第4話 「マサト」の本当の過去……

媱泉郡ようぜんのこおりから、雪乃・マサト・小迦華と共に船で、賢正郡けんせいのこおり杵築郷きねつくのさとを訪れる。ここは宿場郷だ。「凪」という名前の宿に泊まることにした。塩之祇郷のばばぁの勧めもあったからだが……

宿に入る、

「今夜、四人だが、良いか?」

「ええ、もちろん、そうですね……二部屋に分かれます?」

(ぇ、兄さま……二部屋て……」

「あぁ、かまわん男二人、女二人で別れれば、いいだろ?どうしたマサト?」

「ぁ、いえなんでも……」

(……い、いえワタクシは、まだ倫の教えを理解していない『煩悩の悪童だ!』)

この宿では、「柊」という女将がもてなしてくれた。夕餉も美味い御酒も旨い。このあと女将自ら、琵琶を弾いてくれるらしい。弥がマサトを見てニヤリとする。

「なぁ女将、筝の琴はあるか?」

「ぁ、はい、御座いますよ」

「ぁあ、もう兄さまは……」

「女将、すまんが、こいつに打掛を羽織らせてやってくれ、母君の教えだそうだから、マサトまた聴かせてくれ……」

 打掛を羽織った、マサトは、姫君の様であった……

小迦華(……マサト様、……なんと、お美しゅう…………)

「マサト様は、筝の琴をたしなみに、しておいでで」

「まあ多少は……」

二人による「絃合いとあわせが始まった…………」

二人による合奏、だが柊の様子がおかしい、マサトの奏でる調べを聴いた柊は凍りつく……(こ、これはまごうことなき中宮・澪子みおこ様の調べ)そして、マサトの首元に輝く勾玉に気づく(……ぁ、あれは時仁様が澪子様に賜れた『閏斗うるつ勾玉まがたま‼⁉)

女将が白目をむいて倒れた…………

弥・マサト・雪乃・小迦華  は、

「ぇ”ぇ”ぇぇええええ⁉」

と、しか言葉は出なかった……

少し横になり体調を戻した女将が女中に支えられながら戻ってきた。

「女将でありながら、お見苦しい姿を見せ申し訳ございません……驚くことが多すぎて、頭の中が真っ白になってしまいました……マサト様、大変失礼なこととは、存じておりますが、別の間にて、お話をさせて頂けないでしょうか……?」

「ワタクシは構いませぬが」

 

 マサトが屋敷の奥の間に通される(何だろう……と言うか、ワタクシが「筝の琴」を奏じた時に、いきなり女将倒れたよね……そんなにワタクシの「筝」が下手だったのかな……?)

ふすまが開き、女将が入ってきた

「失礼いたします」

「マサト様は、あちらの座へ……」

「ぇ……あそこは上座ですよね?」

「貴方様は、あちらに御掛けください」

「は、はぃ」

「畏くも、マサト様に、いくつか伺いたき儀が御座います。貴方様の御母上の御名前は?」

「母様には何度も御名前を聞いたことは、あったのですが、その時の母様は、キッと見つめ、『母様は母様ですよぉ~』

って一点張りでして、真名は存じません……はは」

「……でしたら、御父上については……?」

「ワタクシが二歳の時に薬草を採りに行き、崖から落ちて命を落としたと……」

「ぁ、まあ、そのような……」

「産まれた時より母様と二人で過ごしておりました……ですが母は、病に伏し三年前に亡くなりました……」

「澪子様なんと、御いたわしい……」(澪子……⁉)

柊の瞳に泪が浮かぶ

「……マサト様、……いえ、『真仁まさひと様』、…………十五年前の、あの夜、

『青龍殿の変』でなにが起きたか奏させて頂きます。九七代『時仁』様は、弟の為仁親王に毒を盛られ命尽きました」

「なぜ女将の貴女が、ワタクシの真名『真仁』を知ってることを聞いても宜しいか?」

「御心のままに……私はかつて九七代聖皇『時仁』様の中宮『澪子』様に仕えておりました。元・典侍ないしのすけの『箕種』と、申します。これから私が奏することは、他に申すべからざることに御座います……」

「……承知しました……」

「『真仁』様……貴方様はかしこくも第九七代聖皇『時仁』様の一ノ宮……つまり東宮とうぐう殿下であらせられます。その証に、時仁様が澪子様に賜れた『閏斗うるつ勾玉まがたま』を携えてらっしゃる……そして、御母上は中宮『澪子』様に御座います……」

「……ワ、ワタクシが一ノ宮……皇太子……東宮……」

「これから私が奏することは、真仁様にとって辛い話になると思います……」

「かまいません、お願い致します。ワタクシはワタクシを知りたい!」

「あの日『青龍殿の変』が起きた日は、後宮の中宮の間にて、生まれて三か月の真仁様を抱く中宮と、真仁様と生まれの日を同じくする、自分の娘の『夕霧ゆうぎり』を抱く尚侍ないしのかみ=女官の長と、他の女官と共にいました」


「ぁら東宮様と一緒の日に生まれるなんて奇遇ねぇ……」

「えぇ中宮」

「なんだか東宮様と貴女の姫、似てるわね……ふふ」

「もったいなき御言葉、この娘共々中宮にお仕えいたします」


 そして「青龍殿の変」が起こった……

尚侍が、

「中宮‼‼謀反に御座いまする!滝口の武士が囲んでいる様です‼こちらの部屋へ」

中宮は幼い我が子の額を撫で、

「どうやら、ここまでのようですね……もっと東宮様と過ごしたかったわぁ……御成長あそばす姿を見たかったな……ふふ」

尚侍は

「中宮お忘れですか、この部屋には、今上の帝と側近の女房しか知らない通り道があることを!」

「でも、追手がすぐに来てしまうでしょう⁉」

「案ずることなかれ。この先に進み、走る御用意を‼‼」

「な……なにをいう‼‼そなたも一緒に!」

「『国母こくも』たる中宮が何を仰せです‼‼先ほどもうしたはずです。私と娘、共々中宮にお仕えすると!今はお逃げあそばせ‼まことの聖皇を御護りください‼‼」

尚侍は、中宮を送ったあと、隠れ戸を閉じた……そして、覚悟を決めた……滝口の武士団が、入り込もうとしていた……尚侍は自分の娘・夕霧ゆうぎりの喉元を切り裂いた……そして

「滝口の武士達よ来ておくれ‼‼中宮……いえ!あの女は!東宮に聖眼が現れぬと狂気で身を震わせ、この様に東宮殿下を斬り裂いた‼‼捨て置いてはいけませぬ‼‼まだ遠くには行けぬはず!大門とその他の門に行きなされ‼‼逃してはなりませぬ‼‼」

 ……武士達が去り……部屋に静寂が訪れる……「尚侍ないしのかみ」いや「夕月ゆずきは……自ら殺めた娘……「夕霧」の……血だらけの亡骸を……わなわなと……抱き寄せる……夕月の着物に……娘の血が滲む……

「……なんとか……なりましたね……夕霧……私の可愛い……可愛い『まなご』……ごめんなさいね……ぅ”ぅ”ぅ”う~~ゆぶぎ……りぃ……ごベンなはぃ……ぅ”おえんなはぃ……」


 「…………これが……私が見て、聞いた「青龍殿の変」で、嘘偽りなき真実です……」

「…………箕種さん真実を教えてくれて、ありがとうございます……ワタクシは、今まで……何者で……何の為に生きているのか……ぼんやり考えて生きていただけでした……でも、いま、ハッキリと分かりました。ワタクシが導きます」

 マサトが座敷に戻る。

「おぉ~長話だったな」

「そうですね、すみません、でもワタクシが歩む道がハッキリと見えました!」

「うん、そう……」

「良かったですわね……」

「理由は聞かねぇよ」(その面構え見たらな)

「先ずは冥極殿を目指しましょう‼‼」

「おう!」

「うん」

「ええ……」

「ちなみに~私は弥と一緒に寝るから、マサトと小迦華も仲良くねぇ~」

「お前、誤解招く言い回しすんな……」

「マサトさん、私の寝相悪かったらごめんなさいね……」

小迦華の頬が赤らんでいる……

(ワタクシがいない間にどうなっとんじゃああああ~~⁉⁉)



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