第38話魔王との舌戦(デュエル)!
「クックック、遂に本家本元が参ったか。
貴様が顔を見せたと云う事は、漸く観念して日取りを伝えに来た・・・訳も無しか。」
くぐもった笑い声を上げつつ、眉根を寄せて自分を見つめる信吉を観て、釣られる様に信長も同じ表情となる。
ノッブと信吉が渋面を作って対峙する脇の、丹羽長秀・池田恒興・森可成・村井貞勝の顔触れも、一様に渋面を作っており、しかも信吉の方ではなく、主君のノッブの方に向けているのであった。
(何か人望のねー魔王みたいだな。
長秀の兄ちゃん達を四天王張りに侍らしているのに、揃いも揃ってノッブに、全く承服してねー様にしか見えん)
まぁムリもないわなと納得する信吉。
秀吉曰わく、秀吉だけでなく長秀達も
諫言を聞き入れないノッブに、苦々しさがあって表面に出るのは、無理からぬ事である。
「この度は大殿様が、私達の婚儀に参加為される事で、後々の織田家の将来に禍根を残す事に、成りかねぬ事態になりつつ有ると聴き、まかり越した次第にございまする。」
(マジでヤバいからな、気づいて良かったわ)
心中で言葉を付け足して、ズケズケとノッブに言い放った。
「ほう・・・儂が貴様の婚礼に参加するだけで、我が家に禍根を残すとな?
曲がりなりにも貴様の「烏帽子親」であり、妻になる山科卿の娘御の「後見人」足る儂が、どうしても参加しては拙い理由があるのであろうの?小猿よ?」
脇息に左肘を乗せ、片膝を立てた姿勢で不機嫌そのものな表情を浮かべ、苛立たしげに右手で扇子を開閉しつつ、信吉を睨めつける。
「ええ、
一応お伺い致しますが、茶々殿の「後見人」だと仰るのは、あくまでも大殿様個人が自分で仰っているのであって、山科卿が頼んだ訳じゃありませんよね?絶対に。」
断定口調で言い切り確認する。
「・・・ほう、何故そう思う?」
「何故なら
恐らく大殿様に山科卿が頼む事は、茶々殿の「身元保証人」まででしょうから。」
個人的な予測を述べつつ、「世間に赤っ恥を晒すから止めろ」と暗喩する信吉。
「いやいや信吉よ、山科卿のご息女の後見人になっただけで、其処までいくか?
そもそも殿や山科卿の自傷行為になる、と申しても、どれくらいなのかピンと来ぬが?」
首を傾げて疑問符を浮かべる可成。
「どれくらいかと云えば、山科卿の面子は丸潰れで、織田家は朝廷即ち貴族家から、「非道」の誹りを受けて関係性が険悪化。
大殿様は「道理も理解出来ぬ愚者」として、周囲の大名家から嘲笑の的になる、くらいでしょうかね~?」
「「「「そんなに!?」」」」
ノッブ四天王が揃って驚きの声を上げた。
「ど、どういう事だ信吉よ!?」
焦った表情と声で、信吉に詰め寄る貞勝。
「先ず茶々殿の後見人になるという事は、謂わば先年の大殿様の姪御様、苗木遠山家のご息女を養女とし、武田信玄の息・諏訪勝頼との婚姻を斡旋したのに近しく、茶々殿の後ろ盾として私に嫁がせる様に、大殿様が音頭を取って斡旋する事ですよね?貞勝様?」
「うむ、まぁ苗木の姫様の様に養女としている訳ではないから、流石に姫様程の繋がりはないが、幾分かの相応の責任と保証を請け負う立場にはなるな。」
信吉の主張を若干修正しつつ頷く。
「それの何処に問題が?」
「世に勤皇家として今上陛下の側近としても名高く、殿上人で在らせられる山科家当主の直系のご息女を、後見人として大殿様は陪臣である私に、謂わば大殿様よりも格上の家格の姫君を、ご自身よりも遥か格下の私に嫁がせ様としているのですが、コレの何処が問題じゃ無いと思われるのですか貞勝様?」
ノッブの行動を世間様がどう観るかを、客観的に述べた。
「えっ?・・・あっ!?単純な身分格差で云えば、貴族家の姫君を最低最悪の奴隷扱いを行った、極悪非道の行いを殿がした事に、
殿!!どうか御自重くださいませ!
その様な非道を為したと有らば金輪際、殿と縁を結ぼうとする、大名家が居なくなってしまいますぞ!?どうか御自重を!!」
顔を真っ青にして、縋る様に諫言する貞勝。
個人的な信吉の官位持ちの肩書きだけで観れば、中堅貴族である山科家の息女を、嫁に貰うのはそう不相応とも云えないが、家格・身分で云えばぶっちぎりの不相応であり、謂わば姫君を奴隷に嫁がせる様な無茶苦茶な事を、ノッブは後見人として躊躇なく斡旋し、あまつさえ仲人役=証人として自身の愚行を、世間に知らしめ様としているのである。
ノッブのやろうとしている事は、「フン、没落貴族の山科家の息女如きは、ウチの陪臣に嫁がせるのが相応である」と、明確に社会的に喧伝するのに等しく、山科家や当主の言継は、「格下の織田家に、息女を奴隷の様な扱いを受ける程見下されている」と、他の貴族家に嘲笑されてしまい、自身と家の面子が丸潰れになる、とんでもない事であった。
当然ノッブも他国の大名家から、「自身の一門や有力家臣の、当主・世継ぎに嫁がせるなら兎も角、如何に仮に官位持ちで有ろうと、陪臣に嫁がせるのは非常識に過ぎる、そんな道理も弁えぬキ○ガイとの交流は、断固として御免蒙るわ」と、非難混じりに謗られるのが確定するのである。
信吉も「ノッブの後見人つう立場が、説得するのに面倒だな・・・うん?待てよ?あれあれ?何かノッブが後見人になってるのって、おかしくねーか?よくよく考えたら、山科の爺さんがそんな自爆行為を頼む筈ねーよな?絶対にコレ?」と、ふと第三者の立場で分析した結果ヤバさを理解し、さっさと後見人を辞める様に言っているのであった。
「うぐっ・・・ぐぐぐっ・・・。」
(絶対にノッブの奴、身元保証人を頼まれた事を、後見人と言い張ってワザと拡大解釈してやがるよな)
洒落にならない事態を招きかねない事を悟り、ドンドン青ざめていくノッブを余所に、いらん事しいをしやがってと、心中で罵る。
因みに身元保証人を求めた事を、信吉が確信的に言っているのは、秀吉や信吉が茶々を山科家の子女と認めても、周囲からは半信半疑処か疑われる公算が高い為、織田家トップのノッブに保証して貰う事で、少なくとも織田領内では貴族家の子女として扱われるので、京より貴族家との関わりが薄く、知己も殆どいない遠国の尾張に嫁ぐ娘を
「まぁ、身元保証人も「広義的」に言えば、後見人の範疇に入ります故、大殿様が広義的な解釈を以て仰られても、不思議ではありませんが只、周囲に有らぬ誤解を招く要因に成りかねませんので、此処はキチンと身元保証人を請け負ったと、ハッキリと明言なさるべきかと存じまする。」
下手に問い詰めるとノッブが逆ギレして、意固地になって拗れても面倒くさいので、理解をする振りをしつつ助け舟を出す。
「う、うむ、確かに周囲に有らぬ誤解を招きかねん、紛らわしい言い方で有ったな。
貴様の言う様に山科卿からは、娘御の身元保証人を頼まれた故、木下家に逗留する娘御に家中の者がちょっかいを掛けぬ様、注意喚起を促す為に、大袈裟な表現となったのじゃ。」
扇子で口許を隠して目線を左右に動かしつつ、信吉の出した助け舟の
そうしてノッブが、助け舟に掴まったのを信吉は見て取ると、
「ははっ、山科卿より後見人ではなく身元保証人を頼まれ、大殿様は茶々殿の尾張滞在を認めた、と言うことで宜しいのですね?
では、身元保証人で有れば、茶々殿の身元証明をしただけですので、私達の私的な結婚式にお越し頂くのは、どう考えても分不相応で過分過ぎますので、前田様辺りを祝辞の使者に送って頂ければ幸いです。」
満面の笑みを浮かべて理路整然と、
「それと同時に大殿様に対し、後見人でも無いのに私達の仲人役を頼むなど、僭越の極みにございますし、仮にも烏帽子子の手本となるべき烏帽子親足る者が、「君臣の序列・上下関係の道理」を無視して、
助け舟の縁に縋りついているノッブにこれ幸いと、言葉の
「ぐくっ・・・貴様ぁ、此処ぞとばかりに言いたい放題抜かしよってからに・・・クッ!
ええい好きにせよ!貴様と山科家との縁談なぞ、後見人でもない儂には預かり知らぬ事!
・・・フン、コレで良いのであろう?」
扇子を折らんばかりに、力を込めて怒気を露わにした後、肩の力を落として意気消沈気味に呟いた。
「大殿様のご厚意を承り、本当に感謝しきりにございます。
しかしながら申し訳ありませんが、過ぎたるは及ばざるが如く、過分なご厚意は却って災いを呼ぶモノにございます。
大殿様の善意のお気持ちだけで、私達には十分ですので・・・まぁ、お祝い品を頂くのはやぶさかではありませんが。」
「フン、抜かせ。
来るなと言う癖に、出すモノは出せか貴様。
山科卿の息女には、浅からぬ縁が有る故に出してやろうと思うがな。」
ソッと手を差し出す信吉に鼻を鳴らし、詫び料を出すと暗に示した。
こうして信吉の容赦のない説得により、ノッブは自身の危険性を自覚して折れ、長秀達も漸く肩の荷がおりたのか、ホッと胸をなで下ろして、安堵の息を漏らすのであった。
「はぁ~・・・
やれやれと・・・うん?そう言や信吉よ?」
「はい、何でしょうか池田様?」
突然池田恒興に話題を振られ、首を傾げつつ応える。
「お前の話を聞いて、お前の言い分には納得してるんだけどよ。
それだと先年に、将軍・義輝公を
恒興も首を傾げつつ、
「確か父親は近畿を支配した、三好長慶の弟と云えど四国の豪族出身者で、同じ四国の他家に養子入りした、地方豪族の身分と立場で、母親は貴族家の頂点である、五摂家・九条家の姫君だっただろ?
同じ五摂家・近衛家は、将軍家に嫁いでいるのはまぁ分相応だと思うが、九条家と地方豪族のそ、そ~ソゴウだっけ?家とでは、釣り合いが全くとれてねーよな?
言わばお前と同じ、身分格差がスゴい状況下での結婚なのに、お前が危惧した状況になってねーのが不思議なんだが?」
素朴な疑問を呈する。
「ああ、それは「公的な縁」ではなくて、「私的な縁」で成立しているからですよ。」
「あん?縁談に公的・私的なんぞあるか?」
何じゃいそりゃ?と益々首を傾げる。
「公的な縁とは政略結婚、即ち家同士の利害得失や、上司・主君からの斡旋・紹介で成り立つ縁談の事ですね。」
「ふんふん、なる程。」
「そして私的な縁とは、娘・姉妹の父兄が身分格差に拘らず、コレはと
「う~ん・・・公的な方は日常的な事柄だから、まだ理解出来るが、私的な方はイマイチよく解らん。」
頭を掻いて肩を竦める。
「いやいや池田様、目の前に丹羽様という、生きた実例がいらっしゃるでしょうが。」
「へ?万が実例?」
思わず同朋の長秀を見つめた。
「ええ、丹羽様は大殿様に見込まれ、妹君を娶って一門格になってるでしょ?
普通に公的即ち家同士の繋がりで観れば、丹羽様には口幅ったい事を言って申し訳ないのですが、新参者の丹羽様が大殿様の妹君を娶るのは、相当に分不相応な形であって、絶対に認められる話ではありません。」
「・・・言われて観れば確かに。」
信吉の説明に頷き、
「譜代でもなく有力豪族でもなく、
「大きなお世話だよコノヤロウ!お前だってオレと似たような立場だろうが勝!?」
しみじみと言いたい事を呟く恒興に、激昂して反論する長秀。
「とまぁ丹羽様と大殿様の様に、器量や将来性を見込んだ体で、私的な繋がりを以て婚姻関係を結ぶのは、現状の織田家中を観ての通り、問題視されたり騒がれていない様に、格差は有れど有能・有力な者を自家に引き入れる為に、一種の方便みたいに誰しもが使っている事なので、五月蝿く言われない訳です。」
「ふ~んなる程なぁ~・・・モノは言い様つーか格差婚を合法化し、家の体面を保つ方便として、うってつけの言い分ってこったか。」
そう言う事かよと改めて納得する。
実際に器量や将来性を見込まれ、新参者で他国者だった
「只、丹羽様の場合は純粋に、大殿様が器量を見込んだモノでしょうけど、件の九条家と十河家の場合は十中八九、五摂家内の権力抗争絡みでしょうけどね。」
「ふむ、権威有る将軍家と結びついた、政敵の近衛家に対抗する為に、
メンバーの中で1番京の事情に明るい、ノッブが信吉の意見を引き継ぐ。
因みに九条家から嫁いでいるのに、何故二条家が噛んでいるかと言うと、現九条家の当主・
「ほぼ確実に。
朝廷即ち主上の肝煎りで、将軍家と公的に結びついて後ろ盾を得た、近衛家に対抗する為に二条家は、勢いが盛んだった三好家と結ぶ事を選択したのでしょう。
当然二条家と三好家では隔絶した格差があり、公的な繋がり方では却って
自己予測を解説する信吉。
「ふむ、三好家も五摂家との縁は、自家の家格向上や朝廷工作に有効な手札を得れる、貴重な縁な故に、喜んで応じたであろうのう。
と言う事は、山科卿が貴様に娘を嫁がせるのも、裏があるという事か。」
「まぁ恐らくは「銭」でしょうね~。」
親指と人差し指で輪っかを作る。
朝廷の財務を司る言継からすれば、信吉が行っている献金は官位要望や要求の無い、無色透明の貴重な献金=財源であり、何としてでも確保しておきたいモノであった。
同時に信吉は自家にも、洛中の情報提供をする見返りに情報料を呉れる、
それ故に、他の貴族家に手を出される前に、騙し討ち同然の工作をして強引に縁を結び、今上陛下も動員して逃げ道を塞ぎ、成婚に持っていったのである。
(まぁ今上陛下の方は五摂家とは縁の無い、俺という別の財源の紐付けを兼ねて、少しは打算で山科爺の後押しをしたんだろうけど、十中八九は善意っぽいし)
山科家経由で下賜品と共に、我が事の様に結婚を言祝ぐ、主上直筆の手紙を頂戴して、ビックリ仰天した信吉であった。
それはさておき、
「ふむ、なる程のう・・・卿にとって貴様は、喉から手が出る程得たい者であろうな。
しかし・・・儂は参加出来ぬか・・・。」
出席を信吉に理路整然と断られ、ガックリと肩を落として落ち込むノッブ。
「う~ん・・・其処まで慶事が好きなら、いっそのこと家臣の「褒賞」として、城内に式場を提供するのはどうですか?」
「うむ?褒賞に式場とな?詳細を述べよ。」
信吉の言葉に、ハッと目を輝かす。
「ええ、功績を立てた功臣の褒賞と銘打ち、功臣の子息の結婚式の式場として、無償で城内の一室を貸し出し、飲食も提供するといった感じで行い、大殿様の肝煎りで晴れの舞台を踏めますので、花嫁側は生涯の名誉として殊更に喜びましょうぞ。」
「うむうむ確かに、良いのう良いのう。」
「無論、城内ですので大殿様が、偶々通りがかる事もあるでしょうしね~。」
「おお!?まさしくそれじゃあ!?」
即座に「採用!」と決定する。
「「「「ちょっと殿ぉ!?即決はぁ!?」」」」
慌てて制止に入る四天王。
こうしてノッブを自分の婚儀に排除しつつ、代替案を提供して、興味を逸らす事に成功した信吉は、別の問題発生に紛糾するのを余所に、しれっとフェードアウトして退出し、問題解決を秀吉達に報告するのであった。
続く
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