布団の夢
一途彩士
第1話
もう深夜だというのに、俺の借りているアパートの一室に日だまりのような声が響く。
「天下無双が夢なの」
日中に干してふかふかの布団に入って眠りについたと思ったら、いつの間にやら自分を包んでいたはずの布団に正座で向き合っていた。
布団も布団で、下側の隅っこ二つを人間の足に見立てて正座のように座っている。上の隅っこは照れているのを誤魔化そうとしているのかすりすりくねらせている。
「天下無双……どうやって?」
「もちろんダンスよ!」
布団はそれからも何やら「ずっと夢だったんだけど誰にも打ち明けられなくて……」「やっと言えたわ!」とか言っているが、俺は正直眠い。お前は布団なのだから寝させてほしい。
「どうしてダンスなんだよ」
「最初は私も歩いてみたいだけだった。でもね、どうせならダンサーのように体を使って嬉しいことも悲しいことも表現したいって思ったの。そして世界一の布団ダンサーになって無双してみせる!」
「そうすか……」
俺があくびをしている間に、布団は立ち上がった。布団はどこから声を発しているのか、自身で高らかに数えながら足らしきところでステップを踏む。ワンツーワンツー、ワンツースリーフォー。単調な動きからだんだんと複雑なものへと変わっていく。これは、ボックスステップか? どこ覚えたんだろう。
布団は一通り踊って満足したのか、布団の体をエレガントに折りたたみ終わりのお辞儀をした。
拍手を求めるように布団が揺れるので、仕方なしに手を叩いてやる。
「わー、すごいすごい。すごいなあ」
だから寝かせてほしい。
適当におだてて満足させてやろうと思ったが、布団には逆効果だったみたいだ。
「でも、まだ全然だめだわ」
「あっそう……」
「だからあなた、私はもうあなたを寝かせてあげるわけにはいかないの。練習しなくっちゃ!」
「やめろ!」
俺は他の部屋に迷惑にならないよう声を潜めて制止する。気持ちが盛り上がっている布団は聞いちゃくれない。
新しいステップの習得だとか言ってるが、これじゃ階下から苦情が来るのも時間の問題だ。
「ささ、あなたは床で寝なさいな」
どうしても寝させてくれなさそうな布団に頭を抱える。
とりあえず、練習するなら昼間にしてくれ。
布団の夢 一途彩士 @beniaya
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