第21話 剣聖として

 郷と海を見渡せる高台の野っぱらで、弥が海を、ぼ~~っと眺めていた。

「へへ、何を考えてます?兄さま」

「お前が御供してくれんだろ?」

「えぇ、そのつもりで、あの場であぁ言いました、此度の調略、ワタクシが鍵になるでしょう」

「なら、ちょっと寄り道して良いか?」

「……、寄り道ですか」

「天太刀の『是認の主』になる」

「そうですか……良いですよ。兄さまとの二人旅楽しみです」

七曜の天具の「是認の主」に成るには、それぞれの郡に存在する、「神殿」で試練を受ける。雪乃が「月虹殿げっこうでん」でみずちの試練を越えたように。

火曜の神殿「煌明殿こうみょうでん」で試練に挑む。神殿の場所は、、塩之祇郷のひつじの方角、(南南西)の森の中、距離は13里(50km)、参刻(6時間)もあれば、二人でなら着く。

弥と、マサトは早朝に出立した、無駄な体力は消費したくないので、現れる禍忌は、全て無視して進んだ。……が、途中で三匹の禍忌が同時に現れたので、相手をすることにした、

「さっさと殺るか‼」

「来なさい!凛仙りんぜん

久々に召喚された「凛仙」は、体躯が七尺ほどに大きくなり、尻尾が五本に分かれていた。きわめつけは、

「主様、この禍忌、全て祓って宜しいでしょうか?」

「ぅ、うん、頼むね」

「御意!」

(り、凛仙が話した……)

(き……、狐が喋った……)

凛仙は、

「……日輪翔衝にちりんしょうしょう

唱えると、陽の光の輪撃が禍忌を切り刻んだ。

「り、凛仙、どうしたの?」

「はい、主様が、『聖皇』に、御成りあそばしたので、私も『空狐くうこ』に昇格できました。『あやかしの術』も昇華し、『千里眼』を会得しましたので、何かあれば、すぐに御呼びください」

そう伝えると、凛仙は消えた……

「……ぇ、ええ~……」

「んな、なんか凄いな……」

(……ん、てことは、雪乃のマシロも……?)

そうして「煌明殿」に着いた。月虹殿げっこうでんと同じで、石造りの社で、地下にもぐっていく作りだ。二人は慎重に歩を進め、最深部に着いた。真っ暗だ……松明たいまつを持っているが、神殿の中が見渡せない、すると七つの灯りが部屋全体を明るく包んだ。すると、

「あら、御客人ですか?40年ぶりかしら……」

この様な薄暗い神殿の守護者としては、似合わない女神めのかみのように美しい女性が立っていた。その両手には、一振りの刀を携えていた。

「私の名は、『木花之佐久夜毘売このはなさくやびめと、申します……」

(……な、名前が長い……)

「はい、『有栖・朝臣・弥』、いま、私の名前長いと思ったでしょう?」

「⁉、いえ、そんな畏れ多くも!……ん?なぜ某の名を」

「継承の儀のあと、上機嫌の火之迦具土ひのかぐつちが、郷衆が奉納してくれた御酒の樽を持ってここに来たのじゃ。久々の大神事じゃから火之迦具土も、『とんでもない男が、火曜を襲名したぞ‼』っと嬉しくて、興奮冷めやらんって感じでの。二人で酔い潰れるまで呑んだわ、ほほ」

(ゕ、神も酔い潰れるのか……)

「……さて、戯言はここまで、試練をはじめますよ。覚悟は出来ていて?」

姫より刀を渡される。持った瞬間に分かった。これは「御神刀」だ。

「その刀は、御神刀『布都御魂ふつのみたまです。七つの光の真ん中にある『注連縄しめなわの巻かれた石が、ありますね?その石に、『布都御魂』を突き刺しなさい」

「御意」

弥は、注連縄の巻かれた石に、御神刀「布都御魂」を突き刺した。すると刺した剣先から、黒い龍が刀身に巻き上がるように顕現する。姫は、

「あの御神刀に現れた黒龍が、『俱利伽羅龍皇くりからりゅうおう』です。ここからが試練です。天太刀の力で、黒龍を伏せなさい」

黒龍が話した

「こうして七曜の継承者と対峙するのは、四十年ぶりか……楽しみじゃのう……」

黒龍が唱える

「冥獄葬送《めいごくそうそう」

弥の周りが暗闇に包まれる、だが、うっすらと黒龍の影は見える。それと暗殺術の、修行のに依り、気配は手に取るように分かる。なにやら黒い玉のようなものが六つ現れた、すると玉は、大きく「口」を開き、牙を剥いて、弥に嚙みつこうとするが、月影の一閃、すべて叩き斬った

(五行にない「闇」か……面白い)

弥は、

「焔嵐」

唱えると、暗闇が消え去った。

黒龍は強靭な顎で、弥の頭を噛み潰しにきた。が、弥の姿は無い。黒龍の左前の死角にいた。黒龍は飛び立ち、宙を泳ぎ、再び弥を噛みに来たがヒラリと躱す。

木花之佐久夜毘売このはなさくやびめ

「真仁、そなたが聖眼を開けば、その威に、俱利伽羅は、ひるむぞ」

「それには及びませんよ、もう少しご覧になれば」

弥は黒龍に、

「お前さんさぁ……相当強いはずだよなぁ……最初に人の言葉話してるから、解かったけど、龍の位では、最も上なんだろ……?だけどよぅ……その奢った態度が、気に喰わねえだよ……お前……やっちまって良いか?」

弥の姿が消えた……その時

「ぐ……ぐぇぇええ」

黒龍が悲痛な鳴き声ともとれる雄叫びを上げた。

弥が、黒龍の尾っぽと、左右の脚を切り落としていた。俱利伽羅龍皇が弥を卑下した。弥の怒りは、おさまらない、高く天に跳び空中で柄を握りしめ、渾身の力で振り下ろし、黒龍の背骨をへし折った。

「……ぐ、げ、へぇぇえ」

そして正面に立ち、黒龍の両腕を切り落とした刹那の剣技であった。弥は黒龍の胸元に寄り、何かを確かめた。

「ぉぉお、見つけたぜ‼『逆鱗』伝承では八十一枚の鱗のうち、喉元に一枚だけ逆さについてる鱗だよなぁ!」

黒龍は弱々しい声で、

「人の子よ……何を考えているか分からんが、止めろ……逆鱗、それに触れると『我は我』でなくなる……、全てを皆殺しにする『厄災』と化す……」

弥は微笑んで、

「あぁ……大丈夫、そんなの心配しなくていいから」

弥の瞳から、光が消えた……

「お前が先に、俺の逆鱗に触れた……」

弥は腰を据え低く構え、身体を右に捻り、放つ

逆鱗穿うがち‼」

天太刀・月影が、黒龍の喉元の逆鱗から脳天を貫いていた。黒龍は真横にバタりと倒れた。鬼神と化した弥は、頭を叩き潰そうと、月影を振りかぶった時、

姫が、慌てて、

「合格‼合格‼そこまでよ‼……ずいぶん派手にやってくれたわね……ちょっと待ってね、今なら、この子救えそうだから」

(久っびさに、本気でいきり立ったな……)

しばらくして、黒龍が姫の力で元に戻った

「……ほんと……龍殺しをしようとしたのは、あなたが初めてよ。四十年前、挑んだ、おじいさまの龍弥は、二刻、黒龍の攻撃に耐え忍び、認められて『是認の主』になったの。まさかあなたが龍殺し、の寸前までいくとは……どんな修行してきたのよ……ふぅ」

弥は、

「???、……ぁのぅ、某の父は……?」

「ぇ?、来てないわよ。父さん生きてるの?父さん死んだから、時間おいて成長した弥が来たと思ってたわよ」

(と……父さん、あなたは……)

マサトが後ろを向き、肩を震わせ笑いを堪えていた。

姫の霊力で傷の癒えた黒龍が、

「弥様、無理は承知でお願いいたします。私を守護霊獣にして頂けないでしょうか?」

「姫様、連れてって良いのか?」

「構いませんよ、ここは火曜の修行場。弥に御子が生まれたら黒龍を返してくれたらいいですよ。あと、時々御酒をくださいな。火之迦具土と呑むのは楽しくての」

「御意」

木花之佐久夜毘売このはなさくやびめ火之迦具土ひのかぐつち良い夫婦になりそうな……

「さて、龍よ、名を授けたいが、望む名はあるか?」

「僭越ながら昔よりの名『俱利伽羅くりから』と呼んで頂けたら幸いです」

「分かった、これから共に戦おう。頼むぞ。俱利伽羅」

「恐悦至極に存じます。我が命を賭して御護りいたします」

そして姫は、

「……さてと、面白きこと色々あったが、まだ『神言しんごん』を授けてなかったのぅ」

姫はすっと息をのみ、

「汝、『有栖・朝臣・弥』、焔の試練を越え、いまここに『焔のしるべ』と成るを許す」

弥が、七曜の天具・天太刀・月影の『是認の主』に成った瞬間であった。

すると姫は、

「この御神刀『布都御魂ふつのみたま』も、持っていきなさい。これから力になるでしょう」

「は‼この度は、由緒ある御神刀を賜り、恐悦至極に存じます」

姫に御礼と別れの挨拶をして外に出た……陽光が眩しい……だが、生きてるなという清々しさも感じた。

「いやあ、しかし兄さま、『天太刀・月影』『御神刀・布都御魂ふつのみたま』『妖刀・陽炎かげろう』の、三振りを腰に差す武人なんて、御国中見ても、兄さまくらいですね。はは。」

「まあ敵に応じて使わんとな、二刀の剣技も使ってみたいな」

「このあとは、どうしますか?」

「少し行った先に、加茂ノ浦郷がある。そこから典尚郡に渡る船が出てる。それに乗って、向こうに着いたら、一晩過ごし、明朝に郡府・亀ヶ崎城へ向かおう」

「分かりました、兄さま」




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