ見て……」

「あ、あれあれぇ? さっき彼氏がレナちゃんって呼んでなかったぁ? ほれほれ、ちゃんと顔を見せてあげてねぇ?」


 ウチを捕まえた、ちょっとオネェっぽい男が、ウチのほっぺを摘んで幸人の方へ向けさせる。


「どお? 関係無いなら今すぐ剥いてぇ、犯しちゃうけどぉ?」

「そんな時間やると思うか?」

「俺を止めれんのかよぉ? 背中からザックリやっちまうぜ?」


シュッ!!


「ちっ!!」


 幸人に向けてジャブみたいなのが放たれた。幸人はそれを躱すも、ウチに気を取られて反撃出来ない……


「おいおい、お前が躱す度にあの女に一発入れるとかどうよ?」

「くっ!!」

「なっ!! ぜってぇダメだ!! 幸人!!」


ボゴッ!


「良い子だぁ! シンジ! シッカリ捕まえとけよ!! コイツが躱したら速攻で一発いれろっ!!」


ゴンッ!!

バシンッ!!


「や、やめ……だ、ダメっ!! や、やめてぇ……」

「俺女の子の顔は無理だからさぁ、お腹とかにするけどいいぃ? 子供出来なくなったらごめんだけどさぁ?」

「ひ、ひぃ!!」

「ちっ! やめっーー」


ドゴンッ!!!!


「ぶっ……ガハッ」

「入ったなぁ、こんだけ深く膝入ったらちょっともうキツいんじゃねぇか?」


 幸人が体を丸めてしゃがみ込む……


「カハッ、ぐぅ……」

「さてと、取り敢えず寝ちまった奴等の分ぐれぇはシッカリ落とし前つけてぇ、その後その女剥いちまおうぜ?」

「あ、あぁ……ごめん……ごめんなさい」


 涙が溢れてくる……ごめん、ウチの所為で……本当にごめんなさい……


ガンッ! ゴンッ! 


「ほらほらぁ、そんなまわされるのが嫌なのぉ? 気持ちいいんだよぉ? ほら、泣かない泣かなーい」

「や、やめて……お願いだから……ウチの事はいいから……幸人だけは……」

「へぇ……ケナゲね? なんかイラッとするわぁーー」


パチンッ!!


「きゃっ!!」


 ウチは頬を叩かれて、その場から吹き飛んだ。そして倒れ込むウチの目に、走ってくる新城達が潤んでぼやけた視界に飛び込む。



「ゆ、幸人を助けてぇ……」

「大丈夫だーー」


 その時だったーー


シューーー!!


「ぎゃっ!!」


ボゴンッ!!


「グハッ!! いったぁ!! って、あ? あ? あぁぁぁぁ!! 目がーーーーー!!!!」

「し、シンジっ!!」

「隙だらけだっ!!」

「なっ!! おまっ!!」


ボゴンッ!! ガンッ!! バゴン!!


「うっ、がっ!! オエッ!!」

「トドメのトゥキックだーー」


ドンッ!!


「うぐぁああああぁぁ……」


 男が腹を押さえて動かなくなった、一瞬の出来事だった……幸人はゆっくりと目を抑えて泣き喚くオネェみたいなヤツに近づくーー


「いやぁあ!! いやぁぁ……痛いぃ……目がぁ目がぁ……」

「お決まりの台詞をありがとうございますっ!! っと」


ボゴンッ!!


「ぐえ…………」


 そいつにもそう言って蹴りを加えた……


「効いたなぁ……見ちゃいやん」

「ゆ、き……と?」

「み、みしまぁーーー!!」

「み、ミッシーーー」


 遠くから声を上げて駆け寄る男子達、ウチにはその声がとても邪魔だった。幸人の声だけが聞きたい。


「ワリィな? タイミング見てたんだ……あのオネェがレナと距離を取るのを」

「え……じゃあ大丈夫……じゃない……口から血がーー」

「まぁ、ダメージはそれなりに逃したけど……結構やられたな?」

「バカっ……ウチのことなんて、ウチのことなんて……うぇええええぇええん」

「ば、バカ、な、泣くなよ…心配して来てくれたんだろ? もう良いよ」


 ごめん、みんな。ウチは心でそう呟くと幸人に抱きついた……


「ったく、仕方ねぇな……」


 自分の髪に添えられた手、背中優しくトントンと叩く手……


「えぇぇぇんえんえんうあぁんあんあん」


 ウチは同級生の男達の前でカッコ悪く泣き続けた……


 

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