第4話 そんな事が……あるのか?
この指輪の使いどころに関しては、育成キャラでは覚えられない技をコピーして、奇襲を狙うという運用方法ができるのだが、デメリットも当然あり指輪は相手も確認できるアイテムである以上『このキャラが覚えていない技を使用できる』と分かってしまうという事である。
その為折角苦労してコピーした技が全く奇襲にならないといった結果になることも良くある。
それを逆手にとってブラフに使うにしてもアイテムスロット一つを消費してまで使えるかというと、それならば能力向上のアイテムを装備した方が良いという結論になるので、相手の裏の裏まで考慮して技をコピーできるような玄人向きのアイテムと言えよう。
そして俺はというと、コピー能力を攻撃につかうのではなく、あえてコピーせずに装備して相手の攻撃で不意をつかれた時咄嗟に対処できる防御方法として『相手の行使した技をコピーして相殺する』という使用法をしていたのが功を奏したという訳である。
さらにゲームの知識を詰め込んでいるプレイヤーからすればおまけ程度の機能なのだが『コピーした技の内容を確認することができる』という知らない技をコピーした時の救済処置であろう初心者向けの効果があるので、それを利用して『五連斬撃』を確認してみると──
●『五連斬撃』スキル段位四:威力C:斬撃を五連発飛ばして相手を攻撃する。
──とだけ書かれていた。
……え? これだけ? 威力も弱ければ追加効果も何も無い、ただ斬撃を飛ばすだけの攻撃……て、聖騎士団団長であるゴリラが仰々しく放ってきた割には……他に隠し玉があるとか……?
そして『五連斬撃』の技の内容を見て、俺は疑心暗鬼になってしまう
威力C、追加効果なしの技などゲームであれば序盤から中盤に入るか入らないかくらいに覚える技と同等の内容ではないか。
そんな技で『いままで誰一人としてまともに受け止める事ができなかったとか言っていたとしたのならば、この世界のレベルは俺が思っている以上に低い事になるではないか。
そんな事が……あるのか?
俺はダグラスさんに放とうとしていた
この技は追加効果が無く、威力も他の段位三の技スキルと同じ程度である代わりに消費コストが低く発生スピードが速いというメリットがあるスキルである。
その為攻撃と攻撃の間に牽制として使うプレイヤーも多い印象のある技であり、使われた方は地味に鬱陶しい技でもある。
「では攻撃させてもらいます【烈刃斬】」
流石にこの程度では死にはしないだろうと行使する。
「ぐぬっ、何だその技はっ!? は、速いっ!? うぐあぁぁあっ!!」
するとダグラスさんは聞いたことのないスキル名に戸惑い、スキルの発生スピードに驚愕し、自前の大きな大剣で受け止めるものの、受け止めきれずにそのまま吹き飛んで行き、壁に激突してめり込んでしまうではないか。
こ、ここが地下で良かった……。屋外の建物であればぶっ壊していた所だった……っ!
「く、まさかこれ程の実力を持つ者であったとは……っ!! 世界は広いなっ!! この国には俺よりも強い者はいないと思っていたのだが、まさかこんな若造に負けるかもしれんと思うと滾るものがあるなっ!! がははははははははっ!!」
ダグラスさんは壁にめり込んでしまった身体を力任せに壁を壊しながら脱出してくると、バーサーカーと言っても過言では無いほどの形相で俺へ技スキルを折り交ぜながら攻撃してくるではないか。
しかも、その攻撃一つ一つが明らかに急所を狙ってきており俺を殺そうとしている。
「避けてばかりではこの私を倒せないぞっ!? さぁどうするっ!! 何もしないというのであればこちらは身体強化を使わせてもらおうっ!! これで否が応でも俺と戦わなければならなくなるだろうっ!!」
それだけではなく、どうしたものかと攻撃を躱しながら悩んでいると、ダグラスは身体強化まで行使してくる始末である。
「はぁ、どうやら今のダグラスさんを見てこの世界の人という種族の最高峰がどの程度の強さか理解できたし、もうこれ以上相手をする必要は無いか。……土魔術段位三【底なし沼】」
とりあえず、この荒ぶるゴリラをどうやって対処しようかと考えた結果、俺は土魔術段位三【底なし沼】を行使する事にした。
この魔術なのだが、水の上を歩くスキルを使う、又は空を飛ぶ相手 は効果を受けない魔術ではあるのだが、逆に言えばそのスキルを覚えていない又は空を飛べない相手を問答無用で無効化する事ができるバインド効果のある魔術とも言える。
他にデメリットを挙げるとしたら広範囲魔術ではないので上手く嵌めてキャラクター三人までしか拘束する事ができないという点くらいであろうか。
また魔術【グラビティ】をつかい重力を大きくして強引に【底なし沼】に落すというコンボもあるのだが、目の前のゴリラにはそこまでする必要はないだろう。
「ぐぬっ、何だこの見たことのない魔術はっ!? この私の筋力を持ってしても……ぬ、抜け出せないだとっ!? そもそも君は剣士ではないのかっ!? こんな強力な効果を持つ魔術を行使できるなど聞いていないぞっ!!」
現にダグラスさんは【底なし沼】に引っかかっており、ジタバタともがいている。
「あまり動かない方がいいですよ。動けば動くほど身体は沈んでいき、身動きが取れなくなって最終的には泥に埋まり窒息死してしまいますからね」
「ど、どうすればここから抜け出す事ができるっ!?」
「そうですね……負けを認めたら魔術をキャンセルしてあげますよ」
「…………そ、そんな……折角面白くなって来たところではないかっ!! 負けを認めてしまったらこの楽しい時間が終わってしまうっ!!」
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