第24話 守護獣・集合

 高龗神たかおかみのかみへの挨拶も終わり、小迦華は次の場所へ向かう。


媱泉郡の綾峰城では、仕事の合間に、束の間の休憩を皆でとっていた。

天守では華那音と正房が、茶を飲んでくつろいでいた。正房が、

「いやぁ、真仁様と小迦華が結ばれ、皇子が、お生まれあそばせれば、媱泉郡は盤石になるのう」

「……あなた、聖皇との外戚を後ろ手に、操るつもりか……⁉」

「その力は計り知れないぞ……国を傾けるほどに……」

「正房……あなた……」

「……と、まぁ、昔、聖皇と姻戚関係を結び、一時の栄華を勘違いし、自ら滅んだ家が、四つほど、ありますな。西成家、梅津家、斎条家、房前家……愚かなことだ、聖皇を差し置いて、自ら政をおこなうなど……いくら、我らが、たとえ外戚になっても、主君・主権は主上、そして周りを支えるは、七曜の方々です。ふふ……」

「ぁあ、びっくりした、あなたったら、やめてよ……」

正房が何かに気づき、天守から外を見まわす。

「…………はて、華那音……白龍みたいなものが、こっちに向かって飛んで来るのじゃが……」

「…………また私を驚かそうと……、ぁら、白龍ですわね……」

「鐘を鳴らすか?」

何事かと近衛衆も

来たが華那音は制止し、

「……いえ多分、大丈夫です、敵意が一切感じられません……」

雪華は天守の近くまでゆっくり寄った、背に乗った小迦華は、

「お母様、お父様、御挨拶に参上しました。このような場から失礼します。私は白虹殿はっこうでんにて、是認の主と認められました。この子は私の守護獣になってくれた白龍の雪華きらです」

雪華は、

「初めまして、母様の御母上、御父上、『雪華』と申します。この身に懸けて、小迦華様の御身を御護りいたします」

華那音は驚きながらも、

「はい、宜しくお願いします」

「すみません、お母様、お父様、塩之祇郷にて大事な僉議があります故、これにて失礼します!」

小迦華と雪華は、飛び去り消えた。華那音は

「あの白龍の雪華ちゃんは、小迦華を母様と呼び、母様の御母上と私を呼んでくれた……つまり龍族と関係が出来たということですか⁉」

「んんんっなワケあるかぁ‼小迦華が卵を産んだとでも言うのか⁉」

「あぁまぁ、それもそうですわね」

「第一、真仁様がおるじゃろ……はぁ……とはいえ、小迦華が是認の主にか……頑張ったの……って!城下がドえらい騒ぎになっとるぞ~⁉はぁ……」


小迦華が塩之祇郷の浜辺に着くころ、雪乃と塩之祇郷の衆が集まっていた。皆、空を見上げ歓声をあげた。

「うおおおお!白龍様と小迦華様だ!」

ふわりと地に降り、小迦華と雪乃は抱き合って喜び合った。

「なんとも、お美しい黄白色おうびゃくの龍神様……」

郷人たちが手を合わせる。すると別の郷人が、

「な、何だあれ⁉ま、真っ黒いものが、飛んで向かって来たぞ⁉禍忌⁉」

雪乃と小迦華は、相手に敵意を感じなかったので、眺めていた。

(弥かしら?)弥と俱利伽羅が浜に降り立った。マサトと凛仙も同じく着いた。

「みんな!ただいま‼‼」

郷人みんなが歓声を上げる

「わ、若殿だ!黒龍様の背中に乗って、空を飛んできたぞ‼‼」

「ま、真仁様は、真っ白い御狐様に跨って!」

マサトは郷人のはしゃぎ様に、

「兄さま……えらいことに、なってますが……」

「ん、ぁあ~……マシロが成長してるのは予想してた……で、その白龍は、なんだ……?」

小迦華は、

「なんだ?とは、御言葉ですね、ふふ、私、雪乃と白虹殿はっこうでんに赴きまして、翠月華すいげつかの是認の主になりましたの!その試練の相手だった、闇龗神くらおかみのかみが白龍となり、私の守護獣になってくれましたの!」

「お初にお目にかかります。白龍の雪華きらと申します」

「おう!宜しくな!雪華」

「ワタクシはマサトです、宜しくね」

「はい、主上、弥様」

「んじゃ、こっちか、この黒龍は、俱利伽羅龍皇くりからりゅうおうで、名は倶利伽羅、で、マサトは?」

「はい、ワタクシの聖眼が目覚めたので、凛仙は『空狐』に成長しました」

雪乃と小迦華は、凛仙に抱きつき、

「わあぁ!尾が五本になって、もっとモフモフになってる~」

「気持ち良いですわ~」

凛仙は戸惑いながら、

「ちょ……お二人とも、くすぐったいです!」

俱利伽羅が雪華のもとに行き、

「我が名は俱利伽羅。雪華殿、神話の文献では、白龍と黒龍は相容れぬ仲と記されているが、お互い想いを供にする主を戴く身、我は、そなたと仲良くしていきたい」

雪華も頷き、

「ありがとうございます、俱利伽羅殿、私も元は、闇の龍神です。よろしくお願いいたします」

ひょっこりと塩婆が来た

「何を『馬揃え』=(軍事パレード)みたいな事しとるんだい、かか!」

俱利伽羅、雪華、凛仙は咄嗟に気づき、

罔象女神みつはめのかみ様!」

と、かしずいたが、塩婆は念話で、

(お前たち、ここでその名前を出すのは、禁忌だからね、あたしのことは「塩婆」と、お呼び、いいね)

「ぎ、御意……」

塩婆は、弥、マサト、雪乃、小迦華の顔を見渡し、微笑み、

「ほれ!使役してる奴も、さっさと守護獣を仕舞え」

「お……ぉう分かった」

数刻ほど経ち、弥たちは、いつもの小屋に集まっているようだった。その様子を、弥の父・智弥は、ニコニコしながらみていた。すると、ポンっと、背中を叩かれた。暗殺術を極めた者の背後を取るなど……と、塩婆だった。

「……ほ、なんだ、おばあちゃん……びっくりしたよ」

「お前、……黒龍が来た時、腰抜かしたろ……?くく」

「そりゃそうだよ。僕は試練から逃げ出したんだから、はは」

「嘘ぶくな、郷のためじゃろ?己が腕力に見切りをつけ、先代の隠密衆・頭領『鶴零かくれいに弟子入りを志願し、並みの者なら十年かかる修行を一年で修め、免許皆伝になった天才隠密、全ては、弥のためじゃろ?」

「……そうだね、『青龍殿の変』があって、『自力』の大切さを知った。火曜を襲名したけど、父の龍弥には遠く及ばない、だけどね、あの子は色々持ってるんだ、ならば、あの子の戦術の幅を増やしてあげようとね。あの子が五つの時に、おばあちゃんに引き合わせたのも、そのためさ」

「あやつ、弥は、強い子じゃ、まさか黒龍を守護獣にするとはの『蛙の子は蛙』じゃ、かか」

「さすがに、黒龍のあれには参りましたね、はは」


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