第9話 塩之祇郷《しおのぎのさと》の如湖《にょこ》の大風呂

 弥が塩之祇郷の」真ん中にある宴の広場に駆け寄り、

「郷のみんな!ただいま‼雪乃と一緒に戻ったぞ!あと、旅先で知り合った、仲間も連れて来たぜ‼

郷のみんなの視線が集まる。

「あら、若殿と雪乃様、御無事にお戻りになったのね!」

「ぃやぁ若殿は、また一段とたくましくなったんでねぇの?」

 自然と、広場に郷の皆が集まってくる。

「ほんじゃ、皆さん、仕事は仕舞にして、みんな一緒に風呂入ろうぜぃ‼‼‼‼」

「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉお~~~~‼‼‼‼」

郷の者たちが歓声を上げる

 そこに双子の弟妹の「灼弥・輝弥」も来た

「兄上、雪乃姉様、御無事の御帰り、嬉しゅう御座います」

「兄様、姉様、御帰りなさいませ」

「なぁ、二人とも俺らの新しい仲間だ。この二人も七曜だ」

灼弥・輝弥「⁉二人とも七曜⁉」

二人は瞳えを爛爛らんらんと輝かしている

「あ、マサトと灼弥・輝弥は同い年の仲だな」

「え!そうなんですか。ワタクシは、マサトと申します」

灼弥・輝弥の興奮は、冷めやらぬ……

「その御年で七曜とは敬服いたします‼‼‼‼」

「私は水曜の七曜の小迦華と申します。ふふ、宜しくお願い申し上げます」

「は!はい小迦華様‼

 そのあと、弥は、元・左近衛大将の皆を紹介した。


塩之祇郷の「名物」の始まりである


「よっし!小迦華も入ろ!こっちよ」

 「ぇぇ、えええ⁉」

風呂に着くと小迦華は言葉を失った。

(……噓でしょ……これがお風呂、温泉……?)

見渡す限り広く、湖のような風呂が、眼前に広がっていた…………

(ひゃ……百人くらい余裕で入れるんじゃなくて……)

これが「海神様の御塩」に並ぶ、塩之祇郷の名物湯、まるで湖の様な広さがある温泉「如湖にょこの大風呂である。

 元・左近衛大将達も同じだったようで、

「……塩之祇郷の名物風呂は、聞き及んでいたが、まさか、これほどとは……「如湖の大風呂…………ははは」

周りを見れば、老若男女問わず、いそいそと衣を脱ぎ、湯舟に浸かっていく……

(なんと不思議な光景だ……だが、これがこの郷の「明け暮れ」=(日常)なのだな)

 村正が、マサトのそばに近寄ってきた、少し躊躇いながら、

「マサト兄さん、ごめんなさいね。目が不自由なのに気づかなくて……」

村正は、マサトの手をつないで、

「お風呂、こっちだよ。足元気を付けて」

「ありがとう御座います。村正」

平静を装おうマサトだったが、心の中では「感涙」と言う名の大瀑布が流れていた。

(な、なんて良い子なんだ!「兄さん」と呼んでくれた)

※……ちなみにマサトは両目を閉じているが、聖眼のおかげで、大体見えている。

風呂の端の方で、二人で湯舟に浸かる。

「……ぁあ、こお風呂は良いねぇ……」

「そりゃあ良かった、へへ、ねぇマサト兄さんは、禍忌まがきと戦ったの⁉」

「そりゃ何度もね……とんでもなく強かった……何度も死にかけたよ……」

「……ぁあ、すごいなぁ……」

すると村正が少しうつむき、ふっと……ため息をこぼす。もともと人の機微に鋭いマサトは、直ぐに、村正の心境に気づいた。

「ねぇ、村正、なにか、小さいことでも、悩んでること……ない?」

村正が、ハッとした顔で

「!え、いや……悩んでるというか……情けない話だけどさ……羨んでるというか……」

「……そうですか……なにに対して……?もしよければ聞かせてほしい……」

「オイラの家はさ、先祖ぃや始祖代々、有栖家の鍛冶師と研ぎ師を任されてきたんだ。おいらは、ちっさい頃から、工房のじっちゃんと、とっさんが、魂込めて刀を打ってるのを知ってる……」

 村正が、お湯で、パシャっと顔を湯で濡らす

「……でも、今は、弥兄や雪乃姉が、剣士として村のために、野山駆け巡って、敵兵を討ったり、禍忌まがきを討伐したりを聞いたり、灼弥・輝弥が剣術や焔術師の修行を、しているのを聞くと、『ぁあ、良いな』……なんて思っている、おいらが、いるんだ……ぅ”ぐぅ」

村正が、フルフルと身体を震わせ、唇を噛み《はみ》涙が頬を伝う……

「弥兄も雪乃姉も命懸けてるのに……ぅ」

「そうでしたか……村正、ワタクシはね、剣士と鍛冶師は(夫婦めおとのようなものだと思っています」

「剣士と鍛冶師が夫婦めおと……?」

「先ず鍛冶師がいなければ、刀は振るえない。戦と成れば何十人と刀を交える、いくら名刀でも、名の有る業物でも刃毀こぼれを起こすかもしれない、稀な毒々しい皮で覆われた禍忌まがきを斬りつけて、その血脂で切れ味が、著しく鈍ることもある……」

村正が、真剣な眼差しで、マサトを見つめていた…………

「ワタクシたち、剣士は、己が命を命を預ける刀を、鍛冶師の技に絶対の信頼を置いてます。そして鍛冶師の方も、剣士が命を落とさぬように命を込めて打ち、見守る」

「へえぇぇぇ」

マサトは話を続けた……

「そしてね、何とか戦を乗りっ切って、村正の、ところに辿り着いたなら、綺麗に鍛え直しかも、研ぎ直して綺麗にしてくれるかも、或いはもっと、凄い業物作ってくれるかもとかね、はは……」

 

マサトは、クスリと微笑み

「……あなたは、私たちの必要なのだ……」

弥が、ひょっこり現れ、弥は

「俺の振るう命の刀は村正に任せるからな。早く一人前に成れな」

雪乃も何処からか、ヒョイと現れ、

「私の扇は研ぎずらいかも知れないけど、貴方にお願いします!」

灼弥・輝弥も

「俺の刀と、輝弥の小太刀も、絶対にお前が鍛えてくれよな‼‼」「です!」

すると、トプンと、村正は頭まで湯の中に沈んだ……

「何してんだコイツ……?」

水泡がブクブく浮かび、ざっぱぁ~~っと!村正は勢い良く立ち上がり、天を仰いで、自分の「誓い」を叫んだ、と、言うより咆哮した‼

「おいらはぁ‼‼‼‼ぜってぇ、御国一の鍛冶師になってみせる‼‼」

「よ~し、よく言ったあ。頼りにしてるぜ!」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る