第10話 七曜の襲名の儀

 そうするうちに、郷の人達も風呂から上がり、皆それぞれ分かれ宴の準備に取り掛かった。宴の広場の中心には、太い木を格子に組み上げ、大きな「御神火ごしんか」を焚く。そして、塩之祇郷と「有栖家」が『火之迦具土神ひのかぐつちのかみ』に感謝を伝える。陽はとっぷり暮れ、宴の用意は万端ばんたんである。

 ただふと、弥は少し違和感を覚えた……いくら自分らの帰還を祝い、他郡の者がいて持て成そうとしても、なんだろう、いつもと違う賑やかさ……!規模がデカ過ぎる‼)隠密の動きで、塩婆に近づいた。

「なんね、あんた気色断ちで近寄るて?婆ぁも驚いたぞ」

(お褒めの言葉ありがとよ、てか、これから何が始まる⁉)

「いくら何でも大袈裟過ぎやしないか⁉」

「心配するな……童ども」

「今宵は、弥と雪乃の「七曜の襲名の儀」を執り行う!」

「……へ……ンなの……聞いてねぇぞ~~~」

「ぁ……お前にはいぃ忘れとったな。ほれ、さっさとこの由緒ある袍に着替えて来い。雪乃はもう行って済ましておるじゃろう」

(ぁあの婆あ……)

「なんなんだ一体これは~~⁉」

社務所に一目散で向かった……息ぜいぜいで目の前の女性から、水を一口もらった、ハッとすると、目の前に天女がいた。

「ぁ……やっと来た……ぅふ」

弥は、その場で立ちすくんでしまった……あまりの美しさと神々しさに……純白の絹の上衣・澄水色ちょうすいいろの袴、肩には白群色びゃくぐん(やわらかい薄蒼の薄翠)の領巾ひれをふわりと羽織っていた。小さいが輝きの美しい黄金の冠、その対比で、口元の紅が、ひときわ妖艶さを引き立てる……

……っと、弥は、我に返り(……って、惚れ惚れしてる時ではない!……、でもあの雪乃はもう可愛かったなあぁ……、あ”~着替えて着替えて!)

 弥は、塩婆から預かった「衣」を確認する、喜び勇んで転げる、着替えた衣は、有栖家に代々伝わる、如何いかにも焔の加護がまとってそうな、鮮やかな朱色の直垂ひたたれである。二人が「御神火ごしんか」の前に立つと、ひと際、歓声があがった。

 しかし、仕来たりにのっとれば、「七曜襲名の儀」は五行所縁ごぎょうゆかりの土地で行うもので、弥は、当然問題なしだが……雪乃はと言うと……「月曜の七曜の守護神」塩婆により許可が出た(さすがに神には勝てんだろ……)


 「月曜の七曜の襲名の儀」が始まった……御神火ごしんかを背に……雪乃が雅に「御神舞ごしんまい」の「月の舞」を奉納する……ひらひらと領巾を操り舞い踊るさまは、天女か女神めのかみか……

御神火ごしんか」の輝きに照らされる、あけだいだい、照らされる天女の澄水色ちょうすいいろ薄翠うすみどり……の無数の柔らかい珠が舞う……

その神々しさに、皆は魅入って声が出ない……

(ぁあ、雪乃ちゃん、綺麗……)(雪乃姉……女神めのかみみたい)

(雪乃……お前さんのまわりには良いやつ多いの)

御神舞が仕舞、雪乃は塩之祇神社・幣殿へいでんに向かい、座った。すると奥から、普段は、「古い小袖姿の塩婆」が、艶やかで美しい「五衣小袿いつつきぬ・こうちぎ」の姿で現れた……。その手には「天扇・蒼月華」を、携えている……。

すると塩婆が、

「月の光をあまねく「月魄げっぱく」・と「月読つくよみ」の女神より「遊兎・朝臣・雪乃」、月曜の七曜と認め、証として汝に「天扇・蒼月華」を賜ふ」


おそれ多くも、此の天扇を賜り奉る。神慮しんりょかしこみ、この天扇を振るい奉らん」


 おごそかに、雪乃の襲名の儀は終わった。次は弥の襲名の儀である。

火曜の七曜の有栖家は代々「焔舞」を奉納の舞いとする。

ところがだ、なんか分らんが、俺は「焔舞」を踊ったことがない

だが弥は覚えいる。十年前に父さんが「火曜」を襲名した時の、舞の仕草・手順・作法を……

弥は、瞳を閉じた……オレはこの郷がスキだ……郷のみんなが好きだ。ここを護りたい、そのためには御国に平穏を取り戻したい……

だから、俺は「火曜の七曜」になる。

「明鏡止水」の境地に至る。弥は、スッと眼を開いた……


「奉納焔舞」が始まった……弥は、妖刀「陽炎かげろう」をゆっくり抜いた……

この刀は「妖刀」だけ有り、あらゆる全ての術式を纏うことが出来る……

弥は、「陽炎」を左手の指先に乗せ「焔」を顕現させた……陽炎が焔を纏う。

煌々と、焔揺らめく刀を、すうっと振るい、舞いだした。上下左右に刀を振るい、くるりくるりと、舞うように剣技を放つ。すると弥の母は、

「……ねぇあなた……」

「あぁ……十年前の僕を見ているようだ……」

「ふふ、儂が生きてるうちに孫の襲名の儀が見られるとはの……婆さんや……」

「長生きはするものですね……」


 弥の奉納焔舞が終わった、そして雪乃と同じように、神社の幣殿に上がり座った。

奥から、塩之祇神社の宮司と、御付の者が?、……二人掛かりで「天太刀てんだち月影つきかげ」を……必死に運んできた⁉


「『ほのお』を司りし『火之迦具土神ひのかぐつちのかみ』より『有栖・朝臣・弥』、汝を火曜の七曜と認め、証として汝に天太刀を賜う」


「畏れ多くも、この天太刀を、賜り奉る。神威を仰ぎ、此の天太刀を振るわん」


こうして二人の「七曜襲名の儀」が終わった。さて宴が始まる








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る