第17話 聖皇の誓い
塩之祇郷の宴とは、また違った、和気藹々とした心地よい宴だ。雪乃は、
「スゴイ!魚の刺身を重ねて巻いて、花の形を作る……胡瓜を細工切りにして、葉に見立てる……綺麗だし美味しい~!」
「城の『
塩之祇郷の衆が、華那音にお酌され、カチコチに固まっている。
灼弥・輝弥は、媱泉の郡兵・武人衆の話を熱心に聞いていた。
宰相の正房が、弥のもとに寄り、
「さあさ、どうぞ一献……」
「これは、宰相殿、恐悦至極に存じます」
グッと飲み干し、
「正房殿も、どうぞ御一献……」
「では、ありがたく」
飲み干した正房は、月影を見つめ、
「無礼ながら、火曜の七曜の弥殿、その天太刀を拝しても宜しいか?」
「えぇ、無論に御座います、大変重い故、某が支えてますので、ごゆっくり、刀身をご覧ください」
「おぉ……なんと雄々しく猛々しい姿、美しい刃文……さすが伝説の太刀……あ、弥殿もう十分です、天太刀に心揺さぶられました……はは、私は刀を見るのが好きでの……」それを耳にし、弥の「悪戯心」が現れた……
「……そういえば、宰相殿、姫の大事さ余り、他の男を弾くので、『愛し過ぐる親』の二つ名は、うちら、塩之祇郷にも届いていますよ、へへ」
「……くく、いやはや、隣の郡まで、伝わっていようとは……、お恥ずかしい。
……されど覚悟のある「男」にしか、娘との婚姻は認めませんよ。これから、あの子は水曜の七曜を襲名し、是認の主と認めれるために、神殿『白虹殿』で試練に挑み、力を得て、聖皇のもとに仕える。ところがなんじゃ⁉小迦華に求婚も求めてくるのは、馬鹿で痴れ者しかおらん!」
「……と、申しますと……?」
「もぅ、要は、己の血筋の先祖の自慢大会じゃ!某の高祖父が、何々したので姓を賜ったとか、当家は何代目のなになにがぁ~とか、……そんなの己の功績でなく、おのれらの、先達が命と賭して、獲た者だろう。そうではなく今を生きる、お前の命を賭した自慢できる功績を示せ!七曜の夫として、隣に並び立てられる漢と示せ!わしはそう言いたいのだ……」
(宰相殿、実際に話すと印象違い過ぎるよ。『愛し過ぐる』ではなく、普通の、いや、慈しむ娘への想い。素晴らしい父親だ)
正房は、
「もし、もしですぞ、弥殿が、娘をくれと言われたら、わしは頷くよ。あとは郡将と、話してくれと、あなたは、今という、この刹那の時を、精一杯楽しみ、苦しみ、逞しく、己を持って生きていらっしゃる、はは」
「あら宰相殿、随分と弥殿と上機嫌に話してますわね……」
「ぇ……いや、郡将、その……興が乗ってしもうて……」
「あ、……そうだ、他の塩之祇郷の衆は?」
「ご用意してくださった、客用の寝所に連れて行ったわ。灼弥・輝弥も寝てるでしょうね……」
「華那音殿、宰相殿、御心遣い感謝いり申す」
そして、鳳翔の間には、マサト、弥、雪乃、小迦華、華那音、正房、の六人だけになった……
マサトは、凛とした様子で、閉じてる瞳で、華那音と正房を、見つめ……
「華那音様、正房殿、貴方がたの姫の小迦華を、ワタクシの妃、つまり『皇后』として、迎えたいのです」
華那音は、瞳を潤ませ、
「はい……真仁様、私たちの一番大切な宝を御渡し致します……」
正房は、微笑み
「恐悦至極に存じます……」
「小迦華には命を救ってもらいました。今度はワタクシが、この命尽きるまで、小迦華を愛し、慈しみ、聖皇として、どのような
その言葉を聞いた小迦華は、膝から崩れ、両手で顔を覆い、泣きじゃくった……
二人の「想い」が……成就した瞬間であった……。
雪乃は、いまは、か弱く小さい少女の様な、小迦華が、たまらなく愛らしく、愛おしく感じそっと優しく抱きしめてあげた。
弥も微笑み……(良かったな……マサト、小迦華……)
半刻ほど経ち、華那音と小迦華は、天守にいた。
「あの優しくおとなしく、幼かった、貴女が旅をして良い友と巡り逢えたのは、母は、嬉しく思っています。しかも七曜の方たちと、本当に巡り合わせとは、不思議なものですね……」
「はい、母上様」
「時が満ちれば、貴方は『皇后』と、おなりあそばす……覚悟は出来ていまして?」
「覚悟など、とうに出来ております」
「そうですか、……ふふ、聖皇・真仁様より、マサト様に心があるのでしょう。マサト様で、いらっしゃる時は先代と、澪子様を感じ取れるのですよ」
その頃、月が映える庭の池の側で、弥、雪乃、マサトの三人が座っていた。
「なぁ、マサト……聖眼を開いてるのって、身体に堪えるのか?」
「……そういえば、謁見の時も、最後辛そうだったからね……」
「……気づかれてましたか……何というか、覚醒した聖眼の力に、身体が、まだ追いついてない状態ですか……」
マサトは一呼吸し、
「母上が、青龍殿の変で逃れる時、将来の真仁、つまり現今のワタクシの為に、書を何冊か持ち出してくれました。母上が亡くなったあとに、見つけたのですが、宮中でのしきたりや、礼儀作法、宮中での言葉や、古代の歴史、そのなかに『聖皇記』という、書がありました……」
マサトは、大空の月を見上げ、
「聖皇は、どうあるべきか、聖皇のするべきこと、してはならぬこと、初代と古代の聖皇の歴史等、そしてその一文に、通例、聖眼は五歳くらいに現れ、聖眼の霊力の高まりに、合わせて、身体も成長するみたいですね。ワタクシは、いきなり双聖眼を現したので、身体が追いついていないのでしょう。もって一刻(二時間)ですね、いまは……」
「ま、徐々に、少しずつ強めれば、良いんじゃない?」
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