第9話

私はまだそんな感覚を体験したことがない。


あの人カッコイイなぁとか、優しくてステキとか、そんなのはよくあったりもするけれど・・・。


で、だから?


好きなの?っていうと、そんな感覚はほんの少しで、気が付くといつも相手の嫌な部分を見つけている。


そして、好きって気持ちを確認できないまま終わってしまう。


どうしても、好きってところまで気持ちが昂らない。


誰かを好きって、どんな感じなのかな?



考え事をしていたせいで、こっちにボールが飛んできているのに、全く気が付かなかった。


「危ないっ!」


そう言われたときには既に遅く、頭にボールが命中していた。


だんだんと薄れ行く記憶の中で、「危ないっ」の声だけが延々と繰り返されている。



気が付くと、保健室のベッドに横になっていた。


うっすらと目を開けると、心配そうに私の顔を覗き込んでいる美紀の顔がぼんやりと見えた。


「気が付いた?大丈夫?先生は軽い脳しんとうだから大丈夫だろうって言ってたけど、病院行く?」


美紀は本当に心配してくれていたみたい。


心配し過ぎて、まだ動揺しているせいか、すっごい早口になっている。

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