第26話善意(という名の先行投資)が即返って来た・・・やべえ(汗)。
「さて、私は此度の審議の裁判官を務める、
織田家家中のえ~と?」
「申し遅れました?織田家家臣・木下藤吉郎が臣・木下小吉と申しますが。」
裁判長らしき30代ぐらいの藤孝の疑問形に、疑問形で返す小吉。
落ち着いて周囲を観れば、小吉から観て右側には慌てて駆けつけて来たのか、荒い息をする山科言継が温厚な表情を変え、裁判長の青年を噛みつかんばかりに睨み付けていた。
「うん?又者か!?
主や他の者は
「は、殿を始めとする面々は、勅使下向をお迎えする為に、
現状を裁判長に伝える。
「お待ち頂きたい細川殿!!
私の個人的な嘆願に応じて、禁裏を助けてくれた織田殿や家臣の者達に対し、如何なる嫌疑を持ち又、小吉殿を此処に引っ立てたのか、明確な理由をお聞かせ願いたい!!
余りにも無体で有りましょうぞ!?」
屋敷で会った時のにこやかな顔から打って変わり、目を怒らせて抗議する言継。
「落ち着かれませ山科卿。
その真偽を確認する為に、織田家家中の者を召喚したのですから。
あくまでも査問の段階であり、まだ罪科を問う段階では有りませぬ故。
小吉とやらも強引で済まなんだが、萎縮せずに判る事を正直に述べる様にしてくれ。」
軽く会釈程度ではあるが、頭を下げて謝罪の意を示し、真摯な態度を見せる藤孝。
(細川で藤孝って事は、和歌の秘奥義(?)「
まぁ、俺的には「日本一の風見鶏」の方のイメージが強いけども)
そう言や最初は幕臣だったっけか?と、あーだこーだと言い争いをする両者を余所に、うろ覚えの前世知識を思い出す。
そうして、言い争いをしている間に「邪魔するぞ」と、貴族風の20~30代と50代ぐらい男と、武士風の50代ぐらいの合わせて3人が、ドカドカと白州にやってくる。
「こ、
松永殿も一体どうして・・・?」
思わぬ突然の人物達の登場に、目を白黒させて驚く藤孝。
「何、お主ら幕府が面白い事をしとると、其処な山科殿から朝廷に報せがあってのう。
慌てて二条殿と三好家の
張り付かせた様な笑みを浮かべ、前久と言う青年は藤孝の後ろにどかりと座り、
「近衛様!二条様!此処な小吉殿は、誠の勤皇の志を持つ者にございます!
どうかお力添えを!!」
「判っておる山科殿。
しかしもしかしたら万一、我らが憂慮する案件とは別件の可能性も、無きにしもあらず。
とりあえず確認を致そうぞ。
ほれ藤孝、続けよ。」
いきり立つ言継を宥め、まるでそうであってくれといった、緊張した表情で続きを促す。
「ははっ、では、公方様から織田家に対する疑義は、幾つか有るが主な事を尋ねる。」
「はぁ、何でしょうか?」
「今回織田家が朝廷に納めた金銭は、凡そ2千貫に及ぶと聞いたが相違ないか?」
「え~とはい、間違いないかと。」
コクリと頷いた。
「その内の5百貫は、皇居の修繕費の提供というのは判る。
しかしながら残りの1千5百貫についてだが、官位任官の工作に使われたのでは?と、疑いが掛かっている。
コレについては如何に?」
探る目つきで小吉を見つめる。
「事実無根でございます。
口幅ったい事ながら、禁裏の苦しい台所事情を察し、武家の朝臣筆頭の公方様には遠く及ばねど、我らも朝臣の端くれとして赤心を以て、ご笑納頂いたに過ぎません。」
暗に「天皇家の苦境なのに、天下の将軍様は何してんの?」と、皮肉を混ぜて弁明する。
「うぐっ、しかしだなそれなら幕府に一声っあだっ!?・「いい加減にせえ貴様らぁ!?何故其処まで朝廷が、貴様ら幕府連中に統制されねばならんのじゃ!?」
近衛前久が藤孝に扇子を投げつけ、怒髪衝天の如く荒ぶりつつ怒声を上げた。
「そも官位任官の仲介云々を抜かすのなら、先ずは貴様ら幕府が朝廷に、任官の
先代から返礼金処か約定で定められた、負担金諸々も滞納しっ放しで、何度も踏み倒しておりながら、仲介料をせしめようとはどういう了見じゃ阿呆が!!」
ビシッと指差しして非難する。
どうやら禁裏の維持費や、冠婚葬祭についてある程度は幕府が、補助金を出すのが通例な様だが、先代・
(自分は出さねー癖に、大名家からの仲介料をせしめて、朝廷に入れる金を懐に入れて
公金横領のロクデナシじゃねーか将軍)
潔癖な
「おい藤孝、もし織田家の事を
そもそも将軍家が、キチンと出すモノを出していれば、今回の様な
顎をしゃくりあげて、睨み付ける青年。
「それはその・・・前久様、いえ近衛様。」
「はっきりと申しておくが、そこな小吉の申す通り、今回のは織田家の赤心の献金じゃ。
一言半句も官位を無心せず、
そんな赤心に感動した主上がどうにか報いようとした所に、貴様ら幕府が
投げた扇子を拾い上げて席に戻り、パシンパシンと空いた手のひらを叩きつつ尋ねた。
「はっ、某としては・「ああ、そうそう、言い忘れておったが今度という今度は、我が近衛家は庇い立て出来ぬぞ?
と言うよりは庇い立てして、何とか
故に心して答えろよ?」
藤孝の言を遮り、自分に泣きつくのを防ぐ。
「そ、そんなバカな!?」
「何故に有り得ぬと言えるのだお主は?
事情は違えど現公方の祖父・
ほれ、主上直筆の
愕然とする藤孝を尻目に、溜め息混じりにスッと懐から、「勅」と掛かれた書状を取り出して見せつけた。
「言うておくが、今回の件は前の改元騒動など比にならぬ程、主上は激怒なされておる。
チラッと50代の貴族のオッサンと、小吉を観る前久。
「一度公方様にご相談を!?」
「その公方様に伝え様にも、こういう己に不都合な時に限って寝込む、図ったかの如く虫の良い急病で面会謝絶じゃ。
故にこの裁きなのか、いちゃもんなのかよー判らん裁決次第で、勅状を読み上げるか灰に成るかが決まる訳じゃ。
さて藤孝よ、返答は如何に?」
涙目の藤孝に、追い討ちをかける。
「・・・・・・何の問題も有りませぬ。」
「他の件も同様に問題無いよのう?」
「・・・ははっ、有りませぬ。」
「そうか、二条殿、山科殿、松永よ聞いたな?小吉とやら無罪放免じゃ。
さっさと帰って良いぞ。」
ひらひらと手を上下する。
(う~ん、殿から聞いた感じだと、義輝って自分の都合通り行かないと、逆ギレしたり逆恨みしそうなタイプっぽいんだよなぁ。
・・・下手に勅使下向の邪魔をされると、殿の出世に悪影響が出かねねーから、一応フォローしておくか・・・面倒くせーなぁもぉ)
脳内で罵りつつ、
「はい、ありがとうございます。
改めて細川様。」
「うん?何だ?」
「是非とも将軍様に、勅使や我々の交通の安全を指示する、
一応、将軍の名誉を傷つけ無い様、助け船を出す小吉。
「はぁ!?何を急に・・・!?」
「気ぃづけぇぇ藤孝ぁぁ!!
白昼堂々と、この者を御所に引っ立てた事は、
このまま放置すれば、勘違いで織田家を詰問したと、公方は笑い草の種になるだけじゃ。
しかし行き違いであったと知り、下向に進んで協力したと有らば、主上の怒りも和らごうし、京童共も公方の行動を褒め様ぞ。」
小吉の言を補足する前久。
「な、なる程、しかしですな朝廷の
「阿呆!他人に言われんと動かん愚鈍者に、公方を仕立てたいのかお前は!?
叩き起こしてでも書かせよ!」
「ははっ!ではすぐに!」
走り去っていく藤孝。
「某も最早無用ですな、では御免!」
藤孝に次いで松永久秀(?)も退席する。
「ホッホッホッ・・・久秀を強引に引っ張って参ったが、蛇足であったのう。」
「はぁ・・・我が従兄弟なれど、情けなき限りよまっこと。」
お歯黒を見せて笑う二条晴良と、対照的に肩を落として嘆く近衛前久。
「ああ、そうじゃ小吉とやら。」
「あ、はい、何でしょうか近衛様?」
「主上が「お主の言葉を励みにこれからも、笑顔を以て民草を天照らす太陽になろうぞ」と、笑って申されておられたぞ?」
「それはそれは何よりにございます。」
「それとな、主上は何処ぞの従兄弟殿と違って、受けた赤心の志は忘れぬし、必ず報いる御方じゃから楽しみにしておれよ?」
「はぁ、ありがとうございます?」
意味深な前久の発言に、若干不安感が湧いてくる小吉であった。
こうして何処ぞの将軍が、恥を掻いただけで終わった裁判だったが、恥を返上する為か即時御内意書が発行され、勅使下向の段取りがトントン拍子に進み、一週間も経たずに勅使下向と相成ったのである。
そして何故か、勅使の飛鳥井の40代絡みのオッチャンにやたらと粘着されて、笛の演奏をせがまれる小吉であった。
聞けば飛鳥井家は、笛を家業とする家元らしく、小吉の前世の楽曲を元にした演奏を聞いて、「指使いはまだまだ荒いが、独創的な曲調は見事!」と褒め称え、免許皆伝の免状を小吉にくれたのである。
因みにだが、「
それはさておき、
そうして何事もトラブルもなく、古式に倣って鈴鹿峠を経由し、南近江→伊勢→尾張と順調に進んで、尾張国境に無事到着。
ノッブを先頭に正装に身を包んだ、織田家の重臣達が勢揃いし、下馬をした状態で勅使を出迎えて一礼、ノッブ自らが先導して勅使を居城・清洲に案内するのであった。
そのまま秀吉一行は清洲城下で解散、小吉も漸くにして解放され、懐かしの我が家に帰ったのである。
「ただいま~姉さん。」
「あらお帰り小吉。
どうだったの京の都は?」
「うん、清洲城下の方がよっぽど栄えてる。
堺の方は凄かったけどね。
それとコレお土産~。」
ドサッと背負っていた
「うわぁ・・・キレイ・・・。」
ウットリとした表情で呟く寧々。
葛籠の中には、色鮮やかな反物や
「それ、嘉代義姉さんとか松さんとかの分も有るからさ、姉さんから渡しといてよ。」
「うん解った、アンタはどうするの?」
「疲れたからゴロ寝する。」
「はいはい、夕飯までノンビリしなさい。」
自由自適に寝ころぶつもりの小吉であった。
その同時刻・・・
「さて、
コホン、勅!
「ははっ!!」
勅使の飛鳥井の言に、平伏する信長。
「先代の折からの勤皇の志と、2千貫に及ぶ此度の朝廷に対する赤心を以て、
「は?2千貫?・・・は、ははっ!有り難く雅楽頭を拝命致しまする!」
一瞬疑問符を浮かべたノッブだったが、瞬時に場を弁えて、感謝の意を述べる。
(※・・・役職名に権がつく場合は、臨時・代理という意味合いが強く、付かない役職と同格では有るが、職権が無い事を指す)
「そして信長家臣・木下秀吉!」
「はっ!?某ですか!?」
「うむ、お主じゃ。
雅楽頭に及ばずと雖も、貴殿の朝廷に対する赤心も忘れ難し!
因って
「へいぃぃぃぃ!?」
何かしたっけか俺!?と、素っ頓狂な声を上げつつ自問自答する秀吉。
「さらに秀吉家臣・木下小吉!
玄妙なる笛の使い手で有ると同時に、唐人をも唸らせる絵画を描くのは、誠に見事!
主上の直の御声掛かりに因り、
雅楽助よ、必ずや雅楽允に申し伝える様、主上に変わって厳命致す!」
キリッと厳しい目線を、パニクっている秀吉に送り、ビシッと申し渡す飛鳥井さん。
(※・・・主に芸術関係で、優れた実績や評価を受けた者が授かる、名誉位の事。
現代風に謂えば
「あ、それと雅楽頭殿。」
「はっ、何でしょう?」
「主上が
「ははっ、某の不明に因り今上陛下に御心労をお掛けした事、誠に相すみませぬ。
直ちに是正致します故、今上陛下には御安心なさいます様、お伝えくだされ。」
平伏して謝罪するノッブ。
「承知致した。
では是にて勅使の務めを終えまする。」
「ははっ、遠路遙々お疲れ様にございます。
何も無い田舎なれど、ゆっくり御寛ぎなさいます様・・・勅使殿を案内せよ。」
担当家臣に目配せをして、勅使の飛鳥井を一室に誘導させる。
そして・・・
「・・・どぅいう事だぁ猿ぅ!?
儂が貴様に渡したのは5百貫、何処から1千5百貫が湧いて出たおい?うん?」
地の底から響く様な重低音で、ピキピキと幾つも青筋を額に浮かべ、秀吉に問い掛けた。
「し、知りません!本当に解りませぬ!
何が何だが皆目見当が尽きません~っ!!」
涙目であうあうとたじろぎ、高速でブンブン首を左右に振る秀吉。
「と言う事は小猿かぁ!?
あやつ何をしよったぁ!?一刻も早く小猿を此処に連れて来い!疾く早ーく!!」
「はひぃぃ!?」
すっ飛んで行く秀吉であった。
こうしてロケットの如くすっ飛んで来た秀吉により、小吉は自宅でゴロ寝していた所を捕縛されて、ラグビーボールの如くノッブの許に
そして妙な猫撫で声を発するノッブに、薄気味悪さを感じつつも、小吉本人は全く悪い事をしていないので、正直に全て洗いざらいノッブに話したのであった。
「そうかそうか、漸く得心がいったわ。
儂や猿の官位任官は、主上が貴様に官位を与えがたいが為のオマケか・・・フンッ。」
鼻を鳴らして納得顔になる。
ノッブ曰わく、小吉に献金した報奨として官位を与える為に、陪臣である小吉のみに与えると角が立つので、ノッブや秀吉も紐付けて与えたとの事。
(いやちょっと今上陛下ぁ!?
ノッブや殿の面子を
めっちゃ殺気だった
突き刺さる視線に冷や汗を流す。
「まぁ何はともあれ、我が家に多大なる名誉を齎した貴様には、相応の褒美を与えねばならんのう・・・ほれ。」
何気なしに自身が被っている、
「只今を以て貴様は元服。
儂の「信」と猿の「吉」の字を取って、今後は「
ついでに、2千貫(4千石)の捨て扶持も与えるモノとする。」
爆弾発言を
「わ、若!?又者の
泡を食った筆頭家老・林秀貞が、信長に詰め寄り苦言を呈す。
「あのな、佐渡爺並びに皆の者に問うが、この信吉の如く、自力で千貫を越す金を作って主上の歓心を買い、将軍家に次ぐ※
1城処か1郡を呉れてやるわ!!」
戯けた事を申すなと一喝する。
小吉的には、その場しのぎと思い付きでした事だが、客観的に観れば鬼手的な
(※・・・三管領家=斯波・畠山・細川の3家を指し、将軍に次ぐ管領の地位に付ける資格を持つ名門。
四職家=赤松・
「・・・誰も進み出ぬのなら異存はないな?
ああ、信吉よ安心せい。
名目上は儂の家臣扱いになるが、寄騎として猿の配下に付ける故、実質的には猿の家臣と変わらんからの?
どうした信吉?嬉しいであろう?」
「ヘヘッ?へへへへッ!?」
ノッブの優しい配慮に、壊れた様な笑い声を上げる小吉。
こうして小吉改め信吉は、予想だにしない出来事により、鮮烈過ぎるデビューを果たし、乱世に出る事になったのであった。
続く
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