三話  霊媒師の仕事

あれから数日たち、土曜日の朝。

部屋の片付けも完璧、あとは碇くんが来るのを待つだけ。

普段ひとり部屋で誰も入ってくる事がないので、片付ける事がなさすぎて、ものすごく散らかっていたのだが、掃除をしている時に、無くしていたものが見つかったり、昔の写真を見つけて、ひとり懐かしんだりしていた。

『ピンポーン』呼び鈴が鳴る。

玄関の鍵を開け、扉を開ける。

「おはよう!香織さん。上がっていい?」

「どうぞ!九十九さん。」

碇くんが、入ってきて扉を閉め、靴を脱いでついに家に入った。

そのままわたしは、自分の部屋へと案内した。

「こんな感じの部屋なんだ。」

「変かな…?

それより、霊媒師って何をするの?」

「あぁ、うちの家系はね、死んだ人の霊を自分に宿らせることのできる一族なんだ。

死んだ人と深く繋がりのあるものを媒体に、その人の霊を呼び出す事ができるの。

そうだな、今話したい亡くなったひととかいる?」

そう言われたわたしは、ふとこの前掃除していた時に出てきた写真に写っていた女の子を思い出した。

いつからか見かけなくなり、そしてある日、ニュースの流れてきたあの子。

「7年前に亡くなった奈澄菜あんずと話したい…!」

「わかった。その子と繋がりのあるものってある?」

そう言われてパッと思いついたのは、あの写真だった。

しかし、あれではあの子とのつながりが、弱い気がする。

「あっ!」

思わず声が出てしまった。

あの子が亡くなる少し前に、手作りのマフラーをもらったのを思い出した。

「ごめん、ちょっと待ってて。」

そう言いながら、クローゼットの中を漁り始めた。

この前片付けた時に荷物を整理したけど、元からクローゼットの中に入れていたものは見ていなかった。

そこに、マフラーをしまっていたのを思い出した。

「これ、あんずちゃんにもらった手作りのマフラー。

これならいけるかな?」

クローゼットから出したマフラーを見せながら訊く。

「これ…。」

わたしの手からマフラー取り、つぶやく。

「かなり重い…繋がりだね。

ほんとにただのマフラー?

…まぁこのマフラーならいけると思う。」

「ほんと…?」

「うん。

まず手を出して。」

言われた通りに手を前に出した。

「うん!そんな感じ。

でここにマフラーを置いて…。

じゃあそのあんずって子との思い出とか、記憶を強く思い浮かべてみて。」

マフラーを持ったわたしの両手を上から掴みながら言う。

とりあえず、このマフラーをもらった時の記憶や、学校での記憶、とにかくあの子との記憶をたくさん思い浮かべる。

「…飽きた。

あれっ、ここどこ?」

目の前の碇くんが声を出した。

「えーっと…九十九さん?」

そっと、声をかけてみる。

「…?九十九さん?

私は奈澄菜だよ。

ってよくみたら…香織ちゃん?

なんでこんなとこに?」

ハテナが舞った。

でも、碇くんが言っていたことが本当なら、彼の体にあんずちゃん本人の意識が宿っているのだろう。

「うん。私香織。

あなた、本当にあんずちゃん?

自分のこと覚えている…?」

「…?えーっとね、確か…。

死んだんだっけ?なんか、水の中で…。

で、暗くて何もないところでぼーっとしてたはず。

気づいたらここに…。」

実際に話を聞いていると喋り方や、口調があんずちゃんそのままだ。

「本当にあんずちゃんなんだ…!」

「うん…。

死んだのに…なんでこんなとこにいるの私。」

「あっ、それは…」

「はっ!

…あんずちゃんって子と話せた?」

あんずちゃんの疑問に答えようとした時、多分碇くんに意識が戻ったのだと思う。

「うん…話せた。

本当に死んだ人の霊を呼び出せるんだね。」

「まぁね。

まだまだ修行の身だけど…。」

少し笑いながら言う彼の姿に既視感を覚えた。

「そういえば香織ちゃんって、小中学校そこの公立だよね?

同じクラスになったことはないと思うけど…。

僕もそこの学校だったんだ。」

さらに衝撃の告白だった。

「知らなかった…。

わたし、あんまり友達とかいなかったし、他のクラスの子と関わることなかったから…。」

「そっか…。

僕も休み時間、教室の外からたまたまみた事があるくらいだったんだけど…。

あんずちゃんって…、同じ学年の子だった…。」

「うん。そうだよ。」

「やっぱり。

でも君あの事そんなに仲良かったっけ?」

そこまで言われて少しだけ思い出した。

「ううん。たまに話すくらい…。

あんずちゃん誰にでもすぐ話しかけに行くような子だったから…。

九十九さんって、四年生の時二組の…?」

そう、誰にでも話しかけていたあんずちゃんに、良く話して貰っていたわたし。

いつしか、あんずちゃんのことをずっとみるようになっていた。

そんな時、あんずちゃんが話しかけていた人の一人に九十九さんがいた。

昔の記憶…。

「そうそう!

そういえば香織ちゃんは…一組だったよね?」

そんな感じでしばらく、小学校の時の話をした。

お互いに関わりがなかったから、行事での記憶や学校の先生の話ばかりだった。

「9年間同じ学校だったのに、こんなに関わりがなかったって…。」

「うん、本当にびっくりだよね!

…あっ。

そろそろ帰る時間だ。

今日はありがとう!」

荷物まとめ始める碇くん。

「ううん、こっちこそ。」

「じゃあまたね。」

荷物を持った碇くんが部屋を出ようとした。

「待って!下まで送るよ。」

そういって一緒に玄関まで着いて行った。

「またね、香織ちゃん。」

玄関で言う碇くん。

「ねぇ。」

出ようとしていた碇くんを呼びとっめる。

ほとんど体を外に向けていた碇くんが、こちらを振り返る。

「少し考えたんだけど、碇くんのその力…。

死んだ人に会いたいっていう人いっぱいいると思うの。

そんな人達を助けられないかな?

わたしもできることはするから。

九十九さんと一緒ならできると思うの。」

あんずちゃんと話してから考えていたことを言えた。

「うーん。

家に無闇に霊媒師のことを言ってはいけないって言われてるから…。」

「でもわたしには、教えてくれたじゃん。」

少し強く言った。

「確かに…。

そうだなぁ。まず香織ちゃんが僕のことを下の名前で呼ぶ所かな。

今日一日ずっと苗字で…しかもさん付けで読んでたでしょ?

そしたらちょっとだけ考えてあげる。」

意地悪な笑みを浮かべた。

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