第6話 真の皇の「覚醒」

 弥達は、月虹殿を後にして、三日ほど経ち、船に乗るために、杵築郷きねつくのさとへ着く手前だった……郷の前にある草原に立つ四人の目の前に、二千の兵が、立ちはだかっていた。

(……なるほどね、これがばあさんの言ってた危惧か、見事的中!へへ予想より規模がデカいが、まぁ良いか)

相手の敵将は、九八代聖皇の左近衛大将さこんえたいしょう=朝廷軍の軍の長官

橘頼綱たちばなのよりつな」、勅命により、二千の兵を与えられ進軍、

しかし、この戦には裏がある。

月虹殿で、嫡流の雪乃が「月曜の七曜」の「天扇・蒼月華」に「是認の主」と、認められたことを知った賢正郡けんせいのこおりを治めていた、本家傍流の郡将

遊兎幽遠ゆうとゆうえんは、情けなくも、時の帝、「為仁」に泣きついた……

これが切っ掛けである。

うぬども、月虹殿にて、「天扇・蒼月華」を盗んだそうだな……?」

「はぁ⁉盗んだ?さて、お前みたいに偉そうなオッサンじじいに問うよ、情報の出どころは誰だよ……ダメ仁か……?関奏のじじいかぁ?それとも、一番脳みそ腐ってそうな賢正郡の群将か……?」

左近衛大将は背筋が凍った、(この男は一極集中で掛からないと……)

「朝廷と賢正の連合軍、全軍進め‼‼」

「へ‼上等だ‼‼打ち負かしてやんよ‼‼」

二千の兵が、死を覚悟した気迫を持ち弥達を囲い持ち攻めてくる。戦況は徐々に悪くなる、いくら四人が七曜で、霊獣を使役しても天具を持たぬ七曜は、多勢に無勢……

是認の主の雪乃は、もっているが、時間の問題であろう……

敵の術師

「木霊よ、木霊、彼の者の脚をすくえ!」

「な、しまった!」

弥の両足を木の根が縛りあげる

「兄さま‼‼いまお助けします‼‼」

その刹那、マサトの両足にも、木の根が絡みつく‼‼(ぐっく、ぅ、ワタクシの力では剝がせない……)

マサトの眼前から、弓矢が流星のように飛んできた……(……駄目だっ!終わった……)

マサトの目の前に、小迦華が両手を広げ立つ。時がゆっくり動いている錯覚に陥る……。無数の矢が、小迦華の身体を射抜く……(……や、やめろ……)

躰に刺さった矢を、小迦華が自ら引き抜く……血潮が吹く……

「ぅ”ぅ”ぐふ、ぇ、ぅ”ぅ”ぐ」

小迦華が蹌踉よろめきながら、マサトのそばにひざまずく、そして自分の上衣をマサトに羽織らせた……そしてマサトを胸に抱き寄せ、小迦華は、声を震わせながら、言葉を紡ぐ……

「今だから、伝えますね……私は、貴方様と、泉でお逢いした時より、貴方様に恋をし……愛ずり……慈しんでおりました……どうか……どうぞ……生き……永らえてください……そして無慈悲なこの世を救ってくださいまし……」

小迦華はニコリと、微笑み、マサトに口付けを交わした……

眼前には、左近衛大将が立っていた。

「死ね」

鈍色にびいろの槍が、小迦華の腹を貫く……目の前で小迦華が血を流し、うつ伏せになり、ピクリとも動かない……

マサトは、己が両の掌を見つめ、涙が溢れた、……どうしようもない「怒り」……「悲しみ」と……哀しみ…………


(ナゼ ワタクシハ マモレナイ ナンデ コンナニ ヨワイ ナゼ イトシキ ヒトヲ ウバワレル ワタクシニ チカラガ アレバ ミナヲ マモレルノニ…………)


「本当の『力』があればぁあああ‼‼‼‼」


その刹那、マサトは、……虚空こくうの間にいた…………

「……ここは……?」

「やっと来たか……真仁よ……長かったの……~」

目の前には……飄飄とした翁が立っていた…………

「……え、貴方は誰ですか?」

「?…………おぉこの姿では、分からぬよのう……姿を昔に戻すぞい」

すると、目の前には、「ワタクシ」がいた。……いや瓜二つの少年がいた……

そして、その少年の両の目には……双聖眼が輝いていた……マサトは、この御方が誰であるか瞬時に気づき平伏する。

「初代・聖皇‼‼」

「よい、面を上げよ」

「お前さんは、朕に聞きたきことある故、来たのだろう、申してみよ」

「畏れながら、ワタクシの様な、小さな者なれど、初代に畏み申し奉る!どうかワタクシに、弱いワタクシに、愛する者、慈しむ者を救う力を賜りたく……」

「ふふ、固い言い回しじゃの、ふふ時仁の子じゃの、ははは」

「心配せんでよいぞ。この虚空に招かれた時より、おぬしの望む力は手にしておる

……お前の愛しき者、慈しむ者のところへ戻っておやり……我が孫よ…………ふふ」

「……ぇ、孫って……」

虚空の間から真仁が消えた……

初代の傍らから、一人の男が現れた。その両の瞳には聖眼が輝く。

「これで良かったか、我が息子「時仁」よ?

「はい、父上、いま出来ること、私のすべてを与えることが出来ました『天笏』も。

もう、あの子は、大丈夫でしょう」

「……あとのことは、父に任せよ……もう行って良いぞ……」

「ありがとうございます、父上……やっと、やっと澪子を迎えに行けます……」

「…………息災でな……時仁……」

            「まこと」の『聖皇』の『覚醒』

 刹那の時が、動く……真仁の両腕に小迦華が抱かれていた……傷一つない綺麗な身体だ……

……そして、真仁は両の瞳を見開く……両の瞳に「聖眼」が顕現した……

戦場にいる全員が、聖眼の威に、足がすくんで動けない……

弥「マサト……?」

雪乃は「…………マ、サト……?」

小迦華の身体を、そばに静かに寝かせる……

真仁の右手には、「日曜の天具」『天笏てんしゃく皇命すめらぎのみこと

が携えられていた……


「…………うぬども……ちんを誰と心得る……?」


「聖皇・真仁ぞ……」


真仁は,両の掌を広げ、瞳を輝かせて六つの[呪術法円]を結んだ、

最後に頭上に巨大な[呪術法円]を結び

天笏てんしゃく皇命すめらぎのみこと」を振り下ろし、唱えた……


『……七曜乱舞……』


唱えた刹那、七つの竜巻が荒れ狂い、

  ある者は、躰の中から焔を吐き出し絶命し……

  ある者は、身体中が氷結し、粉々に砕け散り……

  ある者は、巨大な岩に体躯をり潰され……

  ある者は、木の根に頸から躰を全てひねり上げられ身体は千切れた……

  ある者は、身体中を赫く熱せられた鉄の杭で刺し抜かれた……

二千もいた敵兵は全てほふり去られた……

残るは、つまらない策を考え、己の保身だけを考えてる、「この生き物」だけだ……

「…………ど、どぅか、ぉ”ぉ”だすけ、きゅだ、ざぃ……」

「……禍忌畜生まがきちくしょうにも劣る下衆が、お前が小迦華を刺したな……?」

「あ、あれはみやこの指図でして、あ、貴方様が聖皇とは聞き及ばず……」

「そうか……難儀であったな……だが朕の聞き及ばぬことじゃ……」


真仁が「天笏てんしゃく」を振り下ろす…………


「死ね」


左近衛大将の身体中を焔を纏った無数の槍が、ぐしゃぐしゃに貫いた。男は絶命した……


そして、力尽きた様に、マサトが瞳を閉じ、ぱたりと、倒れた……





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