第2話 導かれし出会い
ワタクシが生まれたところは知らないけれど、今は
母様からは、この世で生きる
時は一三九七年・皐月。少年は一羽の兎を追っていた。すると、嫌な別の気配を感じた……とても禍々しい……
「
(⁉‼これは
のそり……のそり……と、こちらに近づき姿を現す……カタチは猪だが、その体躯は八尺(240cm)を超える……何よりその眼、黒く染まり赤い光を放ち、
(こ……これはマズいな。弓と小太刀では敵わぬ……逃げよう‼‼)
すると……上から人が降ってきた……
「はあぁ‼‼⁉」
少年はたじろぐ。
「どりゃせい‼‼‼‼」
禍忌の脳天に陽炎を叩き込む‼
「あっちゃ……割れねえわ」
しかし、禍忌は
「雪乃‼水で包め‼‼」
「はい!任せて‼」
禍忌の身体が水に包まれる、禍忌が激しく苦しみだす。
「ぁは、おばあちゃんの御塩溶かしてあるから効果絶大だね!」
禍忌は息絶えた。
「よっし!御塩のおかげで禍忌の瘴気も祓えたね!」
「毛皮もばっちり売れるな!」
「……てかお前」「……あなた」
「誰……⁉??」
「ば、はいぃぃ!ワタクシは、この郷に住んでる『
「なんか珍しい名だな」
「ハ、ハイ、元々苗字も無い貧乏な家なのです……ですが亡き母様が『さて……苗字もないなんて恰好つきませんね、では、苗字をつけましょう!母様は、母様の母上様、つまり、あなたのおばあ様から頂いた「鞠」が宝です。では、鞠を守るで鞠守にします』と、言う話です……はぃ」
「はは……すごい名付けというか、苗字付けだね」
(……妙だな……皇国は籍の統制と把握の為に貧民でも苗字を与えているはず……)
「どうしたの、弥?」
「……いやなんでもない」
「ところで、マサト左眼は、どうした?」
「あ、この左眼は、生まれた時から開かないというか、潰れているのです……でも片目のおかげで、
「それは凄いな、ところでマサト、すまんが一晩、俺ら二人を泊めてくれんか?宿代は払うから」
「いえいえ、このような庵で御代は頂けませんよ。ゆっくり過ごしてください」
「……なら、御母上の墓前に花を手向けたい、良いか?」
「……はい、是非、母様も喜びます」
弥と雪乃、マサトは母様の墓前に花を添えた
(そういえば庵を一通り見渡したが、風呂は無いようだな)
「マサト、すまんが、湯で身体を拭きたいのだが、竈で湯を沸かして良いか?」
「あ、そばに温泉がありますよ。兄さま」
「お‼‼そうか!」(……ん?兄さま?)
「姉さまも、湯上りのときの衣はこちらに置きますね」
「ありがとう!」(……ん?姉さま?)
「ぁ……へへへ、生まれて十四年余り、ちゃんと人と話をしたのは、母様だけで……兄さま・姉さまと、お呼びして宜しいでしょうか?」
キラキラとした笑顔で問われ、弥と雪乃の二人には
「良いぞ‼‼弟よ‼‼」
「いくらでも甘えてね‼‼」
「ぁあはは、ありがとうございます。どうぞこちらへ」
「ぉぉぉおお!って、ずいぶん良い風呂じゃねぇか⁉」
「景色もすごいね!森に囲まれたお風呂‼」
「あ、姉さま申し上げにくいのですが、母様の言いつけで長幼にかかわらず、何事も
「ええ、いいわよ」
弥(……ふむ……)
「ぃや~~~風呂って良いよなぁ~」
「そうですね兄さま」
「まぁこの先、大変になるから、ゆっくり出来る時は、ゆっくりとな……」
「ワタクシも、兄さま、姉さまと旅に出れるのが嬉しいです。母様には少しのお別れ も伝えましたし……」
「……そうか」
「湯加減どう?」
「おぅ、ちょうど良いぞ」
「あ、ほんとだ」
(……ん?姉さまが入ってきた……なんだコレ……ぇ……裸ですね……)
「ちょっ……!な、何ですか⁉」
「……んぁ、なにがだ?」
「どうしたの、マサト?」
「……ぇ……いや、男女が同じ湯に浸かるなんて、夫婦の契りを交わしてなければ、ぁ、あり得ないことで!」
(ぃや、交わしてても変だろ⁉)
「ぁ、兄さまと、姉さまは、もう夫婦ということですね⁉」
(なら何故、ワタクシが此処にいる⁉)
「……いや、違うが」
「違うよ」
マサトの頭の中は真っ白になった……
「てか、そんなに変なのか?いつもみんな一緒に入ってるし……」
「郷によって違うのかな?」
マサトの耳から湯気が吹いていた
「ぁ姉さまの父上は認めてらっしゃるのですか……?」
「認めるも何も、私の父さまも母さまも弥と入るし、私も弥のおじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さんと一緒に入るしね」
「あ、そういえば、旅立ちの日、五十人くらいで入ったよね!楽しかったなぁ~」
「最高の門出だったな」
「ほんとに思い出話尽きなくて、のぼせそうになったね、ぁはは」
(……ぇぇ……オカシイのはワタクシなのですか……?母様から教わった「倫」の教えとは……」
「ぉい、マサト、茹でタコみたいになってんぞ」
「……ぁ、はい先に上がらせて頂きます……」
「……大丈夫か?あいつ」
「習わしの違いって面白いね」
「…………ねぇ弥……私たちの赤ちゃんは、いつ来るの?」
「……まぁ、戦が落ち着いたらかね、そしたら三人でも五人でも来るぞ……」
「……じゃあ待ってるね……」
すると雪乃のそばに、
「ぁら可愛い白蛇!」
雪乃にかまってほしいみたいだ。
「おいで……」
「お前に懐いだようだな。守護獣にしたらどうだ?白蛇は霊力が凄いぞ」
「あ、良いねぇ、ねぇ白蛇さん、私を護ってくれますか?」
白蛇は、シュルシュルと雪乃の指に絡む。
「よし!じゃあ貴方はマシロよ!よろしくね」
マシロは喜んでいるようだ。
「そいつ、背中に羽が生えてねえか?」
「?骨が出っ張ってるだけでしょ」
二人は風呂からあがり、マサトが用意した衣を羽織り、庵に着いた。
(簡素だが、気品を感じる佇まい……何より安らぐ……)
「おう、戻ったぞ」
「お腹が空いたわ」
「
「うん、懐かれちゃって、守護獣にしたの。この子、知ってるの?」
「ええ、ワタクシが狩りをしていると、時々現れて、狩った肉を少し分けると、一礼してスルスル森へ帰っていくんです。へぇ姉さまの守護獣に」
「名前はマシロよ」
「よろしくね、マシロ。ではワタクシの守護獣も」
「来なさい……」
マサトの言葉に応じ、体躯が五尺(150cm)はある、真っ白な美しい雪狐が姿を顕した。
「この子は名を『
「よろしくね!凛仙」
弥(霊獣か……)
夕餉も楽しく終わり、マサトが別の部屋へ案内する。琴が用意されていた。
「すごい、お琴だ」
「いや、それは『
雪乃(???)
マサトは母の形見の白い打掛を羽織り奏でた。
(やはり、マサトの母君は、やんごとなき身分の御方だな……)
「ねぇ、何で弥は琴と、筝の琴の違いが分かるの?」
「……ぁあ、それな、昔、俺が六つの童の時、ばばぁの琴を琵琶みたいに胸で支えて、ジャカジャカ弾いてたら、ババぁが、『こんの馬鹿童がぁ~‼‼』って、その筝で三往復ぶん殴られたよ……痛かったなぁ……」
(……ん⁉おばあちゃん琴でブン殴ったの⁉)
「……そんで、そのあとに延々と筝と琴について、講釈垂れられたね……嫌でも覚えるだろ……」
「……へ……へぇ、そうだったんだ……」
「なあ、マサト、筝を弾くときに、なんで打掛を羽織るんだ?」
「あ、はい、母様からの教えで、人前で奏する時は、打掛を羽織るようにと」
「……そっか、良い調べが聴けたよ、婆さん並みに上手だわ」
「ワ、ワタクシも、その御方の調べを聴きたいです!」
「絶対に!やめとけ」
兄さまから良からぬ念を感じた……
「ねぇマサト、暇な時で良いから、私にも筝の琴教えてよ」
「はい、姉さまが望むなら、いつでも」
「ありがとう、雅楽って、郷で学べなかったから」
(……てか、おばあちゃん、筝の琴弾けたんだ、何でも出来るのかしら)
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