第23話 乙女たちの戦い

 「……弥とマサト行っちゃったね」

「まぁ、新しい朝廷を興すのですから」

塩婆と阿瑠華が来て、

「お前さんたち、まさかあんな考え思いつくなんて、正直、驚き、感心したよ。ただ真剣に聞けば、なんとも面白い。理由、立地、どう調略し、仕上げていくのか、とはいえ、すんなりと事が進むわけは、ないじゃろうな。朝廷の者も、ちょっかいを出して来るじゃろうしの、ほほ」

雪乃は、うん、と頷き、

「弥とマサトが、順調に事を進めても、七日は、みるべきね。……そうね、小迦華!神殿『翠虹殿すいこうでんに行って、『水曜の是認の主』を得ましょう!」

「なるほど……妙案ですわね、月虹殿での、雪乃の試練を見たところ、一対一の試練、翠虹殿の位置は、媱泉郡の乾(北西)の方角、塩之祇郷からは、まあまあ距離がありますわね……」

「まぁ、片道三日もあれば着くかな……大丈夫じゃない?」

塩婆が

「ところで雪乃よ、最近『マシロ』を召喚しておらんのか?阿瑠華が、寂しがっとるぞ……」

「……あ!ごめんね阿瑠華、貴女の娘なのに」

「よろしいですよ、雪乃様、息災であれば、ぅふ」

「来て!マシロ」

久々にマシロを召喚した雪乃だったが、その姿を見て腰を抜かした……

「ま、マシロなの⁉」

マシロも話せるようになっていた。

「はい、雪乃様の成長に伴って、雪乃様から余って散る、霊力も糧にさせて成長させて頂きました」

今のマシロは、かつて試練で月虹殿で対峙した、蛟の姿の阿瑠華と同等、いやもう一回り大きいか。いまのマシロの体躯は、十一間(20m)にも成長し、両の耳の部分には、一尺ほどの骨が五本ほど生え膜が張り、羽のようなものがあった。

マシロは困った顔で

「雪乃様御一人でしたら、背に乗せ海を自在に動けるのですが……」

(……ぅう~~~ん、困ったねぇ……運んで欲しいのは、私じゃなく、小迦華なのよねぇ~……)

ふふぁふぁ、気づいた塩婆が

「母親の阿瑠華がおるじゃろ。そちらに小迦華を乗せな」

「え⁉阿瑠華良いの⁉」

「えぇ喜んで、娘と海遊できるなんて嬉しいですよ」

二人は、それぞれ乗り、出発した。阿瑠華とマシロは、二人でのお出かけに、本当に嬉しそうだった、そして目的の十里塚の浜に着いた。阿瑠華とマシロは浜で休んでてもらい、二人は、水曜の神殿「翠虹殿すいこうでん」へ向かった。神殿に着いた、月虹殿と同じく、石造りの社、地下への階段、これだけでも十分に怖い。だが進まないとね、と降り始めると、翠の燈火が足元を導く。最奥に着くと、翠の光が強くなった。翠の光に包まれた美しい姫が現れた……

「我が名は『淤加美神おかみのかみ』この『翠虹殿すいこうでん』の調停神です」

「畏れ多くも、私の名は『醐柳・朝臣・小迦華』水曜の七曜の襲名者です」

淤加美神は

「貴方が襲名の時に入った滝がありますね、あそこを守護するのが『高龗神たかおかみのかみ』です。この試練の場の主は、あの淡蒼翠色の被衣かつぎを羽織って立っていらっしゃるのが、『闇龗神くらおかみのかみ』です。闇龗神は五行とは別の、『闇』を使いますので、お気をつけて……」

「では、試練を始めてください」

龍の姿に変え、先に仕掛けてきたのは、闇龗神だった

「……冥獄葬送」

焔の煌明殿で、黒龍が使った法術だ。相手を暗闇で包み、口を持った六つの黒い玉が牙を剥き、小迦華を囲い噛みつく。

「っつ、痛い、ですね」

闇でも相手を「殺知」で気配を知ることが出来る、弥と雪乃と違い、暗殺術を知らない小迦華には重い相手だ。ふいに闇が消えた、向こうは容赦なく追撃してくる。

「……奈落閃影ならくせんえい

漆黒の閃光が小迦華を斬り裂く

黒氷咎刃こくひょうきゅうじん……」

黒い氷刃が小迦華の周りを何十本と囲う……

小迦華は、(まずは結界を‼)

水天鏡影すいてんきょうえい‼」

水鏡の如き結界で、襲ってきた法術を無力化する。

(……妙ですわね、法術主体で、直接攻撃がない……そして術を放つ時には、「間」が、闇龗神に現れる。……ぶっつけ本番ですわね、命を賭すとは、このことを言うんでしょうね……)

闇龗神くらおかみのかみがたたみかけてくる

「……奈落閃影」

小迦華は瞬時に相殺結界を張り、闇龗神の法術を消した、次の刹那、

小迦華は小太刀を逆手に持ち、腰を落とし低くし、「ふはぁぁ……」と静かに息を吐き、身体をはすに構え、右の踵に全神経を乗せた。そして瞳から光が消えた……

雪乃は(ぇ、うそ、あれって……)


「……影疾風かげはやて……」

小迦華は最短距離を一気に駆ける、闇龗神くらおかみのかみの真後ろをとり、闇龗神の相手の顎のあたりまで跳躍する。狙いは闇龗神の逆鱗である、小迦華は闇龗神の喉元を左腕で締め上げ、いざ小太刀で逆鱗を突き刺そうとした……が、小迦華は、手を止めた。闇龗神は、へなへなと崩れた。小迦華は、攻撃を受けて、額から血が滴っていた。小迦華は、闇龗神の頭を自分の膝枕に乗せた。

「聞かせてください、私は貴方を殺そうと、左腕をまわし、とどめを刺そうとしました……が、貴方は受け入れるように静かでした……私には貴女の『虚しさ』『哀しさ』が、まるで波のように注がれてきました……」

小迦華は、闇龗神くらおかみのかみの心に触れ、涙が溢れて止まらない……

「なんで……うぅ……貴方は……そんなに寂しく悲しいの……?ねぇ、教えて……大丈夫だよ……受け止めてあげるから……」

小迦華の頬を、血と涙が伝う……落ちた雫は、闇龗神の額にポタリと落ちた……

小迦華は、

「ね、もっと喜びを知りましょうね、みんなとご飯を食べて楽しみを分け合いましょうね、悲しいときは皆で一緒に慰めあいましょうね」

闇龗神は、ニコリとしながら珠の泪を零した……

小迦華は、膝の上の闇龗神の頭を撫でながら、

淤加美神おかみのかみ、どうかこの子に、外の世の中を見せて上げることは叶いませぬか?」

「まさに現人女神あらひとめのかみじゃな。そなたの守護獣にしたら良い」

すると、闇龗神の身体から黒い鱗が剥がれ落ち、黄白色おうびゃくの鱗の姿に変えた。

淤加美神おかみのかみは驚き、

「お、お前白龍になったのかい⁉ぁあ……小迦華の血と涙を受け止めたおかげか……」

皆が落ち着き、淤加美神より「神言」を賜る

「汝、『醐柳・朝臣・小迦華』水の試練を越え、今ここに水のしるべと成るを許す」

「小迦華、翠月華を、私の掌にのせなさい」

淤加美神の掌にのせると、翠月華が眩しく、翠色に輝く、真の力が解き放たれたというのが相応しいであろう。

「あ、あとこれは、さきほど白龍が流した泪の珠『龍珠』じゃ。飛びぬけた治癒の力がある。人の子なら死んだ者も、蘇生できるかもな、ただそれを行えるのは、膨大な神の守護が必要だろうの」

雪乃と小迦華は、淤加美神に御礼と別れの挨拶をして、翠虹殿を出た。

「ぅ!う~~ん、二刻(4時間)とはいえ、色々体験できたわね!……っと、言うより……小~迦~華~」

「な、なんですの⁉」

「なんでじゃないわよ!なんで、あんた、私に喰らった、初見の『影疾風かげはやて』を使えてるのよ⁉私、習得まで、めちゃくちゃ苦労したんですけど!」

「ぃ、い、いえただあの態勢をひっくり返すには、あの技が浮かんだんですよ!ほほ、ほ……」

「まあ、いいわ、今度暇あったら、暗殺術を指南するね!弥もいるし~、私と弥は『免許皆伝』だし~」

「心強いですわね、ふふ」

「ねえ、小迦華……あの子の様子……見て上げて……」

「えぇ……」

小迦華が、闇龗神くらおかみのかみの傍に寄り、御腹を撫でてあげる。

「ねぇ、何を思っているの……?」

「……私は、生まれ出しより、大地の奥深くにて、試練の相手とされ、日の光も見ず……心が、もう持てなくなっておりました、淤加美神にも伝えることもできず……私は、龍ですが、臆病なのです……そして、その時に小迦華さまが、おいでになられた……そして、私を陽の満ちる世界に導き給うた……」

白龍は、小迦華を見つめ……

母様ははさまと御呼びしてよろしいでしょうか?」

「私が母様ははさま?」

「はい、この七色の陽光の輝く世界に導いてくれた貴方様は『母様』です。どうか、ふつつかな娘ですが、どうか、そう呼ばせてください」

「ふふ、分かりましたわ……」

「母様……私に真名を授けてください」

「……はい、愛おしい我が娘……貴女はこれより『雪華きら』と名乗りなさい」

「ありがとうございます。母様」

女人に姿を変えて、海で遊んでいた阿瑠華とマシロが戻ってきた。かなり楽しんだ様子だ、……が、雪華の姿を目にした途端、二人はぴょんと跳ね、雪華に平伏した……

「白龍様‼‼」

雪華は驚き、

「た、確かに私は白龍ですが、新参者です、こちらこそ色々教えてください」

阿瑠華とマシロも安心したようだ。阿瑠華とマシロは「みずち」で、水の龍族だが、水を司る元・闇龗神で白龍は立場は同じ龍族でも段違いで上だそうだ……

小迦華は、

「じゃあ、雪乃さん、雪華と二か所行ったら塩之祇郷に戻りますわね!」

「はあぁい!行ってらっしゃい!私は先に戻ってるからね~~」

小迦華は、雪華きらの背に乗り、先ず向かったのは、媱泉神社であった。着いた時、宮司は白龍に乗っている小迦華を見て腰を抜かしそうだったが、是認の主に成ったことを報告すると、宮司は涙し、一緒に滝に来てくれた。雪華には、娘の姿になってもらった。宮司は、

「畏れ多くも高龗神たかおかみのかみの御前に申し上げ奉る。今ここに、清き誠の心をもって祈り奉る。高龗神たかおかみのかみよ、願わくば、御姿を現し給え」

すると、高龗神たかおかみのかみが顕現した。

「久しいのう……妹よ……息災でおったか……?」

「えぇ……でも寂しゅう年月に御座いました……でも……母様が外へ導いてくれたのです!」

「母様……?」

「ぁ、はい襲名の儀の際にはお世話になりました、水曜の七曜の小迦華に御座います……」

「妹よ、なぜこの者を母様と呼ぶのじゃ……?お前が白龍に成れたのも、その者のおかげなのか?」

二柱の龍神に挟まれ、小迦華は生きた心地がしない……

「母様は、私が傷つけた血が額を伝っているのに、傷ついた私の頭を膝に乗せ、優しく撫でてくださいました……私の今までの『生』を聞いて下さり、涙してくれました……母様の血と涙を受け、くらい鱗が外れ、白き龍に成りました」

「……そうか、そなたの生き生きとした顔を見れて、兄は安心したぞ……存分に常世を楽しみなさい……」

「兄様……ありがとう……」

「小迦華……、我が妹を頼むぞ……」

「御意」








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