第50話月下の虎と若き孤狼。
「「申し、御免仕る!」」
「ハイハ~イお待ちを~。」
野太い2重奏の呼び掛けに軽薄な声で返答し、ひょいと玄関口に出る信吉。
玄関に出ると正面には利家が立っていて、利家の後ろには
「おお・・・こりゃ又偉丈夫な人達で。
え~と前田様、この2人を紹介して頂けるのですかね?」
「あ、いや、オレが紹介するのは後ろの奴だけで、横の奴は偶々バッタリ入り口で出くわしただけで、オレとは無関係だぞ。」
バタバタと手を左右に振る。
「へ?じゃあお宅はどちらさん?」
「はっ!やつがれは美濃は可児郡の浪人、可児才蔵吉長と申す者にござる!
見知り置きくだされ!」
快活な声でハキハキと答えた可児才蔵(仮)。
(いや確かに図体はデカいけどさ、ど~みても顔付きは、俺と変わらんぐらいの歳にしか見えないんだけど?)
ゴッツいオッサンを想像していたのに反して、自分と同年代っぽい豪傑に驚く信吉。
「可児才蔵って言ったら、
「お!?やつがれが修めた流派まで存じ寄りとは、中々の博識ですなぁアンタさん!」
ドンドンとメッキが剥がれるが如く言葉遣いが崩れていき、同年齢くらいの気安さも手伝ったのか、馴れ馴れしくなっていく才蔵。
「いや言うか君って幾つ?」
「え?え~と、ひのふのみの・・・14ぐらいかな多分?」
「まさかの1つ下!?」
早熟にも程があんだろとオッサン坊やというべきか、才蔵に二度ビックリした信吉。
聞けば2年前(小学校高学年!?)から、知り合いの土豪に陣借り(スポット参戦)して戦場に繰り出し、幾つかの
(おいおいおい、ガチの豪傑やんかコイツ!
俺よりもよっぽどコイツの方がやべーだろ)
ぶっ飛んだ話に唖然としていると、
「うん?ちょい待て才蔵。
お前、何の用で此処に?」
疑問符を浮かべて才蔵に尋ねた。
「無論、木下殿の許に仕官しに参った!
木下殿の伊勢での豪儀に感動し、居ても立ってもおられず馳せ参じ申した次第!」
胸を張って答える才蔵。
「待て待て待て、ちょっと本当に待て。
お前は確か柴田のオヤジ様の許で、家臣として家禄を
何時の間に浪人になったんだよ?」
訝しげな表情で利家が才蔵を問い質した。
「つい先程
「ついさっき!?おいおいおい才蔵お前!
オヤジ様の許を辞してから、即座に信吉の許に走る事なんぞしたら、信吉がお前を引き抜いたとオヤジ様側が勘違いして、下手すると信吉とオヤジ様の諍いの元になるぞ!?
何考えてんだよお前は!?」
才蔵の非常識な行動を非難する。
現代でも特に工業系の職種はそうだが、元の勤め先を退職した時に、別の他業種にすぐ再就職するのはそうでもないが、同業他社に即再就職するのは「仁義外れ」と非難され、再就職先の同業他社も「引き抜き」をしたと勘違いされ、周囲の同業者からの非難やトラブルになるのを怖れて、基本的にはまず採用する事はなく、同業他社に再就職する時は、大体約1ヶ月の「冷却期間」を置いて、再就職するのが常識である。
この時代の再就職事情もそれに近く、他業種=他国・他大名の家臣の許へすぐ再就職するのなら兎も角、同業他社=同じ大名家に仕える別の家臣の許に即再就職するのは、「節操が無い」と当事者が非難される上、退職元の家と受け入れ先の家が揉めて、普通に戦争になる事もあった。
実際に明智光秀の腹心というよりも、徳川将軍家3代将軍・徳川家光の乳母・
利三の処遇と不義理の処罰を巡って、一鉄と光秀が大いに揉めに揉め、最終的にはノッブが仲裁に入り、不義理を承知で受け入れた光秀を、ノッブ自らが叱責と
そうした事例を信吉と勝家との間で引き起こしかねない、才蔵の軽率な行動に利家が非難の声を上げるのは、至極当然の事であった。
「えっ?そうなんか?
でもオイラ、斎藤家から柴田家に即鞍替えしても、何も
「あのなぁ才蔵、元々斎藤家は織田家とは
状況を理解せず首を傾げる才蔵に、額に手を当ててため息混じりに告げる利家。
「兎にも角にも小吉、
・・・まぁ、ほとぼりが冷めてからも、登用は勧めないがな。」
「おい、何でだよオッサン!?」
苦言めいた発言に食ってかかる才蔵。
一悶着起きそうな雰囲気を「まぁまぁ2人共落ち着いて」と宥め、「立ち話も何ですからとりあえず中へ」と勧めた後、
「それで前田様、才蔵殿を勧めない理由とは一体何なんですか?
基本他人の悪口を言わない前田様が、はっきりと言うのは珍しいですね?」
お茶(この時代では高級品)を各自に振る舞い、ホッと一息付いたのを見計らって改めて尋ねた。
「まぁ他人様の事を悪し様に言いたい訳じゃ無いんだが
我関せずとお茶を
「指揮官泣かせ、ですか?」
「ああ、基本的に何処の家中でも抜け駆けはご
「いやはや、ど~も照れるぜ。」
「これっぽっちも褒めてないぞ?」
反省する気がゼロな才蔵に突っ込む利家。
近代から現代の軍隊だと抜け駆けは、「
まぁ、曲がりなりにも功績を挙げた者を賞さないと、器量を疑われて将士が付いて来ない上、部隊の士気まで下がるという、切実な理由があるのだが。
それはさておき、
(ふ~む・・・ちゃんとした実力と実績は有るけど、性格や行動に問題のある奴かぁ。
典型的な我の強い職人気質タイプって所か)
前世の職場に居た実力はピカ1だが、
「う~ん、とりあえず才蔵殿の登用は保留って事で。」
「ええっ?」
「流石に判ってて仁義外れをするのは
登用する前とした後では挨拶をしても、相手の受け止め方が天と地ぐらいの差で、ガラッと変わっちゃうし。」
前世の身近な体験談を元に判断する信吉。
「とりあえず貴殿を登用する方針だけど、必要最低限の筋は通して、有らぬ誤解を招く事は避けたいから。」
「確かにまぁそう言われると・・・ご迷惑をお掛け申した。
何卒良しなにお頼み申す。」
ぺこりと頭を下げて了承する才蔵。
「さて、ではそろそろ前田様、後ろの御仁を紹介して頂けますか?」
「おう、漸くって所だな!」
信吉の言に快活に答えて横に逸れ、
「此奴は
今まで沈黙を保っていた義甥を紹介する。
「義叔父御から紹介に預かった、義甥の前田慶次郎利益と申します・・・どうか宜しくお願い致しまする。」
体躯に似つかわしくない
(ええ~っウッソ!?この陰気な兄ちゃんが、あの天下の傾奇者の前田慶次~?)
全くの別ベクトルで驚いて、
「あの~利家様?
もしかしてこの方、甥御さんの影武者とかそっくりさんだったりします?」
思わず素姓確認をしてしまうゲス。
「はい!?何で紹介するのにわざわざ影武者だの、そっくりさんを連れてくるんだよ!?
そもそもこんなデカい図体をした奴なぞ、早々にいる訳ないだろ!?
何言っているんだお前は?」
「いや~何というかその~・・・想像してたのとこうまるっきり違うと言うか・・・。」
モゴモゴと言い淀む。
「想像と違うってお前・・・因みに慶次をどんな奴だと思ってたんだよ?」
「ド派手な衣装に女と酒に目がなく、
前世でのイメージをスラスラ述べた。
「はい?慶次が傾奇者?アホかお前は!?
先代の上兄が殿に反目した時以来、
憤慨して怒鳴る利家。
聞けば利家の実家・
そうしてノッブと敵対して戦った結果、利久はノッブに敗れて降伏。
ノッブからは所領を安堵をされるものの、ノッブの心中に「裏切り者」のレッテルを貼られて睨まれ、かなり冷遇されていた模様。
そんな薄氷の上を歩くが如く、一歩行動を誤れば
「う~ん成る程。
そんな状況下で傾くのは、アホの所行ですねぇ確かに。」
(つー事は今の慶次は、グレて傾く前の「ピュア慶次」なんか)
傾奇者になる前の、かなりレアな状態の慶次をマジマジと見つめる。
「そういう事だ。
元々上兄が滝川家から嫁(滝川一益の従兄弟で慶次の実父・
前田家の内部事情を話す。
「そうしてせっせと上兄は家の安泰に励み、
深々とため息を吐き、
「殿は俺に家を継がせよと、突如として上兄に告げた訳だ。」
自身を指差して肩を落とした。
「晴れて本家当主になったのに、全然嬉しそうじゃないッスね利家様?」
うなだれる利家に首を傾げる。
「あのな、こちとら分家独立してバタバタが落ち着いた所に、いきなり青天の霹靂を食らったんだぞ?
お陰でウチは上兄の後継の段取りが、全てご破算になって上へ下への大騒ぎ。
挙げ句に上兄の嫁の義姉や下兄からは、「お前が殿に取り入って、家督を奪ったんだろう!?」と、恨み節まで言われる始末。
トドメにウチの重臣の半分近くが、殿の裁定に反発して
そんな家内がしっちゃかめっちゃかの状態で、家督を継いで嬉しいと思うか?」
据わった目で信吉を見つめた。
「それはキツいッスね~。
それなら大殿様に抗議すれば良いのでは?」
「出来るんだったらとっくにやってるよ。
それが家や俺の立場上、出来ないから今の状態になっているんだよ小吉。」
再び嘆息して肩を落とした。
利家曰わく荒子前田家自体が、信勝謀反に加担した事でワンアウト、利家自身が同僚を斬り殺して、出奔した事件の事でツーアウトになっているらしく、そんな心証が悪い状態でノッブに抗議をすれば、確実に怒りを買って良くても改易、悪ければ処断のゲームセットになる模様。
「だからこそ上兄も、お家存続を第一に考えて俺に家督を譲り、居座って家内が割れるお家騒動にならない様、慶次と共に家を出る事になったんだが・・・。」
「・・・が?」
「現状、慶次にはマトモに
昏く沈んだ義甥を気遣わし気に見る。
「殿に睨まれていて、元
「他国は?」
「近隣諸国は一歩間違えれば、織田家の敵になる可能性がある故、ウチや慶次の生家・滝川家に累が及ぶ危険性が有るから、特に滝川家は
「へっ?追っ手を差し向ける?」
意外なワードに驚く信吉。
「ああ、滝川家は養徳院様との繋がりで、織田家に仕官した新興の家。
同じ新興でも
かと言って遠国は慶次を慕って付いていく、家臣達や上兄をぞろぞろ引き連れていくのは、ちょっと非現実的だし。」
三度溜め息を漏らし、
「一応最悪だが、生家の滝川家に戻る事も出来るが、滝川家に戻れば慶次は前田家の元世子ではなく、昔の俺と同じ庶子の部屋住み扱いになるから、手柄は
八方塞がりな慶次の状況を語った。
(成る程ねぇ、そういった悲惨な人生を歩んだ結果、グレて傾奇者になった訳か)
慶次がはっちゃけた経緯を知り、さもありなんと同情する。
「成る程、それでウチにって事ですか。」
「ああ、此奴は世子として教育をしっかり受けて事務もこなせるし、指揮官として荒子衆を率いていた実績もある。
人材の居ないお前の家に、うってつけの人物と思ってな・・・どうだろうか?」
「確かに私にとっては渡りに船ですね。」
緊張した面持ちの利家と慶次に、こくりと頷いて微笑む。
秀吉にとっての蜂須賀小六の如く、軍政の教導役が降って湧いて来た事に、「スーパーラッキー!」と内心で喜ぶ信吉。
「か、
「そ、それで小吉?慶次の待遇は?」
「はいはい、ちょっと待っててくださいよ。」
そう言って中座して戻って来ると、
「はい、これが慶次殿の待遇です。」
一通の書状と細長い布を慶次に渡した。
慶次は渡された書状を訝しげに開くと、
「・・・こ、これは!?
信長公から貴方様に宛てられた、2百貫の
超重要書類の内容に目を見開いた。
「つ、つまりは小吉クン?
小吉クンは慶次を殿から拝領した、家禄全てで召し抱えるって事かな?」
若干おかしな震え声で、カクカクとぎこちない動きをしつつ、信吉に尋ねる利家。
「ええ、そうですけど?
立場は私の筆頭家臣でどうです?」
「「「へええぇぇぇ!?」」」
余りにもぶっ飛んだ慶次の処遇に、顎が外れんばかりに
「この布は!?」
「あっ、それは
「そ、そりゃ無論構わんが!?
其処まで破格の待遇で慶次を・・・。」
「うぉぁああぁぁ!・・・有り難くぅ!!」
空前絶後の破格な扱いに、涙を浮かべる利家と大声でむせび泣く慶次。
色々な
「いや、あのよ、感動的な所に水を差す様で悪いんだけどさ、オイラの待遇は旦那?」
オレを忘れて無いかと自分を指差す才蔵。
「あ~君は筋を通した後に客将待遇で、年50貫(約5百万)の現金支給とコレあげる。」
「朱槍を呉れんのか!?・・・けどオイラが持つのはマズくないか?」
「君の名目上の立場は、私の槍持ちって事にするから大丈夫。
もし敵が襲って来たら、持っている朱槍でやむなく応戦するしかない訳だし。」
しれっと問題の抜け道を提示する。
「成る程、そりゃそうだ。」
「それに今は預けるけど、戦働きで自分のモノにする実力は有るだろ?」
「フッ・・・カッカッカ!言うねぇ旦那!
乗った!そんじゃ厄介になるぜ宜しく!」
信吉の挑発じみた発言に大笑した後、平伏して承諾する。
こうして信吉は、虎と狼と云うべき2人の
因みにあっさり朱槍を才蔵に渡したのは、持っていると真っ先に命を狙われるのを知り、「竜の冒険ゲームに登場する、持ってるだけで敵との
続く
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