第37話天使と悪魔の囁きが一致する時。
「はぁ・・・何で俺がキューピットの真似事なんぞを、しなきゃあならんのよ?
つーかそもそも俺って、結婚を前に控えた大事な身(?)な筈なのに・・・。
姉さんの出歯亀根性に、付き合わされてるのを解ってても、どうしても逆らえない自分が恨めしい・・・。」
ブツブツ泣き言をボヤきつつ、寧々姉さんから課せられた任務を遂行すべく、トボトボと秀長の屋敷に向かう信吉。
信吉は秀吉の家臣になって以降、秀吉夫婦とずっと同居していて、現在は官位任官以後に庵を建てて敷地内別居しているが、秀長は兄の秀吉が出世する度に、秀吉夫婦が転居した後の元屋敷に、後釜で住む生活を繰り返しており、信吉にとっても前に住んでいた屋敷なので、迷わずに秀長邸に向かっている。
(はぁ、本当にもう・・・女性ってのは何時の世も変わらず、恋バナには目がない生き物ナンかねぇ?
松さんや茶々さんに宥めて貰おうと思ったら、却って面倒くさくなっちゃったし)
再び溜め息をついて、脳内でボヤく。
どうにか寧々姉さんの出歯亀根性を宥めて貰おうと、寧々姉さんの親友・前田の松さんにご注進にいくと、
「えっ!?そうなの!?
あの朴念仁っぽい小一郎さんがねぇ~。
判ったわ!喜んで協力するわよ!
小一郎さんの想いを叶える事に!」
180°違う方向に承諾してしまい、あっさりと寧々姉さん側に加わり、出歯亀が2匹になるという始末になってしまった。
挙げ句に頼みの綱と、1番の年長者である茶々さんに泣きつくと、
「ええっ!?小一郎様が涼に
た、たた大変!?急いで涼の白無垢を見繕ってあげなきゃ!」
テンパった声でバタバタ右往左往し、お祝いに貰った白の反物を取り出して、一足飛び処か三段ジャンプぐらいの過程をすっ飛ばす勢いで、花嫁衣装製作に乗り出す始末だった。
慌てて止めた信吉だったが、仮にも貴族家の姫君である茶々が、裁縫を出来る事に驚いていると、元々の家業である
まぁ現状の天皇家は経済的な暗黒期なので、新しく仕立てる余裕がなく、山科家の家業も専ら、今上陛下の衣服修繕がメインであり、茶々自体もこっそりと内職で
それはさておき、
結局茶々も、寧々姉さんの出歯亀を止める処か、「自分の不幸を嘆く処か、私の事を親身になって慰めてくれた、涼の為にも宜しくお願いします!」と、却って嘆願される羽目になり、ますます面倒事になったのであった。
(そりゃあ俺にも小一郎さんの想いを、成就させてあげたい気持ちぐらいは、一応あるけどさぁ・・・そんなら姉さん達が上役兼年長者分として、2人の仲を斡旋・仲介してあげたらええ話だろうに・・・。
それを、「小一郎さんから求婚された方が、涼先生が喜ぶから」って、わざわざ小一郎さんが告白する様に持って行かんでも)
寧々達の回りくどさを愚痴る。
(あ~いう温厚な人って、基本的に一歩引いた感じと言うか、自分から進んで前に行かない受け身な
兄弟で大違いだよなぁと、独りごちた。
(普段は見目麗しい女性と観れば、息を吐く様にナンパしたり、風俗店に行ってル○ンダイブをかます助平兄貴の積極性に、俺や小一郎さんが引きずって女から離す苦労をしてっけど、こういう時に限っては
何せ放って置いても勝手に手を出すからなぁ、あのエロ猿だったら・・・ハァ)
三度溜め息を深々と零す。
現代人の思考として周りが当事者同士の問題を、勝手に騒いで煽る様なやり方に、あまり気の乗らない信吉である。
(只まぁ半分は悪乗りだけども、残りの半分は善意から来ているから何とも・・・)
脳内天使と悪魔がせめぎ合う。
天使:『義理のある小一郎の恋心を、素直に応援したったらええんやないの?』
悪魔:『自分が墓場に入ろうとしとんのに、わざわざキューピット役する必要ないやろ。
寧ろ小一郎を引きずり込みたいだろうが?』
それぞれが脳内で意見を述べ、
天使&悪魔:『『うん?・・・あれ?結局小一郎も自分と同類になるんやから、どっちみち問題ないんやない?』』
行き着く先は同じな事に同時に気付く。
(確かに・・・小一郎の兄ちゃんも幸せ、俺も墓友が出来てハッピー!
躊躇や遠慮なんか要らんわいな!)
天魔合体した意見に、即座に乗るゲス。
そう思い至ると陰鬱な気分が嘘のように、打って変わってみるみる気分が明るくなり、「秀長く~ん?君も一緒に俺と同じ所に逝こうよ~?」とばかりに、今にもスキップをしそうな勢いで、意気揚々と秀長邸に向かっていく。
何処ぞの西洋ホラーの様に、地面から朽ちた手を伸ばして生者の足を掴んで引っ張り、生者を引きずり込もうとするゾンビの如く、秀長を自分と同じ人生の墓場に、引きずり込むのを決意する
「こんちは~小一郎さ~ん?
大事なボソ(不幸)話を届けに来ました~!」
どっかの世紀末的な閣下の様な台詞を吐きつつ、無遠慮に家に上がり込む。
「は~い・・・うん?小吉君かい?
どうしたの一体?大事な話って何?」
「お、読書中っスか小一郎さん。
いつの間にかそんなに買い込んでたんスね。」
「えっ、いや、私のじゃなくて
礼儀作法や歌詠みだけでなく、文学を嗜むのも教養の内と言われてね。
正直本に馴染みが無かったから、おっかなびっくりで読み始めたんだけど、先生に薦められた本が面白くて夢中になっちゃったよ。」
表紙に「源氏物語」・「伊勢物語」と書かれた書物を信吉に見せ、照れ笑いを浮かべた。
どうやら葉室家の家業は、儒学(儒教)を始めとする漢学(中国文学)を研究する、学問がメインの学者系貴族家の様で、漢学だけでなく
そういう環境下で育った涼も、ご多分に漏れずかなりの読書家であり、方仁寺の愛読家である住職の蔵書に興奮し、暇を見つけては書庫に入り浸っている。
因みに世紀末な様相を呈している戦国期だが、武家社会に茶道や和歌が当たり前に有る様に、文学=書物もごく普通に流通しており、意外な一例を挙げれば、
(ふ~ん、好きな女の子の趣味に合わせて、会話の糸口や接点を持とうってか。
どうにか涼に親しくお近付きになりたいという、努力が垣間見えて内心で微笑む。
「え~と、小吉君?一体どうしたんだい?
何か大事な話がどうとか言ってたけど?」
「あ、そうそう、件の涼先生の「将来」の事で、お話しが有りまして・・・。」
「・・・何かな小吉君?」
「涼先生の将来」というキーワードを聞いた途端、普段のニコニコ顔から一転、緊張で強張った表情を見せる。
「実は茶々殿から涼先生の将来について、こっそり相談を受けましてね。
このままずっと指導役として、雇い入れた状態で老いに任せて過ごさせるのは、自分よりも若いのに不憫でならぬといった感じで。」
「ふむふむ、そうだね。
あれだけ美しくて知的な先生が、独身で終えるのは本当におかしいよね!」
興奮気味に身を乗り出す。
「どうやら地元の京には、涼先生は身の置き所も
「そ、そそ、それで!?」
ゴクリと喉を鳴らす秀長。
「それで相談したいんですけど、一応2通りの方策を思いついたのですが、どっちが良いのか第三者の目で教えて欲しいんスよ。」
「うん、うんうん、相談に乗るから早く!」
おざなりな返事で続きを促した。
「1つ目は熱田の豪商に伝手が有るんで、その豪商の後添え(後妻)に入る事。
2つ目は俺の側室になる事なんスけど、どっちが良いと思いますか?」
淡々とした口調で2本の指を突き出す。
信吉自身涼を側室になどとは、全く以て考えておらず、本来なら秀吉の側室にと言いたい所なのだが、嘘でも万一漏れると絶対に寧々姉さんにシバかれるので、「命大事に」がモットーの信吉は自ら泥を被る。
「そ、そんな・・・それだとどっちみち葉室先生は、良縁処か日陰者扱いにしかならないじゃないか!?」
「そう言われても・・・地元で「石女」の札が付いている先生に、真っ当な縁談はどうしても難しいですから。
最初は上手く誤魔化せても、後になって露見すれば確実に揉めますし。
そんな事を気にせず先生を惚れぬいている、奇特な人物が居れば別ですけど。」
そんな人どっかに居ないかな~と、今までついぞ観た事のない、厳しい表情を浮かべる秀長を、ソッとチラ見して呟く。
(ほ~れほれ、このまま黙っていると愛しい涼先生が、
意図的に話を悪い方向に持って行き、秀長に危機感を煽って、背中を蹴り飛ばすゲス。
(まぁ現実的に観て、涼さんをどうにかしようとなればそういう選択肢しかない、って話にどうしてもなっちゃうから、悪い方向もクソもないんだけどね)
実際にリアルな選択肢を提示していた信吉。
(普通にこの時代の常識だと、レッテルを貼られた涼さんは、再婚すら難しい環境下。
だから
「涼を救える救世主は君だけだ!」と暗に示し、
「ギリッ!・・・それなら僕、いや私が先生を幸せに、正妻に貰って幸せにする!
石女なんかはどうでもいい、最悪朋姉さんの所から養子を貰えばいい。
只、涼さんが日陰者扱いになるのだけは、絶対に認められない!・・・良いね小吉君?」
覚悟を決めた目で信吉の両肩を掴み、力を込めて言い放つ。
「はい、承知しました小一郎さん。
ではすぐさま殿を介して、縁談を進めていくとしましょう!」
「え”っ!?今から!?早くないかい!?」
「いえいえ善は急げですよ小一郎さん?」
素っ頓狂な声を上げる秀長に、何言ってんの?といった態度で返す。
あっさりと思惑通りに釣れた喜びを、表面上はおくびにも出さずに、物事を大きくする事で、逃げ道をしれっと塞いでいく信吉。
(クックックック、墓友さんいらっしゃ~い)
頭を下げた顔にあくどい笑みを浮かべて、同志誕生を内心で言祝ぐ。
(小一郎さんみたいな内に秘めるタイプは、どっかのラッキースケベ式ハーレム型恋愛物男主人公の如く、優柔不断且つ受け身で、感情と心情が乖離するイメージだから、基本的に直接指摘するのはNG。
指摘されると羞恥心が起こって感情的になり、心情を無視して否定的な言動をとって、引っ込みがつかなくなる可能性が高い)
前世の
(同時に希望の有る選択肢を提示するのも、駄目なんだよなぁ小一郎さんタイプの場合。
基本的に自己評価や自己肯定が低すぎるから、「自分よりもそっちの方がマシかも?」と、ソッコーで自分は無理と諦念に入り、「恋人の幸せを見守るモード」に突入して、自分からひっそりフェードアウトしちまうタイプだからなぁ、小一郎さんは。
だから悪い選択肢を提示する事で、「自分の方がマシ」と思わせて、蹴り飛ばす事にしないと、小一郎さんタイプは自分から動かないしね~・・・ホンマ面倒くせ~)
何とか強制起動に成功するのであった。
こうして、秀長を奮い立たせる事に成功した信吉は、「ちょっと心の準備が!?」とジタバタもがく秀長を、
元々寧々姉さんの命令でやった事なので、事の経緯を知っている秀吉夫婦は揃って、「〰」状にニヤニヤと口を歪め、秀長の見え見えの恋バナを聞き入った後、涼先生を召喚。
急に喚ばれて何事かと
普段大人しい秀長の猛プッシュに、顔を真っ赤にしてたじたじになりつつも、自分の過去を率直に述べて断ろうとする涼だったが、それを物ともしない熱意に打たれて、最終的には折れて承諾。
晴れてご成婚の運びとなったのであった。
一応信吉も、「殿と違って一途だし、道行く女性にちょっかいもかけない堅い人ですよ」とか、「殿と違って金銭感覚もしっかりしてますし、一途で女遊びもしない真面目な人ですから、旦那としては最高の人です!」と、秀長をヨイショして援護していて、
「オイコラ待てや小吉、何で一々儂を引き合いに出すんじゃお前?」
「そりゃ勿論、反面教師の生きた実例だからに、決まっているでしょうに。」
「て、テメェ!・「旦那様?俄かにお聞きしたい事が、今現在に於いて出来したので、ちょっと後程で、じっっっくりとお話ししましょうか?・「・・・はい。」
「あ、後、小吉もね?」
「何で!?」
「アンタの口振りからすると、アンタは旦那様の所行を知ってて、私に黙ってた様に感じたんだけど?
姉さんは悲しいわ、可愛い弟がそんな隠し事をするなんて・・・悲しくて泣きそう。」
「その可愛い弟が、現在進行形で確実に泣かされるのが判って、哀しい気持ちで一杯なんだけどお姉様ぁ!?」
思わぬ誤爆を招いた一幕もあったりした。
そうしてなんやかんや有りつつも、無事涼と秀長の結婚も確定した後、「2組共が仲人役は同じなんだから、いっそ合同で式を挙げれば良いのでは?」と意見が浮上し、信吉達と併せて同日に、方仁寺で式を挙げる事となるのであった。
秀長達の一件で当初の予定日を変更し、せっせと茶々が涼の白無垢を製作している中で、信吉はせっせと事務仕事をこなしていると、
「小吉く~ん!助けて!」
困り果てた表情と情けない声を上げて、秀吉が転がり込んで来る。
「又、
「そうなんだよ小吉クン。
殿に言葉を尽くして説得したんだけど、聞き入れてくれね~んだよぅ。
何時もの如く一喝されて、話はハイ、お仕舞いでつまみ出されるの繰り返し。」
「大殿の祝い事好き・お祭り好きには、困ったモンすね~本当に。」
首を竦める秀吉に呼応し、ため息を吐く。
生来なのか慶事を祝うのが、大好きなノッブなのだが大名という立場上、当たり前だが家臣達の慶事に呼ばれる事が全く無く、基本的に関わる余地もないのだが、今回の茶々との婚儀に於いて、茶々の「後見人」となっているのを大義名分に、「自分にも関わる義理が有る」と主張し、茶々と信吉の婚儀に参加しようとしているのである。
ノッブの所行を信吉視点で現代風に例えれば、ホームパーティー感覚な結婚式を挙げるつもりなのに、突如として面識の無い、勤め先の親会社の会長が参加するのと同義であり、雰囲気を確実にぶち壊す事になる、有り難迷惑にも程がある行為であった。
普通なら陪臣の結婚式に参加するという、最早暴挙に近い行動をする程、ノッブも破天荒な事はしないのだが、信吉が考案した「黄金の指」作戦に味を占めた模様。
「あやつ自体が考案した事を、あやつ自身にしたとて問題あるまい?」という理屈の元、
「どうにかしてくださいよ仲人役様?」
「どうにもならんのだよコレが。
お前自身が根本要因を作っとるから、真っ向から否定し難いのも有るしのう。
それに日に日に機嫌が悪くなっておって、やたら首周りがスースーするし・・・。」
げっそりとした声音で呟く。
「?そうなんスか?
姉さんに比べたら別段怖くないでしょう?」
「万人に1人つーかお前ぐらいだよ!
女房の寧々よりも殿の方が、怖くないって宣うヤツはよ!!・・・兎に角、手は尽くしたが儂には無理だ。
後はお前がどうにかしてくれ本当に。」
ばったりと寝そべって匙を投げる。
こうして、「この戦いが終わったら俺、結婚するんだ」レベルに相当する、
続く
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