第23話蜂須賀親分様々、寧々大明神様。

(いや~こういう旅路って、「ヒャッハー!命が惜しけりゃ身包みぐるみ置いてけや!?」な山賊達が出るのが、セオリーだと思ったけど、良い意味で裏切られたつーか蜂須賀のオッサンって、影響力強いなマジで)

自分達にヘコヘコ平身低頭している、ガチモンのを観て、つくづくと感じる小吉。


主君・信長の命に依り、朝廷の財務を司る内蔵頭くらのかみ・山科言継の嘆願に応えるべく、秀吉が引率する御所修繕費運搬の一行は、清洲で人夫兼護衛兼案内役である、蜂須賀小六の手下=野伏り山賊・川賊と合流し、そのまま尾張を出て西進して伊勢に入り、桑名を経由して亀山の鈴鹿すずか峠越えから、南近江の甲賀こうかに至るルートを選択し、京の都を目指して出発。


道中正規ルートを通ると、豪族達が勝手に作った私設関所がわんさか有るので、通行料がバカにならない為、桑名を出るとサッサと脇道というか枝道に逸れ、鈴鹿の関に向けて移動していた。


当然の如く蜂須賀のオッサンの手下と同じ風貌の、野盗や山賊達が現れたのだが、事実上運搬を差配している前野長康が一言、「蜂須賀小六一家」と名乗ると態度が一変、平身低頭してさっと道を開ける処か、道案内までしてくれる始末だった。


場合によっては、長康の顔を見ただけで相好を崩して肩を叩き、自分達のねぐら(拠点)にいざなって、宿泊を勧める者までいるのには、大層驚いた小吉であった。


「蜂須賀のオッチャンの名前って、相当大きいんすね~長康さん。」

むさ苦しい強面のオッサン達が、笑顔で手を振ってくれているのに応え、手を振り返しつつ弟分の長康に尋ねる。


「まぁな、兄ぃは尾張随一の顔役だからよ。

あーゆう裏稼業の者も大事にしてるしな。」

心持ち自慢気に語る、如何にも山賊の親分といった風貌の兄貴分・正勝と違い、気怠けだるげで粗野な三枚目といった風貌の長康。


「しかしあ~ゆう人達って、荒れ寺とか洞窟とかで暮らしてて、問答無用で旅人に襲い掛かかったり、攫った女の人とかをはべらしていると思ってたけど、フツーに集落を築いてフツーの家で生活しているのには、本当に驚きましたよ。」

前世知識で想像していた山賊像と、実物の山賊とのギャップに驚いた小吉。


「あ~、そういう荒い事凶悪犯罪をする奴は、殆どが戦に敗れて帰る所を失った、行く宛ての無い連中敗残兵や、食うに困って切羽詰まった流民といった、余所からの流れ者達だから。

基本流動的な奴らなんで、当然根を張った根拠地を持たねーし、行き当たりばったりで行動するんでお前さんの想像通り、ろくでなしになっちまうんだ。」

凶悪行為をする連中と、


「真っ当つったら、おかしな表現になっちまうけどよ、普通に山賊野伏り稼業している連中は、そんなバカをまずしねえんだよ。

そんな事すればあっという間に噂が広まって、人が寄り付かなくなるし、近隣の※惣村そうそんや領主達の討伐対象になっちまうしな。」

手を振っているオッサン山賊達を親指で指し示して、しない実例を挙げる。


(※南北朝時代から室町期に発生し、近隣集落が寄り集まって形成された、主に自衛を目的とした自治組織の事。

独自ルールを定めて結束力を高め、領主の横暴や無茶な要求に対しては、土一揆どいっき(反乱)や強訴ごうそ(反乱を示唆する脅迫)・逃散ちょうさん(領地からの計画的集団逃亡)といった手段で対抗。

江戸期に於ける村落制や、近代の市町村制にも影響を与えた)


「逆にあの人達、良く討伐されませんね?」

首を傾げて疑問符を浮かべる。


この時代の農民は、戦争経験を豊富に持っている上に、平然と領主に一揆を起こす気概も持ち、刀槍といった武器も普通に持っている事から、江戸時代の農民に比べて遥かに武力が高いのに、山賊達が存在している状況が、小吉には理解不能だった。


「そりゃあ惣村や領主ともで、からな。」

「へ?繋がっているの!?」

農民や領主に、最も敵意を持たれる関係性な筈の存在が、ツーカーな事実に仰天する。


「例えば惣村が一揆を起こそうとした場合、消耗品の武具・兵糧を調達しようとしても、当然商人達には領主の圧力や、妨害が入って調達がままならねーもんだ。

そんな時には彼奴等が、裏からこっそり調達を賄ったりとかな。」

裏の調達屋としての面と、


「逆に合戦後での遺体からの剥ぎ取りや、落ち武者狩りで得た武具・兵糧奪取なんかも、近隣の戦場地の農民の特権として、後処理の始末を兼ねて黙認されてっけど、回収した武具の数が多いと、商人達はかさばるから其処まで買ってくれねーし、領主に売ろうとしても二束三文処か、没収になる可能性が高い。

そういう時には彼奴等に売って、彼奴等は裏で売り捌くって訳よ。」

故買こばい(盗品等の訳あり品)を扱う故買屋としての側面を述べた。


この時代、戦勝軍は戦場地付近の住民に対し、補償的な意味合いで敗軍将兵の遺体から、武具・衣服・食糧等の回収を非公式に、暗黙のルールとして認めていた。


しかし実際には、陣地設営等の土木・建築を担う黒鍬くろくわ衆と呼ばれる、現代風に謂えば工兵の仕事である遺体処理を、黒鍬衆現場監督が近隣住民に押し付ける事が多く、「けがれ」と忌避される3K作業の報酬に等しかったのである。


又、落ち武者敗残兵狩りに関しても、集落総出で対処するのが普通であったが、強奪や賞金目当てと言うよりも、近隣住民からすれば敗残兵即ち、凶悪行為強盗殺人を自分達にしかねないであり、自衛の為に弱っている所を討ったり、自分達の周りから追い立てるのが、主目的であるのであった。


(まぁ、現代風に謂えば包丁持った奴が、自分の周りをうろうろしてんのと変わらねーんだから、そりゃ近隣住民も「殺られる前に殺る」になるのが、当たり前だわな。

警察処か保安官も居ねー時代なんだし)

世紀末社会だなぁと、実感する小吉である。


基本的に大名や領主のお膝元・城下町や村、余程発展した商業都市ぐらいしか奉行所警察機構は無く、各集落毎にマイルールを定めて、犯罪者を裁くのが普通であった。


それはさておき、


「ふ~ん、そんでその横流し品を今度は、蜂須賀のオッチャンが買い取って、尾張以外にも近隣諸国に転売して、利鞘りざや(差額分)で儲けてるって訳っスか。」

「まっ、そういうこったな。

つっても兄ぃの場合はよ、手下の面倒で殆ど消えちまって、なんぼちゃ幾らも思った程は手元に残らねーみてーだけどな。」

肩を竦めて、苦笑気味に語る長康。


「そんで領主側の方は、見ての通りだな。」

積み荷の運搬役=人夫と護衛を指差した。


「人夫や賄い兵傭兵としての役割を、山賊達にさせているって事ですか?」

「そういうこった。

常時雇いは維持費が掛かるから、経費節約を兼ねて必要に応じて臨時雇いで、地元に居座っている野伏り山賊達を使う事が基本だな。

流れ者を雇うよりも裏で繋がっている分、よっぽど信用出来るしよ。」

小吉の言葉に頷きつつ補足をし、


「ウチら同業とは違う、商人なんかが裏道を利用する時には、彼奴等山賊達は案内料をせしめて、案内料の一部を領主に上納しているし、領主はああいった連中を裏道にで、意図的に敵対関係の領主が利用しにくくさせているし、万一に備えて鳴子なるこ(警報装置)の様な役割も、担わしている訳だ。」

領主と山賊の関係性を述べる。


「ふ~ん、それを聞くと本当に持ちつ持たれつ、共存関係が成り立っているんスね~。」

「まっ、綺麗事だけでは世の中は成り立ってねー、良い実例だろうがな。

惣村・領主が揃って容認しているから、彼奴等は根を張って活動している訳だ。」

したり顔で山賊達の存在意義を述べた。


「おいおい長康、あんまり元服前の子供に生々しい話をするなよ。」

横から商人風の出で立ちに擬装した、秀吉が苦言気味に口を出す。


「いや~そう言っても殿、小吉坊には遠慮せんでも大丈夫っしょ?

山賊の塒で寝泊まりしても、平然とグースカ寝るぐらい豪胆ですし。」

「う~ん、そう言われるとなぁ~。

コイツ、殿信長にも※平気の平左へいざ抗命命令無視をする奴だし、否定が出来んわ。」

「・・・尾張一の豪胆者ですねコイツ。」

呆れ半分感心半分で小吉を見つめる。


(※平気の平左衛門へいざえもんの略語。

「平」の字を2回掛けする事で、物事に全く動じない事を表している古来の造語。

なので平左衛門は、「水死体」を意味する土左衛門どざえもん成瀬川なるせがわ土左衛門(江戸時代に実在した相撲力士)と違ってモデルは居らず、空想上の人物である)


「大概の者はのが、普通に当たり前なんですけども・・・。」

チラッと後ろを観て、荷車に荷物の如く乗せられて、憔悴状態グロッキーになっている若者を指す。


ノッブから鉄砲の目利きとして、同行している若者は橋本伊兵衛はしもといへえという名で、ノッブの鉄砲指南役・橋本一巴いっぱ(道求みちもと)の三男である。


伊兵衛は信長の弟弟子に当たり、伊兵衛自身も信長直属の鉄砲方に属し、鉄砲頭を勤めている者なのだが、流石に敵地のド真ん中に等しい、山賊の塒での寝泊まりには肝を潰したらしく、一睡も出来ず憔悴していた。


「・・・とりあえずこれ以上塒に泊まるのは、止めておくか?」

「ええ、経費節約にはなるっスけど、伊兵衛殿が下手に身体を壊されると、大殿に咎めを受けかねませんから止めましょう。」

秀吉と長康が相互に頷く。


そうして逞しい一行は、山賊の案内でスイスイ裏道を抜けて行き、夕暮れには宿屋に泊まりつつ、鈴鹿の関を目指すのであった。


そして・・・


「おう、皆の衆!此処までご苦労じゃった!

こっからが鈴鹿越えの難所じゃが、とりあえず今は英気を養って、鈴鹿越えを頑張ってくれや!!・・・という訳で乾杯~!」

「「「「「乾杯~!!」」」」」

秀吉の音頭で、一斉に杯を掲げる一行。


よく小説で有りがちなトラブル系のイベントや、美人・美少女とのハーレム展開的出会いイベントは一切、欠片も影も形も寸毫すんごうもなく、むさ苦しいオッサン山賊との出会いに終始した一行は、伊勢側の鈴鹿峠の入り口、「関宿せきやど」と呼ばれる宿場町に無事到着。


旅の垢を落として先ずは一泊した後、宿場町には必ずある存在である、風俗街に文字通り目の色を変えて、秀吉一行は突撃を敢行。


「慰労会」という名目で、色街のネーチャン達と座敷を借り上げて、ドンチャン騒ぎの宴会を行っていた。


(う~ん・・・秀吉が綺麗なネーチャン侍らして、エロ猿化してんのを観ると、嫁の弟としてモヤっとすると云うか、イラッとすると云うか・・・寧々姉さんにも釘をがっつり刺されてるから、一応は警告しとくか・・・)

両肩に指が食い込み青あざになる程の、力強い使命を絶対強者から命じられた下僕として、責務を果たそう保身に走ろうと動く。


「え~殿。」

「ん?何じゃい小吉。」

「奥方様からの言伝ことづてを、歌で表現しても良いでしょうか?」

「はい?寧々の言伝を歌で?

お前寧々に何か言われとんのか小吉?

まあ、余興で歌ってみろや。」

首を傾げて疑問符を浮かべつつ、小吉の要望を承認する秀吉。


「ははっ、では歌いま~す・・・~~~♪」

朗々と歌い出す小吉。


因みに小吉が歌っている歌は、余所の地で空を飛んで宅配業を営む、某魔法少女で流れる、「口紅のメッセンジャー」っぽい感じの曲である。


ポップな曲調とは裏腹に、「浮気女遊び」に入れあげている旦那に対し、嫁さんが姑にチクりに行くというエグい行程を歌った、とあるエロ猿には特効の曲であった。


最初は面白半分な面持ちだった、とあるエロ猿は小吉の歌に杯を落として、ドンドンと顔面を蒼白にしていき、


「おいっ!?おいおいおい!ちょっ!?ちょちょと待て!?待て待て待てって!?何なにナニ何で!?

えっ?母ちゃんの所に寧々が、女遊びの告げ口をしに行くってのか!?

あっ・・・ちゃう!コレちゃうから!慰労会!慰労会やてホントに!?部下をねぎらう為のモンやから、な!?」

小吉が歌い終わると同時に、現代でも普通に居そうな女遊びがバレたオッサンの如く、連々と自己弁護を重ねる秀吉。


「ヘぇーホぉーフーン・・・。」

「全く信じてねー!?」

「仮にも嫁の実弟の目の前で、遊女を両手に華で侍らした上、だらしなく鼻の下を伸ばしている姿を見せているのに、そんな戯言たわごとを信じるバカが居るとでも?」

半眼でド正論を宣う。


「待って待って!?母ちゃんに告げ口は止めてくんろ!

前シバかれた時には首が痛くなって、暫く寝不足になったんだからね!?

つーかお前儂の家臣だろ!?主君の危難を助長するのはおかしいだろうが!?」

哀怒の表情を目まぐるしく変える。


「すいませんが殿の家臣の前に、寧々姉さんの弟ですので当然、姉さんの味方です。」

キッパリと自身の保身を優先するゲス。


因みに小吉内ヒエラルキーは、寧々姉さん(神)≧≧≧≧越えられない断崖絶壁≧≧≧≧秀吉(神の使徒)≧秀長(予備候補)≧正勝・家次(利用価値高)≧長吉・家定・長康(利用価値有)≧ノッブ(財布)≧その他(モブ)となっており、生まれた時から姉ちゃんパワーを浴び続けた結果、逆らえない・逆らわないを魂に刻まれているので、何よりも寧々を優先するのであった。


「それに安心してください殿。」

ニッコリと優しく微笑んで、秀吉の肩にポンと手を置く。


「何じゃ、結局儂に味方するんだろ?」

「今回はお袋母君様で済みますので大丈夫です。

次回は大殿大六天魔王様ですから。」

「それ絶対に次がねーだろが!?文字通りクビになっちまうわ!

結局今回こっきりじゃねーかお前!

仏だって三度は許してくれるんだから、菩薩である寧々も許してくれるよな?」

チワワの如く縋る目で小吉を見つめる。


「仏だからこそ、三度許してくれるのですよ殿。

そんなに気にしなくても大丈夫ですって殿、え~と・・・ひのふのみいのよ・・・後十年ぐらいは大丈夫ですから多分。」

「妙に具体的な数字が怖いんだが!?

後十年で儂どうなるの?」

なまじっか現実味が有る為、不思議と生々しさを実感する天下人。


「まぁ、それは置いといて。

慰労会を部下の為にするのは良いですけど、大殿様の主命を未達成な状況で、殿自身も参加して騒ぐのは如何かと。

主命を果たした後になら、それは達成後の御自身のご褒美だからと、理解が出来ますが。」

キチンと仕事を全うしてからしろと、常識的な苦言を呈した。


「うぐう・・・しかしだな、こういったモノは上位者が真っ先にはっちゃっけぬと、部下も騒ぎ難いモノでな。」

「普通に「金は自分持ちだから、好きに騒いで楽しんでくれ」と言って、触り最初だけ参加して、サッと居なくなる方が部下も気兼ねなく騒げるし、部下からもカッコ良く観られて男が上がりますよ。」

秀吉の言い分を完封する小吉。


「えっ、そうなのか?」

「では、論より証拠で。

私の言い分に賛成の人は、手を挙げて~。」

「「「「「ハイ!」」」」」

小吉の呼びかけに長康達部下処か、遊女のネーチャン連中も一斉に手を挙げた。


「・・・うう、うまや番(馬の見張り番)の連中と交代してくるわ・・・。」

ガックリと肩を落として退室する。


「行ってらっしゃいませ~。」

笑顔で見送る。


こうして寧々の忠実な僕・小吉に依って、野郎の楽園を逐われた秀吉は、泣く泣くお馬さんの楽園馬小屋に行くのであった。


因みに小吉も、遊女達にヨイショされて有頂天になり、せがまれて「カムヒア、スプリング」的な、春を待ちわびる歌を歌ってしまい、遊女達のハートをブレイクさせて、大泣きさせてしまった結果、「営業妨害」と楼主オーナーに怒られて即時つまみ出され、仲良く秀吉と2人でお馬さんの世話をする羽目になる。


こうして紆余曲折を得つつ、京の都をえっちらほっちら目指す小吉達であった。


                続く



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る