第21話出世株筆頭・木下秀吉誕生と調略無双の理由。

「殿の美濃国人衆への調略が、上手くいく主要因のは1つ目には、美濃国内のにあります。」

「特殊な環境下、のう?」

はてなと首を傾げる。


「美濃の国は道三公以来三代、数十年に渡り国外勢力の侵攻を受け続け、常に防戦をし続けています。」

「まぁ、確かにそうだな。」

「しかしコレは裏を返せば美濃衆は、マトモに国外に侵攻した事がありません。」

「うん?・・・ふむ、確かにないな。

私の記憶だと美濃国内での、戦いに終始している記憶しか無い。」

言われてみれば確かにと頷く。


「そうなると、「ご恩と奉公」という大名と家臣の、基本的な上下関係を維持する恩賞を、斎藤家は一体何処から出しているのでしょうか?」

「それは無論、斎藤家に従わなかった国人衆からであろう。」

斎藤道三の下克上の際に従わずに敗れ、自家・森家の領地を奪われて追放された可成が、憮然とした表情で答えた。


「その通りです。

道三公は下克上に従わなかった、敵対者達から領地を奪って従った者達に分配し、謀反を起こした義龍も、敵方の道三公に味方して自分に敵対した者達から、領地を奪って分配する事で、国人衆からの支持を受けて、晴れて美濃国主に君臨する事に成功しました。」

初代・道三と、2代・義龍の状況を話し、


「しかし当代の龍興の場合は、今までの大殿様との小競り合いで、ドンドン先代からの貯金を使い込んでいき、マトモに分配する財布領地即ち恩賞の元手が、スッカラカンで殆ど無いのですよ。

宿敵・尾張に元手を得ようとしても、木曽川に防衛線を大殿様に構築されて、マトモな侵攻路が無くて覚束おぼつかず、かと言って他の他国に攻め入る事もままなりません。

つまりは美濃国内は、ご恩と奉公の関係性が崩れつつあると同時に、非常に閉塞感が漂う状況に陥っている訳です。」

当代・龍興の状況を説明する。


「ふ~む・・・斎藤家は今や貯金が無くなりジリ貧状態、と言う訳か。

義龍以降美濃国人衆は、斎藤家一本に纏まっている分、藤吉郎殿の調略を受けた者以外、離反者が出なくなっている様であるし。

徐々に美濃兵の集まりが少なくなっている、との報告を聞いていたが、小吉の予測通りで有れば、国人衆の人心が離れて当然の話ではあるか。

それに尾張以外に活路を見い出そうとしても、嫌でも尾張と他国の2面軍事行動になるから、我ら尾張勢の付け入る隙を大きくするだけで、却って害になるしな。」

腕を組んで小吉の話に頷きつつも、


「しかしそれなら、幾ら特殊な環境下だと言っても、藤吉郎殿と他の者も調略する条件は、全くの五分同じで変わるまい?

何故に藤吉郎殿と他者で成否が分かれるのかの、説明になっておるまいが。」

核心に至っていないのを指摘する。


(ヘーヘー慌てなさんなオッチャン。

此処までは大事な核心話の走り、プロローグみたいなモンだから)

内心で宥める小吉。


「ええ、確かには他の方々と条件は同じですが、此処からが両者のな違いがありまして。」

「ほう決定的とな、一体何かな?」

興味津々にズイっと身を乗り出す。


「先程森様が、徐々に兵が減っていると仰っていましたが、ではジリ貧状態の斎藤家がどうやって、我らが織田家に対する兵力を捻出していると思いますか?」

「そりゃ恐らく斎藤家が、自身の身自領と財産を削って捻出しているのだろう?」

何となく小吉の質問に答える。


「いえいえ龍興は、もっとえげつない方法で捻出している様ですよどうも。」

「えげつない方法?」

「はい、度重なる軍役に耐えれなくなり、軍役を拒否・拒絶する寄子よりこ(下っ端社員)の、土豪・地侍の領地を義務不履行として没収し、没収した領地を主兵力を担う寄親よりおや(幹部社員)に、恩賞として分配しているそうです。」

秀吉づてで聞いた話を可成に話す。


「ご恩と奉公」と言う、君臣の関係性が崩れつつある斎藤家=美濃国内では、周辺地域の頭として中小規模の国人である、土豪・地侍を管理・統括を斎藤家から任されている豪族親分格=寄親と、その寄親の管理・統括に従って行動している中小国人子分格=寄子という、擬似的な上下関係も崩壊しつつあった。


斎藤家は主兵力を担う、豪族寄親を自家の味方に繋ぎ止める為に、少数兵力しか持たない土豪・地侍寄子達を犠牲にして、恩賞を与えているのである。


「そ、そんな無茶苦茶な!?」

「まぁ、確かに無茶苦茶ですけど、大の虫多数兵力主を生かす為に小の虫少数兵力主を犠牲にするのは、兵力維持という観点に於いては、理には叶ってはいますからね~。」

感情は別としてと言い添える。


「そう言った事情ですので他者の方々は、大殿様に調略担当を直接談判出来る、つまりは寄親側の方々は、手柄を立てるのに手っ取り早いからと皮算用で、美濃の同じ寄親豪族連中に声を掛け、けんもほろろに突っぱねられただけでしょう?ど~せ。

美濃国内の事情をキチンと把握せず、現状で一応恩賞を貰って不満の少ない、寄親連中に調略を掛けてもそりゃ失敗しますよ。」

成るべくして成っていると述べた。


確かに大物で有る敵方の豪族寄親を調略出来れば、基本的には寄子である土豪・地侍も追従するので、間違い無く大手柄にはなるがその分当然、難易度は非常に高かった。


具体的には犬山攻略時の様に、主家滅亡寸前くらい切羽詰まっているか、絶対的な勢力差や主家との大きい確執、不平不満等がない限りは、余程の手土産恩賞等が必要となる為に利害調整が難しく、特に美濃国人衆内でも大手の豪族は、反織田感情がまぁまぁ強いので、かなりの難事であったのである。


「実際に鵜沼地域の寄親である、大沢家の織田家との関係感情が、敵対から中立に転んだのだって、殿が鵜沼の土豪・地侍といった寄子をドンドン口説き落とした結果、管理責任者である大沢家が斎藤家から、管理責任を負わされかねない事態に陥ったので、保身で日和ひよって中立に傾いたモノですし。」

秀吉と他者との目の付け所の違いと結果を、実例を以て説明する。


「ふ~むなる程・・・確かに他者は「美濃三人衆」を始め、主だった豪族寄親に調略を掛けたと申しておったな。

藤吉郎殿との差は、上から攻めるか下から攻めるかの差であるか。

それなら美濃に地縁のある私で有れば、寄子から攻めれば上手くやれるかな?」

自分を指差して自薦する可成に対し、


無理ですね。」

にこやか~に両手を交差し、バッテン印を作って断言する小吉。


「ぜっ、絶対!?何で!?」

「そりゃあ何でもクソも、森様も方々と同じだからですよ。

現状で美濃国内の土豪・地侍即ち寄子は、寄親である豪族の恩賞の当てにされている為、寄子の寄親に対する感情は、相当の不信感に凝り固まっており、そんな険悪な状況下で寄親側で有る森様が調略を掛けても、マトモに相手にはされませんから。

他の方々も同様ですけど。」

キッパリと言い切る。


「ぐぬぬ・・・。」

「そもそも森様達の寄親の大半は、寄子である土豪・地侍の苦労や悲哀を、先ず理解しておられないので共感を得られず、説得役としては不向きですから。」

「いやいや!私も苦労しているぞ小吉!?」

小吉の言い分に反論する可成。


「申し訳ありませんが、森様の苦労は寄親管理職としての苦労、謂わば雉や隼としての苦労であり、寄子下っ端には理解が難しいのですよ。

大殿様の大名経営者としての苦労、即ち鶴や鷹としての苦労を、我々には推し量れない様に、大名信長寄親可成寄子下級武士としての苦労、謂わば雀や燕の苦労を推し量るのは難しいでしょう。

最前森様が仰った、大殿様が殿が調略に成功して、他の方々が失敗する理由を、理解出来ないのと同じ様に。」

苦労内容の質層が違うと諭した。


現代風に例えれば、何処ぞの芸能人2世の苦労話を聞いても、大半の一般人は「食うに困らない金持ちの与太話」として、共感がし難い様に、一般人の生活の苦労話を芸能人2世にしても、「想像の埒外らちがい・別世界の話」として、理解され難いのと同じ理屈である。


「森様が部下達に、「アナタの苦労は理解していますよ」と言われると、複雑な心境になられる様に、部下達に森様が同じ事を言っても、「アナタに我々の何が解るの?」と表向きは笑顔で、内心では毒付かれて反発されているのと同じですね。」

現在進行形での実体験を述べ、


「身内でさえそんな心境になるのに、敵対している大名家の寄子に言えば、当然の如く猛反発されて、報奨金目当てと忠誠の証無実証明に、首を取られる(物理)のが関の山でしょうね。」

下手に調略を掛ければ、どういう末路を遂げるのかを話した。


「そ、そうなのか?」

「ええ、特に森様の首は、大殿様に次ぐぐらいの高値が付くでしょうから、問答無用で首を取られて献上されるでしょうねぇ。」

「うむ!私には不向きだな!」

コクコクと青い表情で理解を示す。


「殿は小者アルバイトで庶民出という最底辺弱者層からの叩き上げだからこそ、土豪・地侍に近しい観点・視点を以て接し、悲哀と苦労を共感出来るので相手も自然と、殿に対する警戒心即ち心の垣根が低くなり、「自分の事情を理解してくれる」と信頼感を持たれるので、殿の調略に寄子達中小国人は応じると同時に、調略に応じた寄子達の寄親は、管理責任を自動的に負わされる羽目に陥るので、済し崩し的に寄親も殿の調略に応じる訳です。」

秀吉流ドミノ倒し式風調略法を述べた。


実際に下手な土豪・地侍=寄子だと、土地持ち農民に毛の生えた程度の、ほぼ農民と変わらない生活を送っている者も多く、感性としては農民に近いので、可成を含む豪族重役=寄親感覚よりも、庶民出農民出の秀吉との親和性の方が高く、秀吉は出自的なハンディキャップを寧ろ武器にして、敵対大名家の土豪・地侍の懐に共感を以て、心中にスルリと入り込んで信頼関係を構築し、籠絡ろうらく=人たらしを成し遂げているのである。


血縁・地縁や所属勢力の大小を基に行う、一般的な武将がする調略とは異なる、無二に等しい庶民出の秀吉ならではの方法であった。


美濃攻略以後も決して武辺者武勇に優れた者でもないのに、織田家の先鋒を司る事が多いのは、織田家の地均じならし役=事前に敵地で調略を行った後の、調略済みの土豪・地侍との連絡役=道案内を、担っているからである。


それはさておき、


「なる程・・・下からの叩き上げだからこそ持てるモノ価値観・感性で、調略を次々と成功させているのか藤吉郎殿は。

そりゃ他者には真似出来んし、持たざる者が上手く行かないのも自然の理であるな。」

他者との違いに理解を示す。


「はい、ソレが殿と他の方々との違いで、成功するの要因ですね。」

「1つ目?2つ目も有るのか?」

「ええ、2つ目は厳しい人生経験から来る、説得力がにじみ出る言葉の重みと、相手の機微感情を態度や言動で読み取る、非常に優れた観察力と洞察力です。」

秀吉の持つ最強の武器を開示する小吉。


世に名を残した謀略家である、毛利元就・宇喜多直家といった人達や、調略家である豊臣秀吉・真田幸隆さなだゆきたか(真田信繁幸村の祖父)といった人達は、元々先天的な才能が有ったと同時に、幼少から青年期の間に悲惨・凄惨な体験を経て、後天的な経験から研磨されて覚醒した人達である。


弱者として虐げられていた彼等は、様々な世間の荒波という強者と接する事に因り、「如何に相手を怒らせない様にするか、機嫌よく自分の意見を通すのにはどうするか」を、観察して相手の態度・言動から読み取り、多数の失敗と成功を繰り返した事で、自然と洞察力を独自に体得したのであった。


又、こういった叩き上げの言葉と言うモノは、同年代で身贔屓や縁故で偉くなった者達(例:丹羽長秀・池田恒興)と比べて、重みや幅が段処か桁違いに変わり、相手の受け止められ方も全く別物であった。


現代風に謂えば同じ言葉を言っても、縁故採用の管理職のボンボンが言うのと、実績・実力を以て管理職に成った者が言うのとでは、周囲の人達の感情と納得度が、全然違うのと同じである。


因みに小吉的には、謀略は「相手の心の隙を突いて、攻撃をするモノ」として認識しており、調略は「相手の心に入り込んで、味方に引き入れるモノ」と認識していた。


それはさておき、


「そういう風に余人に得難いと言うか、進んで得たいモノではない経験を経て、殿は優れた観察力と洞察力を体得し、調略に活かしておられるのです。

口幅ったい事ですが殿のこの手謀略・調略の巧妙さは、同年代の丹羽様や池田様では足元にも及ばず、森様処か織田家中でも随一では?と私は思っております。」

自身の推論を述べて、


「それを以て殿は大殿様に、数百~数千貫もの戦費を使い、一尺寸土しか得れず一進一退している戦よりも、元手は殆ど無くて身1つ、舌先三寸を使って一里四方を得るという、を提供しています。

なので方々に調略を任せるのは、失敗する公算が高い上に、殿の調略にも支障を来たしかねず、大殿様のにもなりかねません。

その辺は特に大殿様に、森様から進言して頂ければ幸いです。」

可成に嘆願する。


暗に「下手糞にボンクラ共他の方々に引っ掻き回されると、秀吉の邪魔になるから止めさせろ、結果的に信長も大損するぞ」と、可成に警告を発したのであった。


「うむ、確かに左様だな。

殿の不利益になりかねんから、他者に調略を任せるのは止める様、進言致そうぞ。

・・・しかしまぁ、藤吉郎殿が次々と調略を成功させる、秘訣と言うか理由はなんとなく解ったが逆に小吉よ、何故年端の行かぬお前が、其処まで理解出来るのだ?

私としては寧ろそっちの方が、気になって仕方がないのだが?」

じと~と小吉を胡乱うろん気に見つめる。


「うぃ!?いやあまぁそれは・・・ええとねぇ色々、そう色々とありまして・・・察してください。」

思わぬ指摘を受けてしどろもどろになり、意味ありげに視線を逸らして、咄嗟に誤魔化しにかかる小吉。


(まさか前世の人生経験で得た予測です!とは言えねーしなぁ~)

脳内でボヤく。


小吉も前世では秀吉程ではないが、世間の荒波職場の上司・先輩に揉まれており、シバかれたり怒鳴られるのが嫌で、顔色を窺った経験から予測したモノであった。


まぁ、結果的に顔色を窺うよりも、シバかれたり怒鳴られるのが嫌なら、「自分から率先して動き、一刻も早く仕事を覚える」のが、1番の解決策だったのではあるが。


「そうか・・・お主、親に恵まれなんだのだなぁ、藤吉郎殿の辛酸を察する程に・・・。

驚く程、引くぐらい金銭に執着するのも、そういった事からか・・・良かったなぁ小吉よ、良い所の養子になれて・・・ぅぅ。」

何故か憐憫の表情を浮かべ、勝手に自己完結して涙ぐむ。


「はぁ・・・どうも?え~と・・・ありがとうございます?」

可成の急変振りに驚いて、言い淀みつつ返事をする小吉。


(確かに親には恵まれてねーけど・・・。

コレってもしかして森のオッサン、俺がオトンに虐待されて虐められてたと、勝手に勘違いしてねーか?

う~ん・・・まっ、良いか。

勝手に勘違いしてくれる方が俺には得だし、オトンの評判は最底辺のどん底だから、今更悪評の1つや2つ付与された所で、痛くも痒くもねーだろ)

容赦なく自己保身の為に、実父・定利を貶める事に決める真性のゲス。


「うんうん・・・おお、そうだ小吉よ。

伜の古着がまだまだ余っているのだが、良かったら貰ってくれぬか?」

やたら甲斐甲斐しくなる可成。


「えっ、いや~ありがとうございます。

え~と、うんしょとはい、出来上がりましたよ、御祖父様の姿絵。

お代として2百文頂戴しますね~。」

貰えるモンはしっかりと貰う精神と、仕事は仕事としてきっちりこなす小吉。


こうして小吉は3つの質疑応答に答えた上、さり気なく秀吉の利益=ノッブの利益として他者のボンクラ共を、秀吉が独占的な手柄を立てている美濃攻略から排除し、ちゃっかりと秀吉の利益を守り、脳筋連中には伊勢攻略の餌を撒いて食いつかせて、秀吉へのヘイトや攻撃を逸らし、自身はしっかりと大金を懐に入れたのであった。


(ウッヒッヒッヒ・・・いや~ボロ儲けボロ儲けで笑いが止まんねーわ。

・・・姉さん預金は危ねーから杉屋に預金しておこう・・・)

ニッコリと黒い笑みを零す男・小吉。


秀吉とは規模こそ違うが、舌先三寸で数千万円分の稼ぎを出すこの男も、有る意味でただ者ではないかも知れなかった。


                続く


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