第25話 倫理とは……

 次の日の昼前に、典尚郡の使節団が到着した、特命全権大使は、もちろん「郡将・真寿豊将実ますらいまさざねなにやら荷物が多い、団の先頭には、将実が堂々と立っていた。こちらは双聖眼の真仁が先頭に、弥、雪乃、小迦華が脇を固める。将実は、

「真仁様。この度、まみえ奉りて、恐悦至極に存じ奉ります、此度、我ら、典尚郡は、真仁様のもとに付くと決めました。些少さしょう(少ない)ながら、真仁様に、御供物を献上奉ります」

「うむ、大儀である」

弥は、『些少(少ない)と言いながら、あの量は、尋常ではないな……』

将実との話し合いは、塩之祇神社で行うことにした。なぜなら、媱泉郡の綾峰城のような『離れ』みたいな、貴賓室は……ない。弥は、

「しかし随分と早いご決断でしたな。某は、ひと月は、かかると見ていたのに」

「叔父上様が、私たちの様子を見ていたようで、あの直後です。『潮の流れは変わった、真仁様のもとに参られよ!』……と、」

(……やはり、あの場にいたんだな、気色は感じてたからな)

真仁は、

「ところで将実よ、七曜として、朕と共に動いてくれるのは助かるが、おぬしは典尚郡てんしょうのこおりの郡将なれば、こののちの典尚の政は、どうとする?」

将実は、

「聖皇、それには及びません。拙者の実弟の信実に、のちの事を全て安心して、任せてあるゆえ、むしろ、政の腕は、信実の方があるやもしれません」

「そうか、それは頼もしいな、宜しく頼むぞ」

すると弥が、

「主上、とりあえず難しい話は、また明日にして、このあと風呂と宴にしませんか?」

「そ、そうじゃな、そなたらも、長旅で疲れておろう、風呂に行ってこい、腰を抜かすぞ、はは」

郷の武人衆の正彦に案内され、客人用の家に通された一行だが、荷物を置き、やっと一息つけた~みたいな和やかな雰囲気がでている。案内した正彦が旅団・十五名分の皆の分の茶を用意し、

「では、半刻ほどしたら、お風呂に、皆さまを御案内に伺いますので……」

将実は、

「色々と、かたじけのう御座います、正彦殿……」

「いえいえ、主上も、弥様も、貴方様がたが、いらっしゃったのが、たいそう嬉しそうでしたよ、当然、我々塩之祇郷の衆も、はは」

そして半刻が過ぎ、正彦が迎えに来た。

「さ、どうぞこちらへ」

「着きました、着物は、そのへんにある木棚にしまってくださいね。では、ごゆるりと」

風呂場に着いた将実と典尚の者たちは、立ちすくんでいた……

(こ、これが噂に聞いていた『如湖の大風呂』……って、湖じゃねえか⁉)

後ろから明るい声が聞こえてくる、弥達だ。

あぁ色々聞けると、ほっとしたのも一瞬、弥殿は、『裸』だ……って真仁様も

『裸』……聖皇が、いくら七曜とはいえ、他の者と、同じ湯に浸かっていいものなのか……?そんな考えをぶっ飛ばす光景が現れる……雪乃、小迦華、輝弥の姫三人が、一糸纏わぬ姿で、平然とこちらに、向かって来る。下手な禍忌たちが来るより、なんか……変な恐ろしさがあった……

(な、なんだ⁉どうなっているのだ⁉)

それを見た弥は、なんとなく気づき、

「お前ら、昔のマサトみたいな反応だねえ、マサトから聞いたけど、ここでの習慣は、かなり奇妙なもんらしい、でもな、俺は生まれてから、これに接して生きてきた。まあこれも文化よ、『郷に入っては郷に従え』ってな!はは!ほれ、さっさと衣を脱ぎな」

将実と典尚の衆は、服を脱ぎ、おずおずと湯舟に浸かった、その瞬間、皆が「ほえぇ……~」っと歓喜というか悦楽の声を上げた。弥は、思わず笑ってしまった。

「な?いいだろ?気持ち良いのを、男と女で分けなくていいのさ、へへ」

将実は、少し顔を赤らめて、

「たしかに、この気持ちよさを語らうなら、男女問わず入るのが最善なのでしょうな……ほんとに心地よい……他の郷では出来ぬことですな……」

「ね~~~気持ちいいでしょ?」

「ぇ、え、はい、いいお風呂です……」

将実は、声が完全に裏返っていた。それも仕方ない、天女が裸で目の前にいるのだから、雪乃は

「初めまして、将実殿、私は『遊兎・朝臣・雪乃』月曜の七曜の是認の主だよ。あと弥の婚約者!」

「あ、ご丁寧にありがとうございます。拙者は、『真寿豊・朝臣・将実』金曜の七曜です…………って‼‼弥殿の契り人~~⁉その御素肌を見るなど!」

雪乃は、

「……ぁはは大丈夫、その対応、マサトで慣れてるから……『郷に入っては郷に従え』でしょ」

雪乃は、手のひらをひらひらさせる。

「あ、はい承知しました」

後ろから、そろそろと近づく気配がある、将実は首まで湯に浸かっていたので、くるりと後ろを向くと、「にこ~~~っ」とした笑顔があった。小迦華がニコニコしながら、将実と話すのを待っていた。

「ようやく話せますね、私は『醐柳こやなぎ朝臣あそん小迦華こかげ』水曜の七曜の是認の主です、そしてマサト様の婚約者です。今夜は貴方とお会いできて光栄ですわ」

「……え”、しょ、将来の中宮様の御素肌を見るなど、申し訳ございませぬ‼‼」

将実は水中で平伏した……

「なんか不思議な人ね」

「とても真っすぐで、実直な方なんですよ、女子おなごに、これだけ気をかけてくださる……」

「……たしかにそうね」

マサトが典尚の者たちの面倒を見に来た、そのあと泊まり先に案内した。

弥は、雪乃と小迦華と将実のやり取りをニヤニヤ見ていた……が、後ろから、暗殺の殺気を感じた……でも、誰かは判明していた……輝弥かぐや

「……兄様……金曜の七曜の承継者の御仁が、賓客としていらっしゃるのに……その先導しるべたる者が、ここで、なにをしておいでです……?」

「……す、すまん、すぐに戻る」(おぉ怖えぇ……)






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強く美しい輝きの『聖眼』を持つ『聖皇』と『七曜』の物語『聖皇記』 雪村 @yukky-yukimura

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