第27話しんでれらぼ~いの陰?

(とりあえず、自分の現況を考えてみよう)

自問自答をする信吉。


1564年6月、勅使下向を迎えた際に、今上陛下の篤い恩返しを受けた信吉は、ノッブが烏帽子親になると同時に、2千貫にも及ぶ捨て扶持を支給されるという、破格の待遇を得て元服して世に出る事となった。


7月に入って秀吉邸内に、自分の住居であるいおりが作られているのを眺めつつ、己の現状把握に努める信吉。


(先ずは悪い方から。

こんながきんちょが好待遇でデビューして、織田家家臣達から一斉にヘイト嫉妬・怨恨を向けられて、針の筵だぜぃНAНAНA・・・にはなってねーんだよなコレが。

全く無い訳じゃねーけど、思ったよりも少なかったんだよな~意外にも)

腕を組んで唸る。


ノッブから、2千貫の捨て扶持を褒美として貰った際に、「殿に高禄を貰いながら、直に仕えぬのは不忠では?」と言う者も、少なからず居たがノッブが「道理が通らぬ」と、切って捨た上で説明した事で、ヘイト指向が鎮静化したからである。


「道理が通らぬとは?」

「この者に与えたのは褒美である。

逆に貰った褒美に目が眩み、儂の直臣と成って猿から儂へと、「変節鞍替え」したと責めるのなら解るし、お前達の言い分は正しかろう。

しかしあくまで信吉を寄騎としたのは、主上の御声掛かりに対する配慮と、儂の対外的な面子メンツと信吉の猿への節義忠節の、ぎりぎりの落とし所が其処だっただけにしか過ぎぬ。」

考え得る妥協点だと諭す。


「藤吉郎への節義とは一体?」

「フンッ、こやつは猿が未だ軽輩の折に、目端の効く奴じゃと思うて、儂が直臣に取り立ててやろうとしても、頑として首を縦に振らずに応じなんだ剛直者よ。

のう、三左よ?」

「はっ、確かに左様でした。

藤吉郎が(足軽)組頭で禄が30貫程だった頃、3倍近い禄の御咄衆おはなししゅうとして召し抱えようとされましたが、袖にされましたな殿。」

信長の言に相槌を打つ森可成。


「そうよ、しかもっタッ!!」

素早く太刀持ちの小姓から刀を取り、抜いた瞬間に気合い一閃、いきなり信吉に向かって横薙ぎに刀を振るう。


「「「「「ッッッッ!?」」」」」

「・・・ククッ、相変わらず身動みじろぎもせぬか、豪胆な小猿めが。

斯様かように抜き身を首筋に当てて、脅しすかしても応じぬ節義よ。」

思わぬ凶行に咄嗟に目を瞑ったり、顔を逸らす家臣達を余所に、ピクリとも微動だに動かず、首筋に寸止めされた刀を見つめる信吉を観て、微苦笑を浮かべ刀を引くノッブ。


「故に主の猿に対して節義を貫き、臣下としての筋を通す小猿に、儂は褒める言葉は有れどもなじる言葉は無い。

逆に信吉を詰る者は儂よりも上位者、例えば将軍に直臣に誘われれば、儂を捨てて将軍の許に走るの言に聞こえるし、儂はそうがどうじゃ?道理に叶っておるか?」

「「「「「・・・・・・・・・。」」」」」

睥睨へいげい(睨む)する様に家臣達を見据える信長に、沈黙して下を向く家臣達。


こうして、ノッブにぶっとい釘を刺された事と、状況的に秀吉と同様に信吉に敵意を持ち易い、武断派連中は代表的存在の森可成や、どっかで観た熊髭の柴田勝家が、信吉の節義と豪胆振りを認めた事で、敵意を向ける者が殆ど居なかったのである。


(まぁ、寧ろ武断派よりも織田掃部かもんなんちゃらとか、替え歌が得意そーなオッチャンと同類の、外交畑の連中の方が俺に対して、明確な敵意を持ってるくらいだし)

信吉の官位任官に、1番ぶつくさ言っていた人物を思い浮かべる。


現状の織田家は平手政秀の死後、コレといった代表的存在な外交官が居らず、不破光治ふわみつはる松井友閑まついゆうかん武井夕庵たけいせきあんといった有名外交官僚は、ノッブが美濃攻略した後に加入する人物なので、現時点ではまだ不在。


一応ノッブの一門で武田家との外交を担う、織田掃部助忠寛かもんのすけただとおが現在、織田家外交部門の代表格であった。


但し一門と言っても縁が遠く、忠寛自身ノッブに一時期尾張から追放されていた、脛に傷を持つ人物であり、偶々追放後に身を寄せていたのが、武田家だったという縁で帰参が認められ、外交交渉を任されている感が強く、有能とは言い難い人物である。


まぁ、忠寛達外交閥からすれば、勅使下向と御内意書発行を実現し、忠寛の掃部助(自称)に比べて雅楽允(公称)という、嚇々かっかくたる(輝かしい)実績と肩書きを持つ信吉に対し、警戒心や嫉妬・敵意を抱くのは、無理からぬ話ではあるが。


(・・・ま、どうでもいいか。

別段後で縁が切れて悪縁になる、信玄坊主地雷原との縁を持ちたい訳でもね一しな。

聞いた事もねーモブに敵意持たれても、痛くも痒くもね一わ)

鼻ホジしながら脳内思考にて、掃部さんをデリート消去していく信吉。


(それに身の回り世間体・親戚のヘイトの方は、定利オトンと家定兄貴が、全自動で勝手にになってくれてるから、こっちゃは泰平で穏やかなモンだし、気楽やわぁ)

持つべきモンは頼れる身内人盾だよなぁと、ノホホンとお気楽極楽に横に寝そべって、鼻ホジを能天気に続けるゲス。


現状で定利は隠居しているのに周囲から、「鳶ではなく阿呆が鷹を生んだ」と囁かれて、恥じて表を歩くのも憚る状態になっており、家定も同輩衆から、「愚兄賢弟の生きた実例」と揶揄やゆされていて、信吉の栄光の代償有名税をモロに支払っていた。


因みにこういった現象は、下手に当事者の信吉が庇ったり擁護すると、却って家定達の評判が落ちたり、要らぬ怨恨や騒動の種に成りかねない事を、前世知識と経験で知っているので、泣きついて来た両者に対して、「自力を示して見返すか、柳に風で無視するかの2択しかない」と、2択を提示した所、


「「無茶を言うな!!

んなお前みたいな人外級なモン功績を、ポンポン簡単に出来るかぁ!?」」

迷わず放置一択を選択した2人であった。


それはさておき、


(とりあえず朝廷との縁は、これからも維持していく方針だけど、そもそも他家の外交を受け持ちたい訳じゃね一し・・・いや、将来を見越せば家康つーか徳川松平家とは、何らかの縁を持っておきたい所だな)

ホジった鼻クソを指ピンしつつ、将来天下を取る秀吉にとって、最大の難敵になる人物の対処を思考する。


(現時点というより、武田信玄が生きている間は下手に状況をいじくると、悪影響がデカ過ぎてヤバいから無理、か。

精鋭の三河衆を戦上手の家康が、ガッチリ纏めて立ちはだかったからこそ、武田信玄の西進を最小限で食い止めれたし、ノッブも中央で覇を唱えれた訳だしな。

ノッブの後釜を丸々貰うコッチからすれば、少なくともノッブの死後からある程度までは、必要不可欠な存在であるか)

現状ではどうにもならんなと保留する。


(とりあえず置いといて・・・後はやっぱり元服したから出仕出勤する事か。

名目上はノッブの家臣扱いだから、評定に出席させられる義務を負わされたし、その上秀吉一家の筆頭家臣にまでなっちまったし)

クッソ面倒くせーと嘆く。


立場上、捨て扶持をノッブから貰っている信吉は、謂わばノッブとの関係は細長くて縛るアレに近く、ある程度は従う義理があった。


そして秀吉の方は武名こそ無いが、曲がりなりにも官位持ちの信吉を家臣に迎えた為、相応の待遇で召し抱える必然性が発生し、筆頭家臣だった秀長を次席に控えさせ、秀長・正勝を物頭待遇に、信吉を足軽大将待遇に処して、信吉を筆頭家臣に据えたのである。


それは流石にと秀吉に抗議したのだが、当の秀長と正勝の2人が、


「ムリむり無理!!」

「バカ言うんじゃねーよお前!?

官位爵位持ち兼国内処か、国外でも名の知れたお前よりも、無位無官で無名に近い俺達が、お前より上座かみざになんぞ座れるかい!

晒し者にしかならねーよ!!」

揃って首を左右に振り、筆頭家臣の席次を拒んだので、元服直後に即時筆頭家臣という、カオスな人事になってしまったのであった。


因みに便宜上は、秀吉から家禄を貰っている体にしているが、秀長同様に家禄は全額返納しており、一銭も貰っていない信吉である。


そうして正式に秀吉の家臣団に入った、信吉の最初の任務が、「寧々姉さんの政務財務基礎教育指導」である。


任務内容に思わず目が点になり、言い出しっぺの今や木下家筆頭文官と化した、義父・家次に問い質すと、


「俺は秀長殿や家定・長吉の教育と、木下家の財政基盤整備に忙しい。

オメーは元々何でか出来るから、教育が要らねーつうか寧ろ教えれる立場で、手が空いてる上に寧々とは姉弟だ。

気兼ねなく指導や教授が出来るだろう?」

テキパキ書類処理をしつつ、信吉に告げる。


「いや、何で姉さんに?」

「俺も良い歳だしこの先どうなるか判らん。

それに秀長殿・家定・長吉も、殿や元服したお前も武士として、戦場に出る事になる以上は万一戦死もあるし、戦地で政務を両立してこなすのは、非常に困難だろう?」

「そりゃそうだけど。」

確かにと頷く。


「そういう万一に備えて、確実に残る女房の寧々に政務を教授しておけば、留守中の政務を代行・引き継ぎが出来て、後方への不安感が解消されるし、最悪でも政務を知っている寧々が居れば、立て直しが効くしな。」

「・・・なる程ね、保険としてか。」

家次の考えを理解して、


「他家みたいに、読み書き算盤が出来て政務を専属でこなし、信頼出来る譜代の家臣でも居れば別だけど、ウチみたいに人材不足で掛け持ちで、政務・軍務を回している状態だと、万一が発生するとあっという間に崩壊しちゃう危険性が有るのか。」

リスクを考える。


「そういうこった小吉。

余所と違って、そんな都合の良い人材が居ねー以上、留守居役になる寧々に色々と教授しておいて、万一の場合は家の存続経営を託す事を、視野に入れておくべきだからな。」

だから頼むぞと、真剣な表情で告げる。


実際に秀吉が後に長浜城主になり、石田三成などの政務に長けた、近江出身者達=文官タイプを召し抱えるまでの間は、主に家次が政務を専属で行い、秀長と長吉が政務・軍務を兼務しつつ、木下家を切り盛りしていた程の人材不足であり、その影響で寧々が政務に携わる様になるのは、極々自然の理であった。


「え~とじゃあ読み書きからか・・・。」

「いや、寧々は普通に読み書き算盤は出来るぞ小吉?」

「え、出来るの姉さん!?」

「ああ、俺や嫁の美代が幼少時より、嘉代と一緒に教えているからな。」

心持ち自慢げに語る家次。


「美代の親父さんで俺の師匠は、「読み書き算盤も立派な財産」つう考えの人でな。

俺もそれを見習って娘の嘉代に教えているし、寧々も遊びに来る度に、進んで教えを乞う奴だったもんで、物覚えが良いからつい教え込んじまった。」

「結果的に「備え有れば憂い無し」になって、良かったのかな~?」

腕を組んで首を傾げる。


「実際にウチの杉屋の経営状態を、オメーも間近で観てただろう。

俺がてんてこ舞いの状況で、経営に携わる事が出来ない状態でも、ちゃんと経営が成り立ってだろうが?

美代が読み書き算盤が出来て、顔繋ぎ(売り掛け営業の引き継ぎ)をして万一に備えてたから、上手くやれてたんだよ。」

明確な実例を示した家次。


「あ~うん、確かに。

・・・それとごめんなさい義父様、俺のせいで休業に追い込んじゃって。」

バツ悪げに謝罪する信吉。


今回の勅使下向騒ぎで、信吉の身の回りで最も実害が出たのは、家次夫婦であった。


信吉の話が表沙汰になるや否や、杉屋の血縁者と即バレして、「杉屋を介せば絵を描いて貰える」という、根も葉もない噂が流布して依頼者が杉屋に殺到。


同時に愛子ちゃんの絵が、信吉作だと噂が広まりと、何時の世にも存在して湧いて出る、転売屋達が商材にしようとぞろぞろやって来て、買い占めに走ろうとするといった質の悪い連中まで、杉屋に押し寄せる騒ぎになってしまい、マトモに商売にならない状況に追い込まれ、やむなく休業をせざる得ない事態となったのである。


当然信吉も、絵描きのバイトは辞める事になり、生駒屋敷の笛の演奏のバイトも、「官位持ちの方に、わざわざご足労願うのも悪い」と、自然消滅したのであった。


しかし休業したと言っても、杉屋の住居に住み暮らしていては、何時厄介者が来るか不安な為に、秀吉邸に夫婦共々住み込みで転居し、信吉の庵が完成するまでの間、客間で寝起きして信吉が庵に移り住み次第、信吉の部屋に移動する予定になっていた。


「まっ、しゃあねーわ気にすんな。

ウチだってオメーの絵を当て込んで、便乗商売をしてたんだからよ。

自分で騒動の種を蒔いていたんだから、オメーのせいと責めるのは筋違いだしな。」

「義父様・・・。」

麗しい(?)義父子の会話をしていた所に、


「オイコラ待てや小吉!

家次伯父に詫びるんだったら、俺にも一言詫びんかいテメエは!?」

剣呑な表情で家次の横で研修中の、実兄の家定が怒鳴る。


「???・・・詫びるって何を大兄貴?」

「こ、この野郎!?

俺だって伯父上みたいな実害こそねーけど、風評被害を被ってんだよ!」

心底不思議そうに疑問符を浮かべる信吉に、顔を真っ赤にして怒る。


「いやそれって大兄貴の周囲が、勝手に騒いでいるだけで俺はなんもしてないやん。

どうしてもって言うんなら、「兄の大兄貴を差し置いて弟の俺が上位筆頭家臣になり、杉原一族で初の官位持ちになって、一族最高の出世栄達を、俺が成し遂げてごめんなさい」って事になるけど・・・詫びた方が良い?」

「・・・・・・いや、無しで。

余計に惨めになって虚しくなったわ。

本当に止めてください。

無性に涙が零れ落ちそうになるから。」

つい先ほどの怒気が一転して意気消沈し、ゴシゴシと目元を袖で拭う家定。


実際に信吉は悪い事は何一つしておらず、それどころか、この時代の観念で言えば信吉は、立身出世を果たして一族の名を上げた、称賛されるベき者である・・・個人の感情的な部分を除けばではあるが。


「解りますぞ家定殿ぉ!

私も浅野家の親戚連中から、「長吉の方じゃなくて、信吉の方を婿養子に貰った方が良かった」って、最近これ見よがしに言われる私には、家定殿の気持ちが痛い程に!」

何故か貰い泣きして、家定に同調する長吉。


両者共に信吉の影響で、周囲からの風評被害に遭う羽目になり、共通の被害者という麗しい義兄弟(?)の絆を結ぶのであった。


それはさておき、


(う~ん・・・・・・あれ?思った程俺にとって悪い事が無い様な?

ノッブに捨て扶持を貰う代わりに、評定に出る方策を提言のを義務付けられたのも、年払いのコンサル助言料金の代わりと思えば、そう悪く感じないしな。

筆頭家臣つっても、寧々姉さんの教育係がメインの仕事だし。

今度は良い方を考えようか)

思考を切り替える信吉であった。


                 続く

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