第34話賭けの代償と信吉を基に観る、戦国時代の婚活事情。
「あ~それでは審問を開始する・・・つーか一体何回目だっけか今回で?」
スゴい投げやり口調で、面倒くさいといった表情を隠さずにありありと見せて、数えるのも億劫そうに、
小牧山城内のこぢんまりとした一室に、審問官役の恒興と、被告人(?)の信吉は対面に座り、両者の脇には弁護役の村井貞勝が、恒興と同様の表情で座っている。
「何か信吉オメー、殿に対して不平不満を持ち、
「有るに決まっているでしょ!?
今此処に居る事こそ、それを表す
声を上げて、猛然と抗議する信吉。
1565年9月、何故か立て続けに発生する裁判沙汰に、信吉は辟易していた。
裁判沙汰発端の大元は、6月に発生した「永禄の変」即ち三好家に因る、室町幕府13代将軍・足利義輝の暗殺事件である。
3月に信玄と賭けをした事について、当事者同士だけではなく、織田・武田両家の家中にも内容が伝わっており、「何を荒唐無稽な世迷い言を」と、両家中で嘲笑の的になっていた信吉だったが、誰しもが予想だにしなかった、永禄の変が勃発。
結果的に信吉は、予想と言うよりも予言を的中させて、賭けに勝った事で両家の家中は、蜂の巣をつついた如く大騒ぎとなった。
こうした経緯で、ノッブの台頭を予言した、「越前のノストラダムス」こと朝倉宗滴に並ぶ、「尾張のノットリダマス」こと予言者・木下信吉が爆誕。
「未来視の神通力が有る」だの、「人の天命を見取る、千里眼の異能持ち」だの、様々な中二病乙的な臆測が、尾張と甲斐を中心に広まり、主の秀吉は「なぁ小吉君?儂って十年後どうなるの?大丈夫だよね、ね?儂?お願いだから大丈夫って言って!?」と、以前に具体的な数字を提示された事で、信吉に縋り付いている姿が目撃されるのであった。
まぁ、縋り付いてくる
そうして賭けに勝った信吉は、負けた形になった信玄から、「賭け通り使者として会うのは諦めるが、気軽に何時でも遊びに来て欲しい」という手紙と共に、甲州金で2千貫もの大金を貰い、ウハウハな気分を味わっていたのだが同時に、織田家中で「信吉が金銭で信玄に買収され、機密を漏らしている」と噂が立ち、ノッブに審問を受ける事となる。
「・・・という訳で、貴様には機密漏洩の疑いが掛かっておるが、何か言う事は?」
「もしもそれが事実なら、私の立場で機密が知られる、防諜や機密保持のザルさに戦慄を覚えますが、大丈夫なんですか?本当に?」
容疑者である陪臣の信吉が、空前絶後の珍事な話を心配する。
ノッブに
「そもそも金銭を得るのなら、そんな危ない橋を渡って得るよりも、安全に自作の絵画を売り払って得ますが?」
「うむ、それは間違いないな。
依って咎め無し(無罪)故、下がって良し!」
信吉のド正論に頷き、退出を命じるノッブ。
買収の噂が終息すると、今度は「不寛容な信長に愛想を尽かし、
「ほれ信吉よ、儂は寛容故に貴様の要望を、聞いてやろうではないか。
言うてみよ。」
猫撫で声で聞かれる事になって、
「え~とじゃあ、私だけ評定に殿の代理で、出席させるのは止めて頂けませんか?」
「儂は寛容故に、貴様の要望を聞いてやろうではないか、言うてみよ。」
「だから、私だけ評定の代理出席をさせるのは、止めて頂けませんか!?」
「・・・儂は寛容故に、貴様の要望を聞いてやろうではないか、言うてみよ。」
「端っから聞く気が無いですやん!?」
ゲームの特定の選択肢を選択しないと、話が進まない状態をリアル体験して、ノッブにつっこむ事になった。
かと思えば、
「いや~何か私、何故だか大殿様に
「オイコラ待て。
審問をしておる儂を跨いで、勝手に決めるなたわけ者が。
噂通りであれば勘気を蒙っているのに、何故貴様は満面の笑みを浮かべておる?
失脚しかねん事態なのに、笑顔で明朗快活に物を申す奴は初めてじゃ・・・どういう
逆に突っ込まれる事もあった。
その様に噂が家中に流れては消え、又新しい噂が流れてを繰り返し、噂が立つ度に信吉は審問に召喚される羽目になり、ノッブは途中で飽きたのか、審問官役を恒興や長秀に丸投げし、現在に至っているのである。
それはさておき、
「あ~まぁ、確かにそりゃそうだわな。」
「おいおい恒興、審問官のお前が被告人と同調してどうする?
しっかり役目を果たさぬかバカ者。」
「いやあの・・・曲がりなりにも弁護役の村井様が、それを言っちゃあ不味いのでは?」
「あっ・・・ううん!・・・何でもない。」
三者三様に身も蓋もない言葉を繰り出し、グダグダな状態になる。
「幾ら何でも、大殿様を含めて重臣の方々も、流石に噂に流され過ぎてませんか?」
根も葉もない噂に振り回されて、召喚される信吉は愚痴った。
「まあまあ、そんなに愚痴んなよ信吉。
高々噂程度だからと放置していたら、
「確かにそりゃそうですけど。」
一定の理解を示す。
「それにな・・・。」
「???」
ちょいちょいとコッチ来いと、信吉を手招きして呼び寄せ、
(度重なる噂の出所を洗い出し、何処から噂が出ているのか発信源を探って、細作や内通者の炙り出しが出来るからな)
水面下での処置を耳打ちする。
(なる程・・・噂の出所をその都度探って重ねていけば、重なった人物・
信玄が渡り巫女を使って、スパイ活動をさせているのが判ったから、防諜対策に俺の騒動を利用して、
上手く利用されたなと、感心する信吉。
「もうそろそろだろうだしな。」
モグラ叩きが、早晩終わる事を告げた。
「なる程、得心がいきました。
我が儘を申しました事、平にご容赦を。」
「うむ、得心がいったのなら良し!
咎め立てせぬ故、下がって良し。」
「ははっ、失礼仕ります。」
平伏して辞去する。
(ふぅ~・・・とりあえず近く、落ち着きそうで良かったわ。
こうも矢継ぎ早に噂が出て広まるのは・・・やっぱり信玄坊主の仕業しかねーわなぁ。
一応初期段階に予防線張って、今上陛下を出汁にして
小牧山城から下城しつつ、まだまだ日の高い太陽を眺め、溜め息をついて脳内思考する。
二度目ぐらいから、余りの噂の広まり方から信玄の関与を勘ぐり、対策を練った信吉は、絵画と引き換えに熱田の豪商に伝手を得て、信玄から貰った銭の全額を豪商に預け、熱田の豪商から堺の天王寺屋を経由し、証文払いで山科言継に禁裏への献金を依頼。
同時に義輝暗殺事件騒ぎで、少なからず被害を受けた皇居の修繕費と、「今上陛下の御名に於いて、都の人々が天照らされます様に」とヨイショしつつ、京の復興費用の名目を記し、末尾には「もしかしたら甲斐の武田信玄に因り、不慮の死で二度と笑納出来ぬかもしれませんが、お許しください」といった、しれっと
そしてびっくりするぐらい、早く届いた言継のオッチャンの返信に依ると、話に
まぁその分、流言飛語が織田家中に飛び交い、度々審問に掛けられるという、要らぬ迷惑を掛けられる羽目に陥っているのだが。
(う~ん、今上陛下も
山科のオッチャンに頼んでた、学問寺の扁額揮毫に御自身の諱・
有りがた迷惑を実感する信吉。
一応は前の通り、ノッブと秀吉名義で献金したのだが即バレし、信吉は件の献金に因り正七位上・雅楽允から、従六位下・
アレコレ考えている内に、いつの間にか自宅の庵に戻っており、玄関の板戸を開けると、
「よぉ小吉、邪魔してるぞ?」
兄の杉原家定が、自宅の居間に座っていた。
「うん?どうしたん兄貴?
兄貴が此処に来るなんて珍しいな?」
基本的に勤務先の
「まぁ、今回は
ちょっと殿の家で話すのも、憚られるし。」
「ふ~ん、んで何の話?」
「
「椰々がどうかしたのか兄貴?」
杉原家兄妹の末っ子である、妹の名前が出て来て訝しむ信吉。
「どうもこうも、ボチボチ結婚を考えてやらねーと、いけねー時期だろうが?」
「へっ?結婚!?椰々ってまだ9つだぞ?」
「バカ、もう9歳なんだよ!
早目に相手を見繕ってやらんと、すぐに行き遅れになっちまうわい。」
なに悠長な事言ってんだ?とばかりに、眉根を寄せて非難気味に告げる。
この時代の結婚年齢は、大体15歳前後と云われ、婚活自体早いと生まれる前から、遅くとも10歳前には活動しており、18歳過ぎると行き遅れの感覚であった。
「見繕うって兄貴、んなもん姉さんみたいに、当の椰々が好いた奴に、嫁がせてやればいいだろ?」
「アホかお前は!?
寧々みたいに、その辺の市井で見ず知らずの男の中から、椰々に自力で旦那を捕まえて来いって言うのかお前は!?
世間知らずの椰々に、良縁を手繰って来れる可能性なんざ、寧々の場合もそうだが
顔を真っ赤にして怒鳴る家定。
現代人の感覚だと、信吉の意見の方が通常に感じる事だが、この時代処か戦前ぐらいまでは、女性が男性に出会う機会が極端に少なく、庶民でも親からの薦めや、親の知人・親戚を介した見合い結婚が主流だった。
特に武家は婚姻関係が、家の栄枯盛衰に関わる要素が高い為、家同士の利害得失で結ばれるのが普通で、個人の感情は二の次だった。
因みにだが一応、男性が意中の女性宅に夜中に侵入し、強引に関係を結ぶ「夜這い」も、平安期から始まり戦国期にもあったが、家の者に見つかって、バッサリ斬殺される事も少なくなく、
因みの因みに平安貴族の婚活事情は、現代人から観るとアタオカな事情であり、一般的には男性が意中の女性に、
現代風に例えれば、覗き常習者の
それはさておき、
「う~ん、確かに。
つっても俺には、マトモな縁談を持ち込む、伝手なんかないぞ兄貴?」
「んなこたぁ百も承知だよ。
数少ねーウチの伝手の吟味を、一緒にして欲しいんだ小吉には。」
平静さを戻して弟を頼る家定。
「まぁ妹の将来が掛かってるから、喜んで協力するけども候補は?」
「先ず1番手は小一郎殿。」
「却下。
殿と殿の弟にそれぞれ姉妹を嫁がせるのは、流石にウチが周囲から非難されるし、間違いなく殿が了承しない。」
「だよな~当然。」
肩を竦めて信吉の意見に頷く。
杉原家にとっては、主家に二重の縁が出来て、結びつきがより強くなる利点が有るが、秀吉にとっては秀長という、唯一無二の貴重な「身内枠」を使ってまで、杉原家とは二重に結ぶ利点が無いのである。
同時に二重の縁を持つ事で、木下家中内で杉原家の専横と観られ、不必要な軋轢を生むリスクが高く、杉原家にとってもデメリットの方が、大きいのであった。
「次は浅野家。」
「それも却下。
大体浅野家には、本家に叔母上が嫁いでるし、本家自体が婿養子の長吉殿だけだろ。
浅野家本家と元々の繋がりが有るのに、ウチの本家筋になる椰々を、縁遠い浅野家の分家に嫁がせても意味ないし。
それならウチの分家に嫁がせる方が、よっぽどマシだろうが。」
理路整然と否定する。
「確かに。
かと言ってウチの分家筋で
オヤジ系の木下家は論外だし・・・やっぱり蜂須賀殿に頼るのが無難かねぇ。」
自己完結で呟く。
「あ~あ、いっそのこと殿の側室にでも、椰々を嫁がせるか?・・・あれ?小吉?」
自嘲気味に俯きつつ、ボヤいて顔を上げると、小吉が姿を消していて、慌てて周囲を見渡すと、
「・・・・・・俺は何も聞いてねーぞ?」
いつの間にか玄関から外に出ており、恐る恐るといった体で、板戸から怯えた顔をチラッと覗かせていた。
「いや、いつの間に・・・。」
「体が勝手に動いた。」
「勝手に動いて
感心半分呆れ半分で、人外な動きをした小吉を見つめる。
「お前・・・どんだけ寧々に弱いんだよ?」
「逆に姉さんの逆鱗に触れようとする、兄貴の方がスゲーわい。」
ビクビクと周囲を見渡しつつ、寧々姉さんの気配を探る
寧々姉さんに追いかけられたら、恐怖で逃げ足が9秒の壁を越す、自信のある信吉にとって、家定の言動は狂気の沙汰であった。
「兄貴、短い付き合いだったな。
オトン達の面倒は俺が看るから、迷わず成仏してくれよな?」
「勝手に人を殺すな!
縁起でもない事言うなテメー!?
冗談に決まってんだろが!
妹が好いて嫁いだ先に、波風立たす様な野暮な事するか!」
アルカイックスマイルを浮かべる弟に、怒鳴り返す兄。
あ~だこ~だの議論の末、結局秀吉を介して小六のオッサンに、頼る事を決めて解散する兄弟であった。
そうして婚活の基礎、見合い選定の儀をクリアした信吉は、お隣の前田松さんが目の色を変えて、長女・
秀吉が持って帰って来た釣書=見合いに対しては、「天竺屋の○○、蓮屋のXX」と秀吉が贔屓にしている、とあるネーチャンの
アッサリと結婚という墓穴を、スイスイと躱して腰に手を当てつつ、余裕を扱いて笑っていた信吉だったが10月、
「山科言継が娘・茶々と申します。
幾久しくよろしゅうに・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・はい?」
山科言継の娘を名乗る、顔面偏差値がかなり高い、思わぬ伏兵=押し掛け女房が現れた!
「・・・・・・どゆこと?」
「父の手紙が届いていませんでしたか?」
「いえ、ウチの学問所の礼法と和歌の指導役に、女の人を寄越すという旨の手紙は、山科卿から確かに貰ってますけど?」
ポカンとした表情で答える。
「その手紙には、「送った手紙の返信が、1ヶ月以上無き場合、了承したと見做して送ります」と有りませんでしたか?」
「えっと・・・待って待って・・・あ、有った有った・・・確かに指導役の女を送る事と、期限は書いて有るけど・・・。」
何処にも嫁が入ってないじゃんと、茶々に手紙を見せた。
「此処です、此処。」
茶々が指差した箇所は、「指導役@女?」と字が汚く書かれていて、読みにくかった所を差していた。
「指導役「の」「女」ではなくて、指導役「と」「嫁」ですね。」
「何処が!?完全に文字化けしてるやん!」
どうみても書き損じにしかみえない、山科爺の筆跡をガン見する。
「き、汚ねー・・・2重の意味で。」
「あ、後、
美しい笑顔で、
こうして見事に
続く
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