第20話東西隣国に対する、小吉的予測と方策。

「え~先ず1つ目の、三河一向一揆の件ですが、放置一択で宜しいかと。

下手に大殿様に介入される方が、松平家にとってはになりますので。」

「あ、有り難迷惑!?何故にそうなる!?

援軍が有った方が、松平家も良かろう?」

小吉の意外な答えに、目を白黒させる。


「松平家は今川家と手を切り、独立独歩で織田家と同盟を結んだ訳ですよね?」

「左様、その通りだ。」

コクリと頷いた。


「今回の三河一向一揆は、松平家にとっては内輪もめ、即ち内乱に等しいモノです。

つまり一向一揆という名の内乱を、自力で制せないと三河国人衆からは、「頼り無し」と観られますし、織田家の援軍を得て制しても、「松平家の従属先が、今川家から織田家に変わった」だけに観られ、松平家の求心力が落ちてしまうのですよ。

云わば松平家没興の試金石ですね、三河一向一揆というのは。」

松平家の心情を予測した後、


「なので我ら織田家側からすれば、向こうから援軍を頼む様ならば、「松平家に自力解決力は無し」見なし、織田家に取り込む事を検討すべきですし、解決したならば「松平家は頼りになる」と、そのまま東側を任せれば良いだけです。」

向こうからの要請が無い限り、こちらは介入しない方が利になると諭す。


「ふむう・・・どう転んでも織田家の損にはならんか・・・しかしそれなら一向一揆の方はどうなる?

もし尾張一向宗が加われば、幾ら松平家でも抗しきれまい?」

1番の懸念事を指摘する。


「それは大丈夫です。

三河一向一揆に尾張一向宗が加担する事は、に有りえません。」

「絶対!?何で言い切れるのだ小吉!?」

ズバッと言い切った小吉に、素っ頓狂な声を上げて驚く可成。


「もしも三河一向一揆が松平家を倒せば、高い可能性で三河全域を席巻し、加賀の国の様に一向宗の領土になるのにか!?」

「ええ、それでもです。」

「???訳が解らん!どういう事だ一体?」

「森様が仰っている事は、三河一向宗のであり、尾張一向宗の利と理にはです。」

利害と理由が一致しないからと述べる。


「???解らん?」

「え~では織田家で例えた場合、本山の石山本願寺が大殿様、三河一向宗がうちの木下家、尾張一向宗が森様の森家と仮定し、松平家を今川家と致します。」

「ふむふむ。」

「森様が仰っている事は、木下家三河一向宗今川家松平家が抗争をしている最中、森家尾張一向宗が木下家の援軍に入れば、今川家を倒せた上で今川領三河国を、織田家本願寺の領地に出来るとの事ですよね?」

「うむ、そう言う事だ。」

コクコクと頷く。


「森様の仰る通りそうなれば、確かに間違いなく木下家三河一向宗と、織田家本願寺の利益にはなりますがその分、森家尾張一向宗軍需物資武具兵糧手弁当自前恩賞褒美は一切無しな上に、戦死者の遺族恩賞は全て自腹、一尺寸土も領地が増えない状態になりますけど、それ・・・納得されます?

ついでに旧今川領三河の国は全土、木下家三河一向宗知行地領地になりますが。」

「納得する筈なかろうが!?」

小吉の話に激昂する可成。


「そんな無茶苦茶不条理な話に、何処の誰が応じるのだ小吉よ!?・・・うん?あれ?と言うことは、三河一向一揆に尾張一向宗が組した場合、尾張一向宗は小吉の言った状況・立場になるのか!?」

「そういう事ですね。」

正解~とばかりに頷く小吉。


現状で尾張一向宗が三河一向一揆に組しても、三河一向宗の勢力が拡大する利にしかならず、尾張一向宗は骨折り損の草臥くたびれ儲け、1文の得にもならないのである。


現代風にこの時代の一向宗を例えれば、石山本願寺を本社に各都道府県別に支社があり、それぞれに県境等で営業区域を分けて、各支店が独立採算で営業している、赤いポストが目印の某半民営企業の状態に近かった。


一向宗も某半民営企業と同じく、縄張り意識とライバル意識が強く、横の連帯感が全く無くてしのぎを削っており、ちょくちょく利害得失が衝突して、同じ一向宗なのに各地域の一向宗同士が、縄張りを巡って険悪な関係であり、北陸地方の一向宗などは、度々内戦状態に成る事も珍しくなかった。


その様に各支社が、お互いに競合相手と見なしているので、自身が損失をかぶってまで、他支社他一向宗を助ける事は皆無に近く、史実でも本山の決起呼び掛けに呼応して、各地域の一向宗が蜂起したが、各自がバラバラで好き勝手に動き、協力も助け合う事も殆どなく、逆にその間隙を信長に突かれ、各個撃破されて敗れ去っている。


そして伊勢長島一向宗は、本山の決起に応じて一揆を起こしたが、尾張・三河一向宗は静観を決め込み、決起に応じなかった様に、例え本山の命令でも、利と理が合わなければ動かないのを、史実が証明していた。


「う~む・・・それなら先ず尾張一向宗が、三河一向宗にかかずる事は無いな。」

「ええ、それに万一援軍を派遣したら、三河一向宗に、好き勝手に尾張門徒を使われるだけですしね。」

「な!兵権指揮権まで取られるのか!?」

本当かよ!?と言った表情で驚く。


「はい、ウチや森家の兵はそれぞれ個別に雇用し、ちゃんと家別のが付いていますけど、一向宗門徒の兵はで一括りされますし、上下関係が厳格且つ同じ組織内なので、そのまま三河一向宗のお偉い方、高位者である上人しょうにん(高僧の尊称=地域宗派のトップ)とかの指揮下に入ってしまいますから。」

所属別に扱われずに同組織序列の扱いで、全自動で兵権が移譲する理由を述べる。


「・・・そりゃ絶対に援軍などせんわな。

尾張一向宗には何の恩恵も無く、自分の所の門徒の兵権まで奪われて、使い潰されるだけで保障も無しなぞやってられんわ。」

心底理解した可成であった。


「あ~とりあえず三河は、そのまま放置で良いのが解った。

次の伊勢攻略はどうだろうか?」

げんなりとした口調で次項に移る。


「現状の所はどうなのですか可成様?

誰か交渉をしているのでしょうか?」

「一応、鯏浦に居る一益が蟹江に居る時から、将来を見越して外交交渉をしているが、大きい豪族は論外で中くらいの土豪が、やっと話に応じるぐらいの没交渉具合らしく、中々に難儀している様だ。」

小吉の質問に、スラスラ現況を教える。


(う~ん・・・やっぱ相手にされてねーか。

史実でも実力で制しても中々従わず、大手勢力の家に自身の息子や弟達を、強引に養子に送り込んでといった、強硬手段を以て治めた土地柄なだけあるわ)

可成の情報に、さもありなんと納得する。


「伊勢に関しては調略がので、原則武力行使の一択ですね。

一応は大義名分を得て攻め込む、小細工はした方が良いと思いますが。」

「ふむ?調略が通じない?これ又何故に?」

小吉の説明を訝しむ。


「伊勢は大手勢力である、神戸・関・長野・北畠家はもとより、数多の土豪・地侍の中小勢力に至るまで、鎌倉期前後から続く古い名門が多く、口幅ったい事ですけどポッと出の、織田家と言うより大殿様では、家格の差で下に観られてしまい、恐らくマトモには相手にされません。」

言いにくそうに話す小吉。


神戸・関家は元々同族(本家は関家)で、歴とした鎌倉期からの名門であり、特に神戸家は北畠家から何代か前に、養嗣子(跡継ぎの養子、婿養子)を貰っている為、公家出身の三国司・北畠家とも親戚であった。


そして長野家は元々工藤姓であり、曽我そが兄弟の親の敵討ちで有名な、曽我兄弟の仇敵・工藤祐経くどうすけつねの末裔であり、北畠家は言わずもがな貴族家であった。


そうした名門の分家や末裔が、中小勢力の土豪・地侍としても伊勢には、ゴロゴロと普通に存在しており、当然の如くプライドが高い為、自称平氏の出自(笑)という胡散臭さ全開のノッブでは、見下されて相手にされる可能性は、かなり低いのである。


実際に実力で敗れて降伏した神戸家は、ノッブの息子・信孝のぶたかを、降伏時の条件で婿養子に迎え入れているが、自分の主君になったノッブの子・信孝をイジメて冷遇しているし、関家も同様に降伏しているのに、信孝を見下す態度を堂々と取っていたらしく、プライドの高さは筋金入りであった。


まぁ、その事実を知ったノッブは当然激怒し、両家の一族一門を悉く処刑して、当主は幽閉禁錮刑されて領地没収、両家共に家系断絶状態に追い込まれているが。


それはさておき、


「う~ん・・・そう言われるとそうかも知れんが、それなら美濃の国人衆も名門が多いのに、殿処かスマンが庶民出の藤吉郎殿の、調略に応じるのはおかしくないか?」

素朴な疑問点を呈す。


「美濃の方は土岐公の時代なら兎も角、道三公の代からの内乱を経て先代様織田信秀を含む、国外勢力の侵攻を受け続けた結果、「己が生き延びるには実力者即ち、強者を見極めて付くしかない」という風潮が、嫌でも自然と身に付いた結果かと。」

美濃側の現状で予測し、


「逆に伊勢の方は、国外勢力の侵攻が殆どなく、国内での小競り合いに終始している感じなので、実力者即ち家柄・血筋といった、古い価値観に捕らわれている、旧態依然の思考からだと思います。」

伊勢側の現状を予測して、疑問に答えた。


実際に北部の神戸・関家は、伊勢の北に位置する南近江の名門守護大名・六角家とは、隣郡の日野郡の豪族・蒲生がもう家との、婚姻関係を通じて繋がりを持っているが、東の尾張の覇者・織田家はガン無視している。


「う~む、確かにな。

「井の中の蛙、大海を知らず」といった風情で、視野狭窄に陥り殿の実力を見誤って、過小評価をしているのか・・・舐めおって。」

静かに怒気を膨らまして唸る可成。


(おおう・・・キレてるキレてるぅ。

まぁ、織田家随一のノッブ信者である、森のオッチャンからすれば、推しメンを侮辱されてるよーなもんだから、キレて当然だわな)

青筋を浮かべている可成を観て、前世に居たとあるアイドル狂信者の、知人を思い出した小吉であった。


「それで小吉よ。

そんな不届き千万なクソ共を、たちどころに族滅させる方策はないか?

百貫までなら出すから頼む。」

血走った目で微笑むノッブ狂信者。


「いやちょっと、落ち着いてください!?

そんな猫いらず殺鼠剤みたいに、バタバタ倒せる様なトンデモ方策、有る訳ないでしょ!?

そーいう目暗連中は、それこそ実力を思い知らせれば良い話でしょうに。」

どうどうと宥める。


「まぁ確かに首をねじ切って、晒し首にしてやるのが1番か・・・して、攻め込むのに小細工が云々と申しておったが、どの様な大義名分を掲げるのだ小吉よ?」

落ち着いた口調で尋ねる可成。


基本的に大義名分と言うのは、古今東西を問わずかなり重要なモノであり、「こうこうこういった理由を以て、アイツと戦争します」と周囲に喧伝する事で、周辺勢力が敵味方・中立に分かれて鮮明化し、自分に有利な状況を作る行為であった。


まぁたま~に、ノッブの様にトンチンカンな大義名分を掲げて、周辺勢力を自動的に敵にしてしまう、とってもな状況を作る者も居るには居るが。


逆に大義名分を掲げずに攻め込むと、周辺勢力からは「我々を滅ぼしに来た侵略者だ!」と認識され、問答無用で全てが真っ赤な敵だらけになるので、必死の抵抗を受けて泥沼化し、例え戦争に勝っても民衆感情的に怨恨が深くなり、マトモな統治すらままならない事態に、なりかねなかった。


なので滝川一益が、外交交渉で難儀して没交渉な伊勢事情では、大義名分の取っ掛かりが無く、大義名分を作るのが難しいのである。


「まぁ古典的なモノですけど、敵対勢力に押されて参っている弱小勢力に、此方こちらが問答無用且つ勝手に、をして大義名分にするべきかと。」

「??恩義の押し売り?なんじゃそりゃ?」

小吉の突拍子も無い話の内容に、首を傾げて幾つも疑問符を浮かべる。


「テキトーに国境付近の弱小勢力(地侍)と、仲の悪い敵対勢力(土豪or地侍)を見繕って、「我が織田家はの弱小勢力を助ける為、敵対勢力を倒します!」と銘打って、恩義の押し売りで大義名分を作り、問答無用で敵対勢力を滅ぼす作戦ですね。」

ニッコリと笑顔でエグい作戦を述べるゲス。


小吉の作戦内容を分かり易く言うと、某ガキ大将がよく使う、「心の友よ」作戦である。


都合良く弱小勢力を「心友」に、勝手に認証して敵対勢力を攻め込む、大義名分に利用して弱小勢力の援軍として兵を送り込み、敵対勢力を問答無用で倒して、伊勢攻略の足掛かりにした上で「心友」認定を繰り返し、そのまま伊勢を制圧する作戦であった。


「いやいや小吉!?そんな強引な話が通じるのかそれ!?」

「当事者達がどう思おうと関係ありません。

大事なのは周辺勢力がですので。

端から観れば、「弱小勢力が織田家に泣きついて、織田家を引き入れた」ぐらいの認識になるでしょうし。

滝川様お抱えの乱波を使い、伊勢国内に流言飛語をさせれば尚良しですしね。」

ワザと誤認させて、織田家の行動を正当化させる方策を述べた。


「ううむ・・・有りと言えば有りか。

しかし出汁にされた弱小勢力が、そんな強引な事を認めるか?」

腕を組んで小吉の作戦を認めつつも、別の疑問を呈した。


「別段認めなくても問題ありません。

敵対勢力が弱小勢力に、破れかぶれで攻め込んで来る危険性が有る名分で、(監視兼始末用)を弱小勢力の領地内に残して置けば、どうとでもなりますから。

そのまま受け入れる従うなら良し、受け入れないなら「恩知らず」として、堂々と始末出来ますしね。」

一区切り付けた後、


「さすればで、要らぬ情報が漏れる心配がなくなりますし、領地も獲得出来ると一石二鳥になるだけで、織田家や森様達には何の損失も無いですので。」

丸儲けですよと、可成に告げる。


「お、おおう・・・た、確かに左様だが。」

余りにえげつない小吉の方策に、歴戦の可成もたじろぐ。


「お主伊勢国人衆に、怨みでも有るのか?」

「はい?いえ、別に全くありませんけど?」

コテンと首を傾げる小吉。


(こ、こやつ・・・しれっと何気なく天魔悪魔もたじろぐ様な、恐ろしく禍々しい方策を思いついているのか?)

戦慄する可成。


(まぁ、怨みはねーけど、織田家内の武断派の脳筋連中の視線が、伊勢攻略に行ってくれりゃあ、殿に対する嫉妬や敵愾心が逸れるから、そう言う事情で誘導はしてるけどな)

伊勢攻略を誘発しているのを、内心でコッソリ呟くのであった。


「え~こほん、伊勢攻略の方策に関しては、理解したので殿に御報告致そう。

それでは最後に、藤吉郎殿の調略成功と、他者の失敗に関しての話を聞こうか?」

咳払いをして姿勢を正す。


「あ~はい、では説明をさせて貰います。」

最後の問題を述べていく小吉であった。


                 続く

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