第5話 「七曜の月曜」の試練

 凪の宿を出て、三日ほどかけて、月虹殿げっこうでんに着いた。神殿はすべて石で造られているようだ……(多分、特殊な)地下に降りていく構造のようだ……

最奥に着いた……天井より月明りが差し込む、石造りの円形の祭壇がある。そこに佇む少女がいた……阿瑠華あるふぁである。ただ雰囲気が違う……

「……ぉい、何でばばぁが此処にいる……⁉」

雪乃・小迦華・マサトは、

「ぇぇえええ⁉」

「ふぉふぉ、よく気づいたの……」

「へっ……こちとら十年一緒に居たんだ、気づくさ……」

「ほう……なら十年、ワシと接して、きづけなんだか……」

「…………は……?」

「ワシが『罔象女神みつはのめのかみ』そのものじゃ」

(ま、まさかよね……おばあちゃんが……月曜の七曜の守護神・罔象女神だなんて、怖くなってきた……)

「おい!なら阿瑠華は、どこに行った?」

「ワシの魂は、本来の依りよりしろであるこの身体に戻った。では……阿瑠華の御魂は、どこにあると思う?」

阿瑠華の姿のばばぁが問うてきた。隣に大蛇おろちか龍が、控えている。

「まさか隣に控えているのが……阿瑠華……なのか?」

「そう、即ち、阿瑠

華は水の聖龍・『みずち』じゃ」

「しっかし、まさか七曜を四人も連れて来るとはの」

「四人とも七曜⁉」

(……いや、おかしい、俺と雪乃は確定だ、小迦華も嘘をついていない……だがマサトは、どうだ?身体能力は、大したモノだが、法術・呪術はどうなんだかな……七曜としては力劣りするよな……でも、ばばぁが断言したしな!)

「さて、雪乃よ……試練じゃよ、阿瑠華、即ち『みずち』を天扇のみで、打ち負かせてみよ!」

「はい、おばあちゃん、いえ『罔象女神』。受けて立ちます。

(相手は水の聖龍、水の加護持ち……水と氷の攻めは意味が無い……)

試練といえど「相手」がと「戦いの規範」が雪乃の枷になった。

まず相手は、水・氷が通らない。そして武器である。試練の時の武器は、「七曜の天具」のみ使用出来るとある……つまり天扇・蒼月華しか使えないが、雪乃の幼い頃から(弥と同じく五歳程の時には)弥の父に稽古をつけてもらい、暗殺術の免許皆伝を授かった……が暗殺術での武器は小太刀になる、今は小太刀が使えない。

「さて天扇・蒼月華をどう使う?雪乃よ……」

「いざ、参ります!」

蛟が先に攻めてきた。太い尾をしならせ、雪乃の胴を狙ってきた、が、雪乃の姿がない。蛟の真後ろにいた。すると蛟は尾を地面に左右に叩きつけ、咆哮を上げ、水術・大海嘯だいかいしょうを呼んだ!

「な、なんだよ!この、えげつない戦いは⁉」

「大丈夫、お前さんたちは、ワシが結界で護るよ」

「大海嘯?無駄よ、『霜影移そうえいい!」

蛟の右後方に移っていた。

雪乃は無効化される「攻め」の「水」・「氷」を使わず、且つ扇を開かず、鉄塊として携えた。

「おばあちゃんが」知らない『雪乃』がいた……

腰を低く下ろし斜に構え、眼を薄める、雪乃の瞳から光が消えた……

瞬時に跳び蛟の側頭部に「蒼月華」を叩き込む、蛟がよろめいた……雪乃はスキを見逃さなかった。「……風牙瞬閃ふうがしゅんせん……」

瞬時に背後に回り、腰と尻の間の急所に渾身の一撃を打ち込む!

「ぐぅぇ”ぇ”……」蛟の身体は、どしゃあと横たえた……雪乃の勝ちである。

「いやぁ……お前さんの圧勝だね。見事なもんだ……」

(?、雪乃の中から「マシロ」の呼ぶ声がする)

「来なさい……マシロ」

マシロが現れた。すると蛟が「きゅ、きゅい⁉」

「な……なんで家出娘の『白鱗はくりんが、ここに⁉」

「おばあちゃん、あのこは『マシロ』私の守護獣ですぅ~」

「ほう、マシロか……あの子は白鱗、蛟の娘じゃ、喧嘩して、この一年、姿をくらませておった。まさか蛟の娘を従えるとは大したもんじゃ……」

マシロ、母の蛟にシュルシュルすり寄り、治癒の法術をかけていた。蛟は気持ちよさそうに、眼を閉じていた……(てか阿瑠華、娘いたんだ……)

「さて、雪乃よ、私の両の掌に『蒼月華』の乗せ、姿勢を正し、そこに直りなさい……」

月曜の七曜の守護神、罔象女神みつはのめのかみより、「神言」を賜る……

「汝、『遊兎・朝臣あそん・雪乃』よ、水の試練を乗り越え、今ここに水のしるべと、成るを許す」

さあ、これで、雪乃。あんたは「天扇・蒼月華」の「是認の主」になったよ、これから、もっと励めよ」

普段笑わない、ばばぁが雪乃へ家族の様な笑みを浮かべていた。

「おばあちゃん!ありがとう‼‼」

雪乃は若い姿の塩婆を抱きしめる……すると、蛟(阿瑠華)と、マシロもシュルシュルと抱き合っている

雪乃は

「……ふふ、可愛いぃ」

小迦華は

「あの子たちもきっかけが欲しかったのでしょうね……」

「じゃあ、儂と阿瑠華は、先に塩之祇郷の庵に戻ってるよ……ただ一つ、気がかりな予感がしてね……おぬしらも気をつけよ」

二人を見送ったあと、弥は振り返り、三人に言う。

「ばばぁの予感は、九割九分で当たる。特に悪いことは……気を締めて行くぞ……」





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