第3話 模擬戦をしましょう
もし本当にゲームで使用していたキャラクターと同じだとするのならば、俺はこの世界でどれほどの強さなのか純粋に知りたくなったのだが、流石に聖騎士団団長であるダグラスさんよりかは強くないのではなかろうか?
「ははは、してやられましたね。できればこの事は内密にして欲しいのですが……。俺が優秀だと知られてしまうと折角弟へと移った爵位継承権が、また俺へと回って来かねないですからね……」
「ほう……娘との婚約破棄までの流れからしてうすうす感じてはいたのだが公爵という肩書、それによって得られる権力などには興味がないのかな?」
「はは、公爵という爵位……聞こえはいいですけど見方を変えれば国家に首輪を付けられるという意味でもありますからね。その代わり美味い思いができたとしてもお断りです。俺の事を知れば戦争の道具にするだろうし、させられるのもまっぴらごめんです……。この国や民を護ってくださっている聖騎士団団長のダグラスさんの前でこんな事を言うのはあれですけど……」
「……ほう。実に面白い。達観しているというかいやに大人びているというか……。君ぐらいの男の子の中に富や権力を与えられると言われて自分を抑えられる事の出来る者がどれ程いるのだろうか……。しかしそうだな……このまま君を返すのも惜しい。一つ私と勝負をしないか? なに、ちょっとした模擬戦をするだけさ。君がどれ程強いのか興味が湧いてね」
一瞬だけ自分の強さの指標を知りたいと思い、了承しそうになったのだが、そんな理由で戦う意味もない……というか最悪死にかねないので俺は断る事にする。
そもそも自分から戦いたいというバトルジャンキー的な思考は持ってないしな。
「申し訳ないのですが──」
「あぁ、もし模擬戦で断ったり負けたりするような事があれば君の事を周囲にバラさせてもらうよ。勝てば秘密にしようじゃぁないか」
しかし、相手は魑魅魍魎が蔓延る貴族の世界で今まで生きて来たのである。
俺一人の考えなど透けて見えていただろう。早々に逃げ道を塞いでくるではないか。
「──分かりました……模擬戦をしましょう」
「若いのだから、そうこなくてはな」
そして俺とダグラスさんは、地下にある修練場へと移動する。
「へぇ……外だけではなくて地下にも修練用のスペースがあるんですね」
「そりゃ代々聖騎士団団長を受け継いでいる家系だからな。地下に修練場の一つや二つくらいあるさ。さて、長話をしても仕方がない。早速やり合おうではないか。私はもう早く君と戦いたくてうずうずしているのだよ」
「俺はむしろ戦う必要がないのならばこのまま戦わずして帰りたいんですけどね」
とりあえず、最後の抵抗として必要ないならこのまま帰りたい旨を告げるのだが、ダグラスはまるで玩具を前にした子供のような表情をしているではないか。
その表情からもこのまま戦わずして帰る事はできそうにない。
「ははは、そんな勿体ない事をする訳がなかろうっ!! では、このコインを真上に弾き地面に落ちた時が開始の合図で良いか?」
「かまいません」
そう俺が返すや否やダグラスはコインを親指の上に置いて弾く。
「まったく、流石に急ぎ過ぎではないですか?」
「フン、やはり私の一撃を躱したのはまぐれでは無かったようだな」
「そりゃ、まぁ……」
ダグラスはコインが床に落ちた瞬間に巨大な大剣で俺に切りかかってくるではないか。
そのスピードも大剣とは思えぬ程の速さであり、この大剣でここまで一気に距離を詰めて斬撃を加えてくるあたり流石聖騎士団団長と言うところであろう。
俺はその一撃をストレージから取り出した漆黒の刀で受け止める。
正直な話、俺が一番まぐれではなかった事に安堵している。
ゲームのステータスを引き継いでいるからと言って反射神経まで引き継いでいるとも限らなければ、初めに避けた事自体がまぐれであった可能性もゼロでは無い。
正直な話初撃を防ぐまでは俺自身半信半疑ではあったものの、ダグラスさんの一撃を『意識して防いだ』事によって、まぐれではないという事が分かっただけでも大収穫と言えよう。
しかし聖騎士団団長ともあろう人がこれで終わる訳もないので、次の攻撃に備えて警戒をする。
「では、これならどうかな? 初めの一撃程度であれば私の娘でも受け止める事ができるが、次の攻撃は私の娘ですら受け止める事が難しいらしく未だに避けて対処する技だっ!! 【五連斬撃】っ!!」
そしてダグラスは俺が初めの一撃を受け止めた事がよほど嬉しかったのか、その一撃よりもさらに威力の高い技を放ってくるというのだが、何で俺がその技を受け止める事が前提になっているのだろうか?
というか、もう受け止める事が前提になる事はこの際良いとして、せめてターン制にして欲しいんだけどっ!!
「がはははははっ!! 楽しいっ!! 楽しいな、ラインハルト君っ!! こんなに楽しいのはいつぶりだろうかっ!? わたしのこの一撃を真正面から防いで見せたのは君が初めてだよっ!! 感情が高ぶってきて仕方がないっ!!」
「あぁ、そうですかっ! それは良かったですねっ! ですが流石に三連続で攻撃を受けてやる義理も無いので次はこちらから攻撃させてもらいますねっ!!」
し、死ぬかと思ったっ!!
ダグラスは口にした技スキル【五連斬撃】という言葉通り、五つの斬撃で俺を攻撃してくるのだが、何で『連撃』と言っているのに同時に斬撃が来るんですかねっ!!
しかしまるで巨大な熊から、その爪と大きな手で切り裂かれるかのごとき一撃を、咄嗟に課金アイテム『物まね師の指輪』を行使してダグラスの武器スキルをコピーして覚えると、ダグラスと同じ武器スキル【五連斬撃】で相殺させて防ぐことができた俺を誰か褒めて欲しい。
ちなみにこの『物まね師の指輪』というアイテムなのだが、相手が行使した魔術又は技スキルをコピーできるという便利アイテムである。
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