第10話

でもさっき目を開けたときの美紀の心配そうな表情は消え、安心した柔らかい表情に変わっていたから、私の気持ちもスーッと楽になった。


「いや、大丈夫そう。ちょと頭がボーッとするだけだから」


「ホントに?痛くない?」


「うん、ちょっと痛いけど大丈夫だよ」


これ以上美紀を心配させてはいけないと思い、痛いのを我慢して強がった。



気を失っていたのは、ほんの数分のことだったみたい。


「ねえ、美紀がここまで運んでくれたの?」


ちょっとした疑問が、私の頭の中に浮かび上がった。


「うう~ん、違うよ。ウエちゃんが運んでくれたんだよ」


「ええっ、そうなの?」


それを聞いて、恥ずかしくて恥ずかしくて顔が真っ赤になった。


それにしても何でだろう?


近くにいたからかな?


「ウエちゃんかっこよかったよ。走ってすっ飛んできて、里佳子のこと抱き上げて保健室まで連れて行ったんだよ」


「ホントに?たまたま近くにいたんだ?」


「いや、近くにいたやつらは、とっさの出来事にビビッて、ボーッと突っ立ってただけだよ」


そうなんだ、あいつがわざわざ運んでくれたんだ・・・。


現実を知ると益々恥ずかしくなってきた。


とりあえず明日、あいつにお礼を言うとして、今日はさっさと帰ろう。

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