第21話 剣聖として
郷と海を見渡せる高台の野っぱらで、弥が海を、ぼ~~っと眺めていた。
「へへ、何を考えてます?兄さま」
「お前が御供してくれんだろ?」
「えぇ、そのつもりで、あの場であぁ言いました、此度の調略、ワタクシが鍵になるでしょう」
「なら、ちょっと寄り道して良いか?」
「……、寄り道ですか」
「天太刀の『是認の主』になる」
「そうですか……良いですよ。兄さまとの二人旅楽しみです」
七曜の天具の「是認の主」に成るには、それぞれの郡に存在する、「神殿」で試練を受ける。雪乃が「
火曜の神殿「
弥と、マサトは早朝に出立した、無駄な体力は消費したくないので、現れる禍忌は、全て無視して進んだ。……が、途中で三匹の禍忌が同時に現れたので、相手をすることにした、
「さっさと殺るか‼」
「来なさい!
久々に召喚された「凛仙」は、体躯が七尺ほどに大きくなり、尻尾が五本に分かれていた。きわめつけは、
「主様、この禍忌、全て祓って宜しいでしょうか?」
「ぅ、うん、頼むね」
「御意!」
(り、凛仙が話した……)
(き……、狐が喋った……)
凛仙は、
「……
唱えると、陽の光の輪撃が禍忌を切り刻んだ。
「り、凛仙、どうしたの?」
「はい、主様が、『聖皇』に、御成りあそばしたので、私も『
そう伝えると、凛仙は消えた……
「……ぇ、ええ~……」
「んな、なんか凄いな……」
(……ん、てことは、雪乃のマシロも……?)
そうして「煌明殿」に着いた。
「あら、御客人ですか?40年ぶりかしら……」
この様な薄暗い神殿の守護者としては、似合わない
「私の名は、『
(……な、名前が長い……)
「はい、『有栖・朝臣・弥』、いま、私の名前長いと思ったでしょう?」
「⁉、いえ、そんな畏れ多くも!……ん?なぜ某の名を」
「継承の儀のあと、上機嫌の
(ゕ、神も酔い潰れるのか……)
「……さて、戯言はここまで、試練をはじめますよ。覚悟は出来ていて?」
姫より刀を渡される。持った瞬間に分かった。これは「御神刀」だ。
「その刀は、御神刀『
「御意」
弥は、注連縄の巻かれた石に、御神刀「布都御魂」を突き刺した。すると刺した剣先から、黒い龍が刀身に巻き上がるように顕現する。姫は、
「あの御神刀に現れた黒龍が、『
黒龍が話した
「こうして七曜の継承者と対峙するのは、四十年ぶりか……楽しみじゃのう……」
黒龍が唱える
「冥獄葬送《めいごくそうそう」
弥の周りが暗闇に包まれる、だが、うっすらと黒龍の影は見える。それと暗殺術の、修行のに依り、気配は手に取るように分かる。なにやら黒い玉のようなものが六つ現れた、すると玉は、大きく「口」を開き、牙を剥いて、弥に嚙みつこうとするが、月影の一閃、すべて叩き斬った
(五行にない「闇」か……面白い)
弥は、
「焔嵐」
唱えると、暗闇が消え去った。
黒龍は強靭な顎で、弥の頭を噛み潰しにきた。が、弥の姿は無い。黒龍の左前の死角にいた。黒龍は飛び立ち、宙を泳ぎ、再び弥を噛みに来たがヒラリと躱す。
「真仁、そなたが聖眼を開けば、その威に、俱利伽羅は、ひるむぞ」
「それには及びませんよ、もう少しご覧になれば」
弥は黒龍に、
「お前さんさぁ……相当強いはずだよなぁ……最初に人の言葉話してるから、解かったけど、龍の位では、最も上なんだろ……?だけどよぅ……その奢った態度が、気に喰わねえだよ……お前……やっちまって良いか?」
弥の姿が消えた……その時
「ぐ……ぐぇぇええ」
黒龍が悲痛な鳴き声ともとれる雄叫びを上げた。
弥が、黒龍の尾っぽと、左右の脚を切り落としていた。俱利伽羅龍皇が弥を卑下した。弥の怒りは、おさまらない、高く天に跳び空中で柄を握りしめ、渾身の力で振り下ろし、黒龍の背骨をへし折った。
「……ぐ、げ、へぇぇえ」
そして正面に立ち、黒龍の両腕を切り落とした刹那の剣技であった。弥は黒龍の胸元に寄り、何かを確かめた。
「ぉぉお、見つけたぜ‼『逆鱗』伝承では八十一枚の鱗のうち、喉元に一枚だけ逆さについてる鱗だよなぁ!」
黒龍は弱々しい声で、
「人の子よ……何を考えているか分からんが、止めろ……逆鱗、それに触れると『我は我』でなくなる……、全てを皆殺しにする『厄災』と化す……」
弥は微笑んで、
「あぁ……大丈夫、そんなの心配しなくていいから」
弥の瞳から、光が消えた……
「お前が先に、俺の逆鱗に触れた……」
弥は腰を据え低く構え、身体を右に捻り、放つ
「
天太刀・月影が、黒龍の喉元の逆鱗から脳天を貫いていた。黒龍は真横にバタりと倒れた。鬼神と化した弥は、頭を叩き潰そうと、月影を振りかぶった時、
姫が、慌てて、
「合格‼合格‼そこまでよ‼……ずいぶん派手にやってくれたわね……ちょっと待ってね、今なら、この子救えそうだから」
(久っびさに、本気でいきり立ったな……)
しばらくして、黒龍が姫の力で元に戻った
「……ほんと……龍殺しをしようとしたのは、あなたが初めてよ。四十年前、挑んだ、おじいさまの龍弥は、二刻、黒龍の攻撃に耐え忍び、認められて『是認の主』になったの。まさかあなたが龍殺し、の寸前までいくとは……どんな修行してきたのよ……ふぅ」
弥は、
「???、……ぁのぅ、某の父は……?」
「ぇ?、来てないわよ。父さん生きてるの?父さん死んだから、時間おいて成長した弥が来たと思ってたわよ」
(と……父さん、あなたは……)
マサトが後ろを向き、肩を震わせ笑いを堪えていた。
姫の霊力で傷の癒えた黒龍が、
「弥様、無理は承知でお願いいたします。私を守護霊獣にして頂けないでしょうか?」
「姫様、連れてって良いのか?」
「構いませんよ、ここは火曜の修行場。弥に御子が生まれたら黒龍を返してくれたらいいですよ。あと、時々御酒をくださいな。火之迦具土と呑むのは楽しくての」
「御意」
「さて、龍よ、名を授けたいが、望む名はあるか?」
「僭越ながら昔よりの名『
「分かった、これから共に戦おう。頼むぞ。俱利伽羅」
「恐悦至極に存じます。我が命を賭して御護りいたします」
そして姫は、
「……さてと、面白きこと色々あったが、まだ『
姫はすっと息をのみ、
「汝、『有栖・朝臣・弥』、焔の試練を越え、いまここに『焔の
弥が、七曜の天具・天太刀・月影の『是認の主』に成った瞬間であった。
すると姫は、
「この御神刀『
「は‼この度は、由緒ある御神刀を賜り、恐悦至極に存じます」
姫に御礼と別れの挨拶をして外に出た……陽光が眩しい……だが、生きてるなという清々しさも感じた。
「いやあ、しかし兄さま、『天太刀・月影』『御神刀・
「まあ敵に応じて使わんとな、二刀の剣技も使ってみたいな」
「このあとは、どうしますか?」
「少し行った先に、加茂ノ浦郷がある。そこから典尚郡に渡る船が出てる。それに乗って、向こうに着いたら、一晩過ごし、明朝に郡府・亀ヶ崎城へ向かおう」
「分かりました、兄さま」
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