第24話王城・京の都・・・え?都・・・?
「ふぃ~・・・やっと抜けたわ~。」
関宿から伊勢側の山間にある
平安期の律令時代の古来から定められた、※
(※伊勢・鈴鹿関、美濃・
主に京から朝廷の反逆者が、東国に逃亡するのを防ぐと同時に、東国からの反乱軍を防ぐ防衛目的も兼ねて設置された。
平安期末に
「それにしても天気が変わり過ぎだろ?ホントに鈴鹿峠は。」
「まぁ、昔っから鈴鹿峠の天気の移ろい易さは、結構有名だからなぁ。
大体の山道や峠道は山頂を越えて、上りと下りの境目で天変し易いのに、鈴鹿峠は上りも下りも場所に拠って急変するから、険しさと天変で「三関でも随一の難所」と、謂われるぐらいだしな小吉坊よ。」
ウンザリとボヤく小吉に対して、苦笑気味に鈴鹿峠の特徴を話す長康。
「はぁ、こんなんだったら桑名から街道として利用されてる、
愚痴りつつ、交通の便が良さそうな感じのする、別ルートを選択しなかった事に対し、疑問符を浮かべる。
「阿呆、八風や千種街道は伊勢商人や近江商人の、
小吉の愚痴を窘める口調で、
「それに比べてこっちの鈴鹿越えは、伊勢側の関守・関家と近江側の
先日会うた
敢えて利用した理由を述べる。
「う~ん・・・なる程、鈴鹿峠は有る意味裏道みたいなモンですか。
それにしても殿、色々と詳しいっスね?」
「うん?まぁな。
今川家との田楽狭間戦前に殿が、将軍家に謁見をする為に京の都に上洛された際、儂も殿の
言うても大半は、殿や供の者が言うとった事の又聞きじゃけど。」
頬を掻いて照れ笑いする。
「へ~・・・あれ?そう言えば今回、将軍家を無視してるけど良いんですか?
朝廷から任じられた
うろ覚えの前世知識で疑問点を尋ねた。
「お前もやけに妙な事を知っとるな。
基本的に官位任官とかの公事の際には、将軍家を通じて朝廷に働き掛けて貰うのが通例じゃが、今回は山科卿の嘆願という私事じゃから、別段気にせんでもええしそれに・・・。」
一旦言葉を切り、キョロキョロと周りを見回して、憚る様にコソッと、
(殿御自身がそれはそれは大層、足利将軍家を嫌っておられるからのう)
衝撃的な話を小吉に耳打ちした。
「えっ、そうなんですか?」
「ああ、殿が現
「それは又・・・。」
ノッブの性格を知る側からすれば、そりゃそうなるわと絶句する。
(確か徳川家康も、将軍家に三河守護職を貰おうとして、主筋の吉良家を下剋上で追い落とした事を、激しく非難されて責められたっていう、似たような話が有ったよな?
現実を観ずに理想つーか誇大妄想に取り憑かれた、出来もしない将軍家の復権を夢見る、懐古主義者って感じだよな義輝って。
聞き知った限りだと)
秀吉の話を聞き、脳内思考で想像する。
「しかもそう言って、殿には偉そうに言っておきながら、当の公方は将軍家の「君」である、満足に暮らせぬ畏き辺りのお方の窮状は、まるで無視で見て見ぬふりして
その上に立派な御所を作ってくれ、生活の保障までして飼ってくれている、「臣」の三好家とは度々揉めて、再三に渡り戦を起こしている「※2
殿は「どの口が言うか
呆れ果てた表情を浮かべて語る。
実際に後年、義輝の実弟・義昭を将軍に擁立したノッブは、義昭が好き勝手にやらかした事にブチ切れて、箇条書きした詰問状を送っているのだが、その中の一文に「義輝が早死にして非業の死を遂げたのは、朝廷を軽視して蔑ろにしたからだ」と、生前の義輝の行状を明確に非難しており、暗に「お前もそうなりたいのか?」と義昭に警告している。
(※1敬いの心を忘れない事
※2自己の利益や欲得に目が
「ものの見事に二枚舌、言行不一致を体現してますね~それは。」
「本当にな。
殿が最も嫌う性質の人間だからな公方は。
それにバカ正直に将軍家を介しなんぞしたら、下手せんでもしれっと横領されて、禁裏に渡るのは1割も無いだろうしのう。
勝てもせん三好家との戦備という、無駄遣いに使われるのがオチじゃわい。」
「最低のクズですね
ゲスからクズ認定をされる将軍。
「もうそれなら山科卿と言うか朝廷の方も、実力者の三好家に諸々出資して貰った方が、よっぽどマシなんでは?」
「まぁ、それを実行した結果「
溜め息混じりにボヤいた。
「改元つったら年号を変える事ですよね?」
「そう、今の永禄になっとる前は
「はい?改元するだけで全国規模に?」
全く理解が及ばない小吉。
「公方自体が改元が有った事を知らず、弘治の年号で手紙を諸大名に送っていた事で、全国規模で赤っ恥を晒してしまい激怒、「儂に談合もしていない改元など無効だ!」と、弘治年号を使い続けて朝廷に反発。
反発する公方に今度は朝廷が激怒して、公方を「朝敵」に認定しようと画策。
諸大名も弘治を使う者と、永禄を使う者に分かれるという、謂わば全国規模で「将軍派」と「朝廷派」に、割れてしまった騒動じゃ。」
「・・・なんかバカバカしい話っスね。」
しょうもない事でわざわざ揉めんなよと、呆れ顔になる。
「全くな。
そんで思わぬ事態に三好家が驚いて、事態収拾に右往左往奔走した結果、「自分に非があった」と長慶が認め公方と「
公方が帰京する切欠になったって訳じゃ。」
「う~ん・・・良く三好家は、自分から泥を被りましたねそれ。」
一方的に損をする状況で、実質的な負けに等しい和睦に持ち込んだ事に首を傾げる。
「そりゃあのう。
どっちに転んでも三好家にとって結局の所、
「大痛手?世間的に悪評を買う以上に?」
それ以上の政治的損失になるのかと驚く。
「朝廷に味方して公方が朝敵に認定されれば、曲がりなりにも公方を擁立しとる三好家も、周囲から「朝敵を擁立したろくでなし」と、同じ目線で観られて巻き込まれるし、かと言うて公方に同調すれば、今度は「朝廷を蔑ろにした裏切り者」と朝廷の怒りを、自分が買って朝敵になりかねん。
それなら自分が進んで「己が全て悪かった、
首を左右に振って肩を竦める。
「うわぁ・・・目上同士の子供じみたケンカに巻き込まれて、責任と非難だけ貰ったって訳か三好家の面々は。」
「まぁそうなるのう。
そういった経緯で、将軍家は三好家と朝廷に敵意を増し、朝廷は将軍家と三好家に
そんな現状じゃから三好家も応じぬし、山科卿も言えぬじゃろうて。」
バカバカしいと肩を落とす秀吉。
「そう言う訳で関わらぬのが吉じゃ。
ほれ、宿場に着いたから一休みをするぞ。」
「「ははっ。」」
早速宿屋に向かう一行であった。
そして土山宿で羽を休め、
そして・・・
「え?・・・これが京の都・・・?」
唖然とした表情を浮かべる小吉。
メインの目抜き通りこそは、そこそこの賑わいをみせているが、目線を少し奥に這わせば焼け落ちた家屋、明らかに破壊されて倒壊した家屋が、あちらこちらに点在し、路地裏には無気力に壁に背を預けて、老爺とも老婆とも判断の付かない、痩せ細った餓鬼の様な者達が屯していた。
(コレが京都?おいおいおい!?
前世のニュース映像で観た、紛争地域の都市とか、終戦後の日本の都市部みたいに、めっちゃ荒廃してるやん!
伝説的暗殺拳伝承者が現れてそう・・・)
核の炎に包まれた事後と言われても、信じてしまいそうになる。
「あ~やっぱりそういう表情になるわな。
儂も最初上洛した時には、余りの荒廃っぷりには唖然茫然としたモンよ。」
解るぞ小吉と、ウンウン頷く秀吉。
「将軍家とか三好家とかは、都市管理をしていないのですかコレ?」
「ああ、殆どしとらん。
元々応仁の戦乱以降も、代々将軍家は身内同士で次期将軍職を巡って、戦を起こすのに夢中でほったらかし。
三好家を含む歴代の実質的な支配者達も、「君臨すれども統治せず」で守り難い京には在京せずに、近場の
天を仰いで嘆息する。
「本当に末世ですねぇ。」
「まぁコレでも儂が上洛した時に比べると、大分マシになっとるがな。
前の時には
「悪臭ですか?」
「ああ、死体を棄てる投棄場代わりのな。」
「・・・うぇ。」
生々しい秀吉の実体験話に、酸っぱいモノがこみ上げる。
「とりあえず山科卿にブツを届けて、サッサと堺に向かおうぞ。
サッと馬首を巡らせて、貴族が住む区画に向かって動き出した。
そうこうしていると、
「~~~!~~~~!?」「!~~~?」
遠目に籠を背負った姉妹っぽい女性達と、複数のボロボロの
どうやら数を頼んで気が大きくなって、女性達に絡んでいる模様。
「殿。」
「うん?騒動に首を突っ込む事はせんぞ。」
「結構な美人さんですけど?」
「長康!行って参れ!」
即座に決断を下し、ぱっと見は同類のオッサンズを向かわせる。
難なく制圧した頃合いを見計らって、
「大丈夫ですかな?麗しきお嬢さん方?」
ええかっこしいな
「・・・はい、ありがとうございます?」
「ぶっ!?・「ああ、スイマセンねウチのモンが恐がらせて。」
下心満載のエロ猿の頬を手で押しのけて、警戒心バリバリのお姉さんに対し、ペコペコと頭を下げる小吉。
「ナニすんじゃいテメェ!?」
「
「・・・・・・。」
一撃必殺の殺し文句を食らい、しおしおと体を
「え~と、大丈夫ですか?
道中不安ならお送りしますけど?」
「あ、いえ、家がすぐそこにありますので、大丈夫にございます。」
子供の小吉には警戒心を解き、キレイな
(う~ん、野草摘みかなんかの帰りで、
この時代の貴族の子女は、大概は貧しくて飢えを凌ぐ為に、野草や山菜採りをしていたらしいから、この人達もその類だろうな。
下手な詮索は野暮ってモンだな)
なんとなく察する。
「左様ですか。
では我々も洛中の
ぺこりと姉妹(?)を貴族家の子女と見なして、出来るだけ丁寧な態度で応対し、未練がましくしている秀吉に、「早よサッサと乗れや」と騎乗を目線で促した。
「羽林家?あの私、洛中住まいで地理に詳しいので、お礼がてら案内をしましょうか?」
「はぁ、それはこちらとしてはありがたいのですが・・・。」
「どちらのお家に御用でしょう?」
探る様な感じで小吉達を見つめる。
「え~、山科言継卿宅を訪ねる所です。」
「・・・お
今まで姉(?)の後ろに隠れていた妹(?)が、目を見開いて驚いた表情で、ポツリと呟く。
「へっ?お義父様?」
「申し遅れました私、山科家の家人でこちらの言継様の御嫡男、
籠を背負ったまま、ぺこりとお辞儀する。
(はい!?どうみても俺より幼いだろ!?
利家のオッサンといい殿といい、直立不動・断崖絶壁のヒンヌー好きのロ○ばっかかよ?この時代の野郎は!?)
寧々姉さんに聞かれたら、確実に「死」を呼ぶ台詞を脳内で叫ぶ。
「へぶっ!?・「コレはいかい失礼仕った!
某、尾張は織田家家臣・木下秀吉と申す者にございまする。
此度は卿の御要望に御応えすべく、殿の命にて卿の許に馳せ参じた次第。
何卒卿にお取り次ぎをお願い申しまする。」
今度は小吉の頬を押しのけ、秀吉が前に出てハキハキと口上を述べた。
そうして阿弥と侍女の案内で、芸術が爆発してそーな絶妙に屋根の傾いた、廃墟一歩手前のボロ屋敷に辿り着き、即座に取り次ぎが為されたのであった。
「主・織田弾正忠の命に依り、畏き辺りのお方の窮状を御救いすべく、生々しく畏れ多けれども現金をお持ち致した。
どうか卿より御笑納頂ける様、禁裏に御取り成しくださいませ。」
「おお、弾正忠殿が・・・ありがたや、ありがたや・・・本当にありがたい。」
秀吉に向かって手を合わせ、拝む様に感謝の意を表した後、尾張が有る方角に向かって座ると、何度も頭を下げて感謝の意を表した。
(ふ~ん、この爺さんが戦国時代随一の勤皇家・山科言継てか・・・)
涙を流して感謝している、色黒で痩身の言継を見つめる。
多数の貴族が生活苦に耐えかね、
各地の大名家を訪れて、自身が持つ教養(和歌等)を教授する傍ら、御所修繕費や朝廷の行事=祭祀の費用を集めて回り、織田信秀や今川義元等々、大名から資金調達を成し遂げた、財務大臣と言うよりも凄腕の外務大臣といった人物であった。
「ままっ、山科卿、それぐらいに・・・。
山科卿へのお土産もございますので。」
荷車から大樽に入ったお酒と、干物といった酒の
「おほっ!?これはこれは忝い!
早速頂戴致そうかのう。
儂も織田殿の近況等を聞きたい故、こちらに来やれ木下殿。」
秀吉が言継に
(うん?明の人か?・・・チャ~ンス)
思わぬ所で出会った好機に歓喜し、ゴソゴソと
「ニ~ハォ~?」
にこやかにフレンドリーに話しかける。
「うン?ニーハオねボーズ。
わたシ
わりと流暢な日本語を話す明人。
聴けば薬種(薬の原料)を主に扱う貿易商人の様で、堺の
「ケど全然ダめね。
こんナオンボろ屋敷に住んでル自体、アイヤーと思たケどアんの定よ。
フツー貴族っテ、お金持ちなノがとーゼんと思てタのに・・・倭国おカしーヨ。
ホんで何ねボーズよ?」
愚痴りつつ、小吉を問いただした。
「コレって、
ススッと一枚の絵を差し出す。
「うン?ドれドれ・・・ほう、これハこれハなカなカ・・・こノ手の
「じゃあコレは?」
「!?コレをわたシに売るねボーズ!」
目の色を変えてせがむ明国商人。
丁々発止のやり取りの後に、現在堺に訪れている他の明国商人を紹介する約束で、
(ウッヒッヒッヒ・・・棚からボタ餅で思わぬ伝手が出来たわ。
描き溜めてたヤツを売り払って、銭儲けをさせて貰いまひょか!)
皮算用を弾くゲス。
こうして金儲けにひた走る小吉であったが、それが思わぬ騒ぎに発展するとは、思いも依らぬ事であった。
続く
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