第18話 小迦華の七曜の襲名の儀
次の日の朝、客間に
郡将・華那音は、富を郡府に一極集中させず郡中を巡らせることで、郡民の生活水準は高かった。この経済の礎を築いたのは宰相・正房である。
「ほんとにコレ食べていいのか?」
「バチ当たらんかね、はは」
塩之祇郷の衆の遠慮気味な様子を見た華那音は、
「さぁ、皆さん、もう我らは友なのです。いっぱい食べてくださいな」
「は、ははぁ!有難く頂きまする‼」
弥、雪乃、灼弥・輝弥は、すでに箸を付けていた。
「兄上!これが名高い『媱泉の鯛』ですね!とても美味に御座います!」
華那音は、
「あら、食べっぷりの、気持ち良いのは、兄上様譲りですね……たくさん召し上がってね……ふふ」
「は、大変美味しゅう頂いております!」
「兄様、この貝のお料理は?」
「おぅ、それは『牡蠣』という貝を、焼いた料理だ、
絞った汁を垂らし、塩を少し振りかけ食してみよ」
「んんん~~~……美味に御座いますぅ」
「ぁはは、輝弥可愛い!」
雪乃が、コロコロ微笑んでいる。
その様子と会話を聞いた、華那音は、弥の側に寄り、瞳を潤ませ……
「弥殿、……もし出来ればで良いのですが、今より多く、『神の御塩』を仕入れたいのです。媱泉の郡民は味にうるさくて、取り合いには、なりませんが、塩之祇郷の『神の御塩』は、垂涎の的なのですよ、ほほ……」
「……そうですか、では某が、御塩の庵の主に申し伝えておきます……」
「感謝申し上げます。ところで、皆さまは、この後の御予定は……?」
「そうなんですよね……ん~、媱泉郡と同盟を結べた、真仁様と小迦華様も、『
「もし、急ぎの用がないのでしたら、もう三日ほど、いてくださいな。今宵は特別な宴も御用意しますし」
「特別な宴ですか?」
「はい、『小迦華の七曜の襲名の儀』を執り行います……」
「え……襲名の儀……」
「もう、聞いたら、弥殿、雪乃様は済まされたと。では、いま、小迦華の七曜の襲名の儀のための、時は満ちたと判断しました……うふ」
夕の暮れとなり、小迦華の「七曜の襲名の儀」が始まった。儀式は綾峰城から少し離れた森の中、「媱泉神社」で行われる。城門から出て、先頭を
媱泉郡からは、郡将・華那音、宰相・正房、左近衛大将・白崎真勝、右近衛大将・赤瀬藤吾。
塩之祇郷からは、真仁、有栖弥、遊兎雪乃、有栖灼弥、有栖輝弥、他に護衛四名。
媱泉神社に着いた、大きく荘厳な造りである……神社の真後ろに、一筋の滝が流れ落ちている。
『
「水を司りし『
小迦華の身体の周りに無数の薄翠色の光の玉が生まれ、小迦華を囲う……七曜と認めれた証であった。
戻った小迦華は、真っ白な絹の打掛を羽織る、そして跪く。朱い
「天玉・翠月華」が、のせてあった。宮司が、
「水を司りし、淤加美神より、『醐柳・朝臣・小迦華』、水曜の七曜と認め、証として汝に天玉を賜ふ」
「畏れ多くも、この尊き珠を賜りしこと、恐悦至極に存じます。神の御心に背かぬよう、正しく用い奉らん……」
無事に水曜の継承の儀が終わった……が、宰相は、可愛い娘、水浸しの小迦華が風邪を引かぬよう……
「左近衛大将!小迦華を抱えて全力で走り、城に戻り、焚火の側に座らせなさい‼‼」
「は!御意に‼‼」
すると、弥とマサトが、
「ちょっと待ったぁ‼‼」「待ったです」
「え⁉真仁様、弥殿、いかがしましたか?」
「……ぃやあ正房殿、真仁様が結界を張って、某が焔術で空気を温め、真仁様の風を起こせば、小半時(30分)も、かからないかと……へへ」
……やってみたら思った以上に、すぐ乾いた……
「あぁぁ……ありがとうございます。弥さん、マサト様~。あぁ暖かい……想像以上というか、……それを絶するほどに龍神様の御水は冷たく……本当に心ノ臓が止まるかと思いましたよ……ふふ……」
華那音は、真仁と弥に瞳を輝かせながら
「今見た光景は、大変感銘を受けました。戦の時に異なる五行を交える戦術は御座いますが、こうして普段の生活でも五行を組み合わせ使えるのですね……ぃや、すごいですわ」
「せっかく加護があるのなら、生活でも、どんどん使うべきですよ」
「早速、媱泉郡の全郡民に奨励しますわ」
(この御方の行動力は、こちらが是非見習うところだな……)
そして綾峰城に戻り、儀式の成功を伝え、祝いの宴が始まった。客人扱いの塩之祇郷の衆は、鳳翔の間に呼ばれ、旨い酒、旨い肴を楽しんでいる。皆も普段の、どんちゃん騒ぎは、せず、媱泉郡の郡兵や武人衆と楽しく、武術や稽古について、相語らっていた。元々塩之祇郷の武人衆は武勇に優れていると、知れ渡っているので、他の郡の武人衆と楽しく呑んでいる姿を見た、弥は嬉しかった。すると雪乃が、
「なんか嬉しそうね」
「あぁ……こうして他の郡の人たちと、呑んでるってのが、なんか不思議で、嬉しくてな……東の郡の人たちとも、こう、なりたいなと思ってな……」
「そうだね……」
華那音と、正房がそばに来て、
「さぁ弥殿も、雪乃様も、御一献……」
華那音は、弥に、正房は雪乃に酒を
「かたじけない」
「頂きます」
華那音は少し頬を赤らめながら、
「あ、あの弥殿、明日ですが、御前試合を催したいのですが……媱泉郡の武人衆と、塩之祇郷の武人衆で……いかがでしょうか?」
隣を見た雪乃は、ぎょっとした。弥は瞳を
「華那音殿‼是非!是非とも行いましょう‼‼立会人は某が務めまする!」
「ぁら、弥殿は出ないのですか?残念ですわね」
「ぃやあ、いきなり参加するかもしれませんよ!はは!さぁ華那音様も正房殿も御一献‼」
(コイツが出ない訳ないでしょ‼)と、雪乃は思った。
庭の池の畔で、マサトと小迦華が座っていた、
「継承の儀、ご苦労様でした、小迦華」
「マサト様、ありがとうございました。弥さんと雪乃ちゃんが、継承の儀を終えたの見て、少し焦りを感じておりました。先を行ってる様に思えて……でも今はこうして襲名の儀を終えて、やっと、あの二人に肩を並べることが出来たと思うと、すごい安堵して……」
「それは良かった……」
「……あの……真仁様の襲名の儀は、なにか特別なことをなさるのですか?」
「ワタクシの日の神の襲名の儀は、それ即ち聖皇への即位です。なので、少しまだ先ですね。聖皇は民を安寧へと導く存在とありますが、ワタクシにとって、導いてくれる存在は、兄さまですね。常に正道を歩み、『威あり・風格あり・人望あり』
ワタクシが聖皇として成長するための御手本です。はは、あの人といると、なんでも出来てしまうって思わせてくれる」
「マサト様と弥さんは、本当にお互い尊敬しあって、おいでですものね、こちらが妬けてしまうくらいに……ぅふふ」
「時折、とんでもない驀進しますがね……まぁ火曜の気性ということで、ただ、ここでの立ち振る舞いには驚きました。礼儀作法はもとより、媱泉の方のいる前で、一回も、『俺』って、言わなかったんですよ!」
「驚くこともないでしょう。弥さんの御祖父母、御両親、皆、『彌榮・塩之祇』の要職の方たちですもの、おじいさまは、元・郡将で『剣聖』ですよ。灼弥・輝弥見ればわかるでしょうに……」
「ぁ、たしかに、そうだよね」
「さ、宴の席に戻りましょう……ふふ」
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