第14話 二つの御前僉議
次の日の昼、珍しく、塩婆と
「ばあちゃんが来るなんて、珍しいね……」
「お前を褒めに来たんだよ、けけ」
「……?……俺、何かしたか?」
「昨日の禍忌二体じゃよ。頭だけしか傷ついてないから、皮は丸々売れるし、何よりも内蔵よ!無傷じゃから生薬として売れる!熊の肝なんて、いくらの値がつくかね~、それに二頭とも、度を越えた大きさじゃからの、郷には有難い仕事をしてくれたね。さっき肉を捌いて、肉は皆で分けたよ……これは、お前さんとこの分だよ!」
「へへ、ありがと」
「お前は随分と月影と相性良いみたいだね」
「あぁ‼じいちゃんから伝授してもらった技が、自在に何倍にしても出せる!」
「お前の父親は、襲名の儀の時しか、持っておらんかったのぅ……なぁ智弥……?」
振り返ると、
「ぃいや、そんな重い物持って、役所に行けないよ……とほ……」
「まぁ、智弥は体躯に恵まれた方じゃないからねぇ……って、居ない……」
(俺も気づかなかった……
「……弥よ、悔しく思わなくて、良い……お前の父・智弥は『影疾風』・『隠形殺法』・『夜叉之技』・『影刃』・『無音殺し』・『冥滅』・『奈落の掌』……その『冥府ノ七手』を十代で体得したからのう」
(じいちゃんも、父さんも、すげえなあ……)
弥ら四人は広場で雪乃と小迦華の作ってくれた握り飯を食べながら、今後について、話し合いをしよう、ということにした。
「ここ数日間、朝廷とか他の郡も、目立った動きは聞こえてこない。俺たちは、今こそ、動き出す頃合いと思う。とりあえず四人ばらけて、それぞれに考えをまとめといてくれ、夕餉が済んだら、あそこの小屋に来てくれ、掃除はしたから」
真仁らの御前僉議
皆の夕餉も済んだ、戌の刻(17:00)小屋に四人が集まっていた。
「さて本来なら他にも、武人衆・隠密衆らも、集まって話し合いたいところだが、意見の相違が生まれれば、話が滞る、故に、この先の大筋を七曜で決めたい。じいちゃんだけには、別の大事な用があったから、伝えてあるけど、まぁ外には、護衛で瑆連が控えているが……では、御前僉議を始めましょう」
真仁が聖眼を開く、ふわっと空気が揺れる、この瞬間、四人の力関係が一転する。
「ふむ、ではまず、弥、そなたの考えを聞きたい」
「は、
雪乃は両手で顔を覆い、
「……私の故郷が……」
「案ずるな、雪乃よ。必ずや取り戻す。また豊かな郡にしよう。弥、するとあれか、幽遠と中枢を叩くか?敵方の残存兵は、どれ位じゃ?」
「賢正郡に放っていた斥候衆が戻っております。瑆連を、同席させて宜しいでしょうか?」
「かまわぬ」
「主上、畏れながら奏し奉ります。賢正郡は、さきの戦で、二千人のうち五百人出兵させたようです。そして、六百人ほどが、城にいるようです。賢正の郷を全て見て廻りましたが、塩之祇郷のように、武人衆のような者がいる郷はありませんでした」
「ふむ、こちらの兵力は?」
「は、元・
「兵の数だけで見れば、五分五分じゃが、個々の能力を比べると、こちらが圧倒的に有利じゃな……双方全面でぶつかれば、敵方を虐殺してしまうぞ、此度の戦は、なるべく敵兵を殺さず、戦意喪失の者、怯えている者は見逃せ。郡将の幽遠の首を獲ることを第一とする……っつぅ……」
急に真仁が両のこめかみを押さえる。
「お、主上どうされました⁉」
「……な、何か頭の中に、波のようなものが響いての……」
(方角は……
真仁は結界を張った。
「主上⁉」
「心配するな。結界を張った、どうやら聖眼を開くと聖眼同士、響鳴を起こすみたいだ、もう平気じゃ、続けよう」
すると小迦華が、
「主上、兵を二つに分けて攻めるのは、どうでしょう。一方は、先日、私たちが、
瑆連が驚き、
「小迦華様は知っていたのですか⁉」
「私は
「よい。それで決まりじゃ。そして賢正郡を平定したのちは、
「はい、主上。媱泉郡は初代より女系が家督を継いでまいりました」
「媱泉郡とは同盟を結びたい。その時は橋渡し役となっておくれ」
「謹んで御受け奉ります」
「よし、では明日、郷の者を集め、いま話し合ったことを伝えよ!……それと朕のことについては、弥と雪乃でうまく伝えてくれ……」
「御意」
「御意」
そして御前僉議が終わった。
ーーー宮中御前僉議ーーー
御所・青龍殿にて、御前僉議が始まった。
九十八代聖皇・為仁、 関奏・六条宗近 『五賢老』
「……まずはだが……二千もの兵が、たったの、四人に敗けたというのは、まことなのか?にわかには信じられんのだが……」
「畏れながら奏します。事後確認のために遣わした者たちの報告には嘘偽りはないかと……」
「事実とは言われても、……あまりに荒唐無稽な話じゃ……」
「
「あるいは多数の敵を殲滅できる法術師がいたとか……?」
「……それもありうるな……」
僉議の場に、誰かがコツコツと足音を立て近づいてきた。
「何者だ⁉」
「帝と、関奏、五賢老が集まって、皇国について、大事な話をしていると聞いて、少し盗み聞きをしておりました……ふふ……」
そこに現れた者は、小柄で、紫色の
突然現れた者に、
「東宮殿下‼‼‼‼」
「……貴仁……」
「……二千の兵が乱入した禍忌に全滅させられた?……多数の敵を一気に
「……畏れ多くも、申し上げる言葉が見つかりませぬ……」
「帝、先の戦で、何か感じたことは、なかったですか……?」
「……感じる……?」
「聖眼を顕現した者は、互いに響鳴を感じるんですよ。波の様に、それが「聖眼響鳴」、帝の波も、もちろん感じています……(虫けらみたいのな……)あの時、余は凄まじい響鳴を感じました。頭が割れるほどに……激情により目覚めた「聖眼」……いや、あれだけの波……というより海嘯……『双聖眼』でしょうね……」
「……た、貴仁……お前は……何を、ゆうておるのだ……⁉」
皇太子は立ったまま父帝を見下ろす。目隠しの隙間から、貴仁の聖眼が輝く。
「三人目の『聖眼の顕現者』が、現れたということです」
その言葉を耳にした途端、帝は頭を抱え震えだした……
「……そんな馬鹿な……あれは……あの時死んだはずだ……」
貴仁は、その姿を見て呆れてしまった
(この、どうしようもない愚帝が……っ……)
「……帝……あなたの「聖眼」は本物ですか?」
「殿下!お言葉が……」
「
東宮の絹布の目隠し越しに聖眼の鋭い眼光が突き刺す……
「ぉ…………畏れ多くも、お詫び申し上げます……」
「興が冷めた、余は戻る」
戻りの廊下を貴仁は歩きながら、(なんなんだ⁉あの無能な男は……御所でも外でも、「ダメ仁」「偽ひと」「暗愚」などと言われ、兄帝を毒殺してまで、皇位を簒奪した挙句、皇国が割れる始末……もう、玉座から引きずり落とすしかないな……)
東宮御所に戻り、
「
「はい、貴仁様……」
「すべての『
「承知仕りました……」
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